アイアス(読み)あいあす(英語表記)Aiās

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイアス」の意味・わかりやすい解説

アイアス(大アイアス)
あいあす
Aiās

ギリシア神話の英雄。サラミス王テラモンの子。ホメロスの『イリアス』ではアキレウスに次ぐ勇将であり、ギリシア軍がアキレウスの不在で危機に瀕(ひん)したときは、先頭にたってトロヤ勢を撃退し、敵将ヘクトルとも単独で闘って負傷させている。また、英雄パトロクロスの葬送競技では、オデュッセウスと格闘を競い、引き分けとした。彼の名は、父テラモンを訪れたヘラクレスがライオンのように強い子を彼に授けるようにと祈ったところ、ゼウスが鷲(わし)(アイエトス)を同意のしるしに送ったことにちなむといわれている。並外れた巨体と豪力の持ち主で、気位が高かった。アキレウスの死後、その武具をめぐってオデュッセウスと争ったが、相手の勝利となると怒り狂い、家畜の群れをギリシア人と信じて殺戮(さつりく)したため、やがてその恥ずべき行為に気づいて自殺する。彼の死体の血からはヒヤシンスの花が生じたが、その花弁には彼の名の最初の2文字(アイ)がしるされていたと伝えられる。ソフォクレス悲劇アイアス』はこの伝説に取材したものである。

[小川正広]


アイアス(小アイアス)
あいあす
Aiās

ギリシア神話の英雄。オイレウスの子で、トロヤ戦争にはロクリス人を率いてギリシア軍に参加した。小柄で足が速く、つねに大アイアスと比較されるが、大アイアスに比べて歴史上の人物である可能性が強い。しかし性格は傲慢(ごうまん)、残忍で、トロヤ陥落のとき、アテネ神殿に逃れたカッサンドラ神像とともにむりやり引きずり出すという暴挙に出たため、怒ったギリシア人は彼を殺そうとした。危うく難を逃れたアイアスは、帰国の途中女神アテネの送った嵐(あらし)で難破し、一時は海神ポセイドンに救われて暗礁に乗り上げるが、アテネの憎しみにも勝ったと自慢してふたたびアテネの怒りを招き、ポセイドンの三叉(さんさ)の槍(やり)で岩を割られて溺死(できし)した。その後も女神の怒りは解けず、ロクリスの人々は疫病と飢饉(ききん)に苦しめられ、神託に従って毎年娘を2人ずつトロヤのアテネ神殿に送らねばならなかった。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アイアス」の意味・わかりやすい解説

アイアス
Aias; Ajax

ギリシア神話の人物。
(1) 大アイアス サラミス王テラモンの子。『イリアス』ではアキレウスに次ぐ英雄として,アキレウスが後方にひきこもったあと,ギリシア陣営の主軸としてトロイ軍と戦った。アキレウスの死後,その鎧をオデュッセウスと争ったが敗れた。ソフォクレスの悲劇『アイアス』では,彼は絶望の結果気が狂い,ヒツジの群れをギリシア軍勢と見誤って切り殺したあげく,戦利品であるヘクトルの剣で自殺した。
(2) 小アイアス ロクリス王オイレウスの子,トロイ遠征に参加。小柄であるが,アキレウスに次ぐ駿足の持主であった。トロイ陥落のおり,カッサンドラをアテナ女神の神像の前で犯し,この罪の罰である石打ちの刑は危うく逃れたが,帰国の途次,船が難破し,岩に漂着したところをポセイドンによって溺死させられたとも,アテナにより雷で打たれて死んだともいわれる。

アイアス
Aias

ギリシアのソフォクレスの悲劇。トロイ伝説に取材した作品で,現存するソフォクレスの悲劇のなかで最も古いものとされている。アキレウスの死後,アイアスは名誉を奪われたくやしさに発狂し自殺する。劇の後半部はアイアスの埋葬礼の是非についての論争とその決着が主要部分を占める。

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