日本大百科全書(ニッポニカ) 「アミール・ハビービー」の意味・わかりやすい解説
アミール・ハビービー
あみーるはびーびー
Amīl abībī
(1922―1996)
パレスチナの作家。1948年のイスラエル建国後も占領下パレスチナにとどまって活躍した左翼作家で、アブウ・サラームの通称をもつ。1940年ごろからイスラエル共産党に入り政治運動と創作とを開始し、以後、政治と文学は一貫して彼の活動のなかで融合を遂げた。作家として知られるようになったのは、1968年に『アル・ジャディーダ』紙に掲載され翌1969年単行本となった『六日間の六つの短章』と、『楽観かつ悲観主義者、サイード・アブウ・ナハスの失踪(しっそう)における奇妙な事実』(1974)とによってであり、とくに後者は大きな反響をよんだ。占領下の祖国パレスチナから、占領体制下の厳しい検閲を、幾重にも屈折した比喩(ひゆ)的表現と辛辣(しんらつ)な諧謔(かいぎゃく)の精神によってくぐり抜けて産声をあげたこの作品は、難民となって異郷にあるパレスチナ人に大きな衝撃を与え、また勇気づけた。その後、戯曲『ルカウ・ブン・ルカウ』(1980、「犬畜生の子等(ら)と同じ蔑視(べっし)の辞」の意)を出版した。1992年、イスラエル政府が彼にイスラエル文学賞を授与すると発表すると、アラブ側から猛反対の声があがったが、彼はアラブの文学がイスラエルによって初めて認められたとし、イスラエルとの相互理解の一歩となるとして受賞を受け入れた。
[奴田原睦明]