アレルゲン免疫療法(読み)アレルゲンメンエキリョウホウ

デジタル大辞泉 「アレルゲン免疫療法」の意味・読み・例文・類語

アレルゲン‐めんえきりょうほう〔‐メンエキレウハフ〕【アレルゲン免疫療法】

アレルギー性疾患の病因となるアレルゲンを投与していくことによって体をアレルゲンに慣らし、アレルギー症状を和らげる治療法

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内科学 第10版 「アレルゲン免疫療法」の解説

アレルゲン免疫療法(アレルギー性疾患)

(1)定義・概念
 アレルゲン免疫療法(allergen-immunotherapy)は気管支喘息などのアレルギー疾患において,病因アレルゲンを増加させながら生体内に投与してゆくことにより,アレルゲンに対する生体の免疫反応を修飾する治療法である.日本では,以前は減感作療法ともよばれていた.アレルゲン免疫療法は世界保健機関(WHO)の見解書によれば,喘息やアレルギー性鼻炎の自然経過を修飾しえる唯一の治療方法であるとされる.
(2)対象
 アレルゲン免疫療法についてのWHO見解書(Bousquetら,1998)によれば,対象となるのはIgE媒介性のアレルギー性鼻炎・結膜炎と喘息,また膜翅目昆虫(ハチ,アリなど)刺傷によるアナフィラキシー反応などである.花粉症・アレルギー性鼻炎では効果が高く,標準的治療法の1つである.本療法は当該アレルゲンが入手できれば理論的に施行可能であるが,日本では一般的にスギ花粉症ならびにダニ・アレルギーによる気管支喘息・通年性鼻炎が好適応とされている.ハチ・アレルギーでは有効性が高く米国などでは標準的治療であるが,日本では治療用アレルゲンが公的に認可されていない. 気管支喘息について,米国喘息・管理ガイドラインであるExpert Panel Report 3(EPR3)では「軽症から中等症(ステップ1~6で細分化された全6ステップ中,ステップ2から4)で環境アレルゲンの関与が明確な場合に考慮する」とされている(U.S.Department of Health and Human Services,2007).喘息での実際的な適応としては,WHO見解書をもとに表10-22-3が想定される.アレルギー性鼻・結膜炎に対する治療活性を期待できるため,これらを合併する症例は適応症例として選択されることが多い.病歴ならびにアレルゲンの検索(皮膚テスト・特異的IgE抗体検査)から,明らかに当該アレルゲンに感作され,それが発症の主要因子であることが前提となる.
(3)施行方法
 免疫療法には,アレルゲンワクチンを漸増しながら皮下注射する方法と,アレルゲンの錠剤などを舌裏面に保持させて口腔粘膜からアレルゲンを吸収させる舌下免疫療法がある.国際的には舌下免疫療法が普及しているが,2012年時点における日本での主流は注射法である.その導入療法の手法には,標準法と急速法がある. 標準法では通常,皮内反応閾値濃度から10倍希釈したアレルゲンの0.05~0.1 mL程度を開始液とする.外来で週に1~2回,注射量を50~200%前後ずつ増量することが基本である.各回の注射20分後の即時皮膚反応によって次回量を設定する.皮膚反応が3 cm程度になるまで増量し,そのあとはその濃度で一定期間注射を行う.皮膚が腫脹しても同一量で反復すると徐々に反応性が低下し,再増量できることが多い.また,前回注射後の反応が3 cmをこえた場合は増量せず同一量での注射をする.維持量到達後,1カ月は週1回反復し,徐々に間隔を伸ばし,最終的には4~8週に1回として3~5年以上を目安に継続する.有効性を判断するには最短でも維持療法への移行1年後まで継続する必要がある.急速法は入院管理下で注射を反復して数日間で維持量に到達させる方法で,即効性がある.1日数回左右上腕に交互に皮下注射を反復していく.皮膚反応径が著明となるか,咳などの気道症候がみられれば同量を反復し,減弱した後,ペースを緩徐にして最長第7病日まで増量する.維持療法のスケジュールは標準法と同様で,最終的に4~8週間隔として,3~5年以上を目安とする.
(4)作用機序
 アレルゲン免疫療法はIgG4サブクラスに属するアレルゲン特異的IgG4抗体の産生を誘導する.この程度はアレルゲン特異的気道過敏性の改善と連関する.すなわち血清中のアレルゲン特異的IgG4の推移は治療のモニターとして利用できる.一方で維持療法に移行後,アレルゲン特異的IgE抗体の減少もみられるがその程度は比較的緩徐である. 免疫療法はまた,アレルゲン特異的なT細胞の免疫応答性を変化させる.アレルゲンによって誘導されるTh2細胞の局所集積が抑制され,IL-4あるいはIL-5などのTh2サイトカインの産生が減弱する.また,Th1細胞からのTh1サイトカイン:IL-2,IFN-γ,IL-12産生の亢進がみられる.さらに制御性T細胞の誘導を介して抑制性サイトカインであるIL-10産生が誘導され,アレルギー性炎症の基礎病態であるTh1/Th2インバランスが是正されることが効果に寄与すると想定される.
