古代ギリシアの重要な女神。アテネAthēnēともいう。知恵,学芸,工芸,戦争をつかさどり,ローマ神界のミネルウァにあたる。彼女はもともとギリシア先住民族の女神で,ミュケナイ時代には王侯の宮殿が立つアクロポリスの守護神であったが,やがて政体の変化とともにポリスそのものの守護神,さらにはポリスの存続・発展に不可欠のさまざまの技術や学芸の女神となったものと考えられる。神話では,ゼウスとその最初の妻メティスMētis(思慮の女神)の娘とされ,メティスから生まれる男子は父の王座を奪うだろうとの予言におびえて妊娠中の妻をのみ込んだゼウスの額から,すでに成人し,武装した姿で飛び出したという。彼女の崇拝の中心地であったアテナイとの関係については,かつて彼女と海神ポセイドンがこの町の領有を争ったおり,海神が三叉の矛を一撃してアクロポリス上に馬(一説では塩水の泉)を出現させたのに対して,彼女はオリーブの木を生じさせた。これを見た神々は後者の方が住民に有益な贈物と判定し,アテナに軍配をあげたので,以後この町は彼女の庇護下におかれ,その名もアテナイと呼ばれるようになったと伝えられる。ギリシア各地のアテナ神殿のうちでも最も名高いのはアテナイのアクロポリス上のパルテノン〈処女神宮〉で,ここに名匠フェイディアス作の女神の金象牙像(模作が現存)が安置され,プロピュライア(アクロポリスの入口をなす前殿)には同じ作者のアテナ・プロマコス(〈護戦者〉の意)の巨像がそびえていた。また市民が彼女の祭儀として盛大に挙行したパンアテナイア祭の行列が同神殿のフリーズに浮彫にされ,いまも往時をしのばせている(一部は原位置,他はアクロポリス美術館および大英博物館所蔵)。美術作品では,通例,冑,槍,ゴルゴンの首を中央につけた盾で武装した姿に表現され,前5世紀のアテナイではしばしば彼女の聖鳥フクロウを伴わせた。
執筆者:水谷 智洋
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…ゼウスは敵に対して実際には右手で雷霆(らいてい)を投げる天空神であり,アイギスは左手に振りかざす〈雷雲〉の象徴と解釈される。怪物ゴルゴンの首と黄金の総(ふさ)で飾られ,ときにはアテナおよびアポロンに貸し与えられた。この語が造形美術では,もっぱらアテナの外衣として用いられる。…
…その名はクモの意。オウィディウスの《転身物語》によれば,彼女は小アジアのリュディア地方の寒村に住む機織の名手であったが,慢心して技芸の女神アテナに技競べを挑み,一点の非の打ちどころもないみごとな織物を織り上げたものの,それを女神に引き裂かれ,絶望して首をくくった。しかし彼女は女神に命を救われ,腹から糸を吐いて機織に励むクモに変じられたという。…
…壊滅を免れた抒情詩ではピンダロスとバッキュリデスの作品が重要である。アテナイの悲劇作品はほとんどが神話伝説を取り扱い,多くの物語の細部を発展させつつ伝えている。ヘロドトスの歴史書,時代は下るがパウサニアスの《ギリシア案内記》はときに貴重な地方的神話伝説を伝えてくれる。…
…ギリシア伝説で,パラス・アテナPallas Athēna(パラスはアテナ女神の呼称の一つ)の像。トロイアの建設者イロスの祈りにこたえてゼウスが天より下したもので,この像が存するかぎりトロイアの安全は保証されたが,のちのトロイア戦争の際,オデュッセウスとディオメデスに盗み出され,戦後,ギリシアへ運ばれた。…
…〈全アテナイの祭〉という意味。古代ギリシアのアテナイにおける最も重要な祭典。…
…また,フクロウの声がしているときに生まれた子は一生不運につきまとわれるともいう。しかし女神アテナ(ローマのミネルウァ)の聖鳥でもあることから,知恵の象徴ともなり,眼鏡をかけて本を読むフクロウの戯画が学者への風刺としてしばしば描かれる。【荒俣 宏】。…
※「アテナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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