日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルコール植物」の意味・わかりやすい解説
アルコール植物
あるこーるしょくぶつ
アルコールの原料となる植物の総称。酒類のアルコール飲料やパンの製造は人類が古くから自然現象より学び得た文化の一つで、アルコール発酵と深くかかわっている。工業用アルコールは従来発酵法で安くつくられてきた。一方、エチレンを原料とする合成法は石油資源の高騰で後退している。トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、キクイモ、どんぐりなど(デンプン原料)を糖化してつくったり、製糖工程の際にできる廃液の糖蜜(とうみつ)(糖質原料)を使ったり、セルロース(繊維質原料)も活用されるようになっている。これらの発酵によってできたものは工業用エチルアルコールで、有機溶媒、塗料、ホルマリンや薬品の製造、化学原料などとして重要である。また代替エネルギー源として内燃機関の燃料用に脚光を浴びている。
アルコール類は天然に植物精油や蝋(ろう)(一価アルコール)、油脂(三価アルコール)、テルペン(不飽和アルコール)として存在するが、この項では脂肪族飽和一価アルコールのなかのエチルアルコール(エタノール)だけに限った。
糖質原料は、直接酵母菌によってアルコール発酵が進行するが、デンプン原料や繊維質原料では発酵に先だって発酵性の糖類に転換する必要がある。糖化作用に麹(こうじ)、麦芽など酵素を利用する発酵法と、塩酸か硫酸による加水分解法がある。
熱帯、亜熱帯地方のタピオカデンプン、サトウキビやパイナップルの絞りかす、藁(わら)、タケ、木材のくず、雑木の枝など、無尽蔵にある繊維質資源は、アルコール原料として期待がもたれ研究が盛んに行われている。
[許 建 昌]