(5)免疫療法の臨床的意義
 アレルゲン免疫療法はアレルギー性鼻炎・結膜炎・喘息あるいは昆虫アレルギーに治療効果を発揮する.たとえば気管支喘息においては臨床症状の改善,気道過敏性の改善,さらに薬物減量効果を有することがメタ解析で確認されている(Abramsonら,1995).喘息の標準的治療である吸入ステロイドとの併用療法についてはダニアレルギー性喘息患者における検討で,呼吸機能のさらなる改善効果やβ2刺激薬吸入の頓用回数の減少,さらに吸入ステロイド薬の節減効果などが確認されている.ハチアレルギーにおける免疫療法の有効性は90%以上にのぼり,ハチ再刺傷時のアナフィラキシー発症のリスクを著しく軽減するとされる. アレルゲン免疫療法の最も重要な効果は,アレルギー疾患患者の個々の病態史に介入してこれを抑制する点にある.すなわち免疫療法には薬物療法とは異なり,アレルギー疾患の自然経過を修飾する効果があることが判明しており,それゆえに基礎治療としての重要性が指摘されている. たとえば,免疫療法はアレルギー疾患患者で観察される新規のアレルゲン感作拡大現象を抑制すること,花粉症患者でアレルゲン免疫療法を行うとその後の喘息発症を抑制すること,さらに3年以上施行した場合には中止してもその効果が数年以上持続していることなどが再現性をもって報告され,明確化されている.小児気管支喘息においては,ダニアレルゲン舌下免疫療法がその臨床的寛解の促進作用を示したとの報告もある. 免疫療法のもう1つの重要な効果は,アレルギー病態に基づく複数の疾患に悩む患者に対して包括的・全身的に治療効果を発揮しうる点である.たとえばダニ・アレルギーによる気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎の合併症例にダニ・アレルゲンによる免疫療法を行った場合には,これら3疾患がいずれも軽減することが立証されている.これらの作用については注射法ならびに舌下免疫療法の両者においてエビデンスが集積している.
(6)免疫療法の方向性
 アレルゲン免疫療法の今後の方向性として,投与ルートの簡便化,安全性の向上や効果の増強の視点などから,舌下免疫療法の普及,そして遺伝子組み換えアレルゲンや免疫アジュバントを利用した方法の開発などに期待がかかっている. 舌下免疫療法は前述したように諸外国ですでに一般臨床に広く用いられている.ダニアレルギー喘息患者で症状スコアや気道過敏性の改善をもたらすこと,花粉症による鼻炎合併患者における検討で,自覚症状の改善,気管支拡張薬の頓用回数の減少,呼吸機能改善をもたらすことなどが確認されている.舌下療法では安全性がすぐれていることがメタ解析において確認されており,アナフィラキシーなどの全身的副反応はきわめてまれとされる.花粉症領域においては遺伝子組み換え主要アレルゲン成分による免疫療法が試みられ,通常の租アレルゲンと同等以上の臨床効果を示すことが証明されている.免疫学的アジュバントを用いてTh1活性化を介してTh2反応を抑制する試みの1つとして,CpGモチーフは,TLR9(toll like receptor 9)で認識されることにより,マクロファージや樹状細胞活性化に伴うIL-12などの産生を通して強力にTh1細胞を誘導する.ブタクサ花粉症患者に対し,抽出アレルゲンとCpGモチーフを結合させて行った免疫療法は,季節前6回注射法による投与で2年間にわたり著明な症状予防効果がもたらされたことが示され,免疫アジュバントのアレルギー疾患治療における可能性を示している.[永田 真]
■文献
Abramson MJ, Puy RM, et al: Is allergen immunotherapy effective in asthma? A meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Respir Crit Care Med, 151: 969-974, 1995.
Bousquet J, Lockey RF, et al: WHO position paper. Allergen Immunotherapy: therapeutic vaccines for allergic disease. Allergy, 53 : 1-42, 1998.
U.S. Department of Health and Human Services: National Heart, Lung, and Blood Institute. National Asthma Education and Prevention Program. Expert Panel Report 3 (EPR-3): Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. 2007.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アレルゲン免疫療法」の意味・わかりやすい解説

