日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラヌス」の意味・わかりやすい解説
アラヌス(リールのアラヌス)
あらぬす
Alanus de Insulis
(1128―1202)
フランスの詩人、神学者。リールに生まれ、パリで教壇にたち、シトー会修道院で晩年を送る。『神学定式集』Regulae de sacra theologia、『神学語彙(ごい)集』Distinctiones dictionum theologicalium、『異端駁論(ばくろん)』De fide catholica contra haereticosなどの神学書を著しキリスト教を弁護して異端説を退けた。一方、寓意(ぐうい)物語『自然の嘆き』De planctu naturae、『アンティクラウディアヌス』Anticlaudianus(1182/1183)を書き、広く読まれた。後者は天上の超越的世界への飛翔(ひしょう)と、新しい完全な人間の創造を主題とする長編叙事詩で、ダンテの『神曲』(天国編)構想の源泉の一つといわれている。ドイツのフランス文学者E・R・クルチウスは「一身に詩人、哲学者、思想家を兼ねる優れた精神」と評している。
[柏木英彦 2015年1月20日]
『柏木英彦著『中世の春』(1976・創文社)』