ギリシア伝説の2人の英雄。ともにトロイア戦争で活躍した。(1)サラミス王テラモンTelamōnの子。巨大な体軀の持主で,大アイアスとも呼ばれる。武勇一点張りの闘将として,つねにギリシア軍の先頭に立って奮戦,しばしばトロイア軍の総大将ヘクトルと闘った。アキレウスの死後,その遺品の武具をめぐってオデュッセウスと争い,それがオデュッセウスに与えられたとき,憤慨のあまり発狂した彼は羊群を仇と信じて殺戮(さつりく)したが,正気に戻ってからみずからの行為を恥じて自害した。ソフォクレスの悲劇《アイアス》はこの話に取材した作品。(2)ロクリス王オイレウスOileusの子。背は低いが,投げ槍にすぐれ,ギリシア軍中,アキレウスにつぐ駿足を誇った。小アイアスとも呼ばれる。トロイアの陥落時,女神アテナの祭壇に逃れたトロイア王女カッサンドラを力ずくで引きずり出して犯したため,帰国の途中,神の送った嵐に船が難破し,おぼれ死んだ。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話の英雄。サラミス王テラモンの子。ホメロスの『イリアス』ではアキレウスに次ぐ勇将であり、ギリシア軍がアキレウスの不在で危機に瀕(ひん)したときは、先頭にたってトロヤ勢を撃退し、敵将ヘクトルとも単独で闘って負傷させている。また、英雄パトロクロスの葬送競技では、オデュッセウスと格闘を競い、引き分けとした。彼の名は、父テラモンを訪れたヘラクレスがライオンのように強い子を彼に授けるようにと祈ったところ、ゼウスが鷲(わし)(アイエトス)を同意のしるしに送ったことにちなむといわれている。並外れた巨体と豪力の持ち主で、気位が高かった。アキレウスの死後、その武具をめぐってオデュッセウスと争ったが、相手の勝利となると怒り狂い、家畜の群れをギリシア人と信じて殺戮(さつりく)したため、やがてその恥ずべき行為に気づいて自殺する。彼の死体の血からはヒヤシンスの花が生じたが、その花弁には彼の名の最初の2文字(アイ)がしるされていたと伝えられる。ソフォクレスの悲劇『アイアス』はこの伝説に取材したものである。
[小川正広]
ギリシア神話の英雄。オイレウスの子で、トロヤ戦争にはロクリス人を率いてギリシア軍に参加した。小柄で足が速く、つねに大アイアスと比較されるが、大アイアスに比べて歴史上の人物である可能性が強い。しかし性格は傲慢(ごうまん)、残忍で、トロヤ陥落のとき、アテネ神殿に逃れたカッサンドラを神像とともにむりやり引きずり出すという暴挙に出たため、怒ったギリシア人は彼を殺そうとした。危うく難を逃れたアイアスは、帰国の途中女神アテネの送った嵐(あらし)で難破し、一時は海神ポセイドンに救われて暗礁に乗り上げるが、アテネの憎しみにも勝ったと自慢してふたたびアテネの怒りを招き、ポセイドンの三叉(さんさ)の槍(やり)で岩を割られて溺死(できし)した。その後も女神の怒りは解けず、ロクリスの人々は疫病と飢饉(ききん)に苦しめられ、神託に従って毎年娘を2人ずつトロヤのアテネ神殿に送らねばならなかった。
[小川正広]
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…(1)サラミス王テラモンTelamōnの子。巨大な体軀の持主で,大アイアスとも呼ばれる。武勇一点張りの闘将として,つねにギリシア軍の先頭に立って奮戦,しばしばトロイア軍の総大将ヘクトルと闘った。…
… ソフォクレスの《アンティゴネ》では劇中対話の彫琢技術はアイスキュロスを凌駕しているが,作品全体の構造はまだアイスキュロスに近い。しかし《アイアス》では,恥辱にまみれた誇り高い一人の男が最後の決断に至る苦悶の過程を一本の筋とし,彼の選択の意味づけを劇の結末とする。この構造はソフォクレス悲劇の基本を画しているといってよい。…
※「アイアス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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