アレルゲン免疫療法
あれるげんめんえきりょうほう
allergen immunotherapy

アレルギー反応の誘因となっているアレルゲンをあえて投与することにより、アレルゲンによって引き起こされる症状が起こりにくい状態にしていく治療法。従来の薬物療法とは異なり、投与した時点での即効性を期待するものではなく、アレルギーの自然経過を変化させることにより、長期的にアレルギーが起こりにくくなることを期待するものである。そのため、症状が落ち着いている時期に、長期間にわたって行う必要があるが、アレルギーの根本原因を解決することを目ざした方法であるといえる。従来は減感作(げんかんさ)療法ともよばれてきたが、現在ではアレルゲン免疫療法とよぶのが一般的である。

 治療の対象となるのは、アレルゲンに対してIgE(免疫グロブリンE)抗体があることが確認される人であり、またそのアレルゲンによって実際に症状が生じていることが確認されている人である。したがって、症状の誘因となっている環境中のアレルゲンの回避もできるかぎり行う必要がある。

 2022年(令和4)現在、日本においてアレルゲン免疫療法の対象となっているアレルゲンの代表は、ダニとスギ花粉である。また、食物アレルギーの原因となっている食物を、症状が出ない条件で摂取することも同じ効果を期待しているといえる。そのほかには、ハチ毒アレルギーや薬剤過敏症に対して、原因物質を投与することにより改善を期待する方法もこれにあたる。

 ダニとスギ花粉に対するアレルゲン免疫療法には、皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)と舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)がある。皮下免疫療法は注射によって行う。そのため、定期的に医療機関を訪れる必要がある。舌下免疫療法は、錠剤を舌の下に入れることによって行う。初回のみ医療機関で行うが、その後は自宅で行うことができる。

 両者を比較すると、効果は前者のほうがより高いといわれているが、副作用については、前者は全身型の反応であるアナフィラキシーが起こる可能性があるのに対し、後者は口腔内の違和感は頻発するが全身型の反応はまれであることから、後者がより安全といえる。治療の継続については、前者は定期通院している限りは継続できるのに対し、後者は毎日自分自身で自発的に行わなければならないため、継続しにくい傾向があり、その意義と使用方法について十分に理解して行う必要がある。

[高増哲也 2022年7月21日]

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六訂版 家庭医学大全科 「アレルゲン免疫療法」の解説

アレルゲン免疫療法
アレルゲンめんえきりょうほう
Allergen immunotherapy
(アレルギー疾患)

 アレルゲン免疫療法(以前の減感作療法)は、アレルギー性疾患の原因アレルゲンを次第に増やしながら注射してゆき、アレルゲンに対する免疫を得ようとする治療法です。

 喘息(ぜんそく)や鼻炎などのアレルギー性気道疾患が主な対象になります。喘息や鼻炎の重症度を軽減すること、薬物を減らすことを期待して行われます。位置づけは薬物の補助であって、いわばオプションです。

 喘息では通年性の環境抗原であるダニに対して、鼻炎ではダニとスギ花粉とが主な対象になります。ダニの場合、ダニを主成分とする室内塵(しつないじん)(ハウスダスト)を治療に用いますが、今日、日本ではこの治療を行う施設は少なくなっています。アレルギー科か、喘息では呼吸器内科、鼻炎では耳鼻科で、おのおのアレルギーを専門とする医師に相談することをすすめます。

 なお、最近、重症のアレルギー性喘息に対する原因治療として抗IgE抗体(ゾレア)が開発され、治療に用いられるようになりました。

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