日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルメニア語」の意味・わかりやすい解説
アルメニア語
あるめにあご
インド・ヨーロッパ語族の一語派。300万人を超えるアルメニア共和国の公用語だが、周辺のジョージア(グルジア)、アゼルバイジャン、イラン、トルコ、ギリシア、インドにまで話し手が分散している。アルメニアという名は古代ペルシア帝国の碑文に現れ、古代史家も用いているが、その話し手はハイHayと自称していた。この名称は『旧約聖書』にみる地名ハッティHattiに由来するという説もあるが、正確には不明で、おそらく古代史家の伝えるとおり、小アジアのどこからか移住してきたことを暗示するものである。この地は長く異民族、とくにペルシア系の王朝の支配下にあったためにその影響が強く、イラン系の語彙(ごい)が大量に入り、長い間イラン語の一つと見誤られていた。その歴史は5世紀の聖書訳に始まる。それはメスロプMesrop Mashtots(362―440)という僧がつくった36文字からなる独特のアルファベットによってつづられている。中期の資料は11世紀末から14世紀にキリキアに移住して王国を築いた人々の残したものである。近代語には東西の方言があるが、公用語は東方言に基づく。子音に放出音の系列があり、名詞は性はないが、7格をもつ。動詞は全体に分析的表現の傾向が強い。
[風間喜代三]