日本大百科全書(ニッポニカ) 「小児気管支喘息」の意味・わかりやすい解説
小児気管支喘息
しょうにきかんしぜんそく
小児期にみられる気管支喘息。気管支喘息とは、気管支が狭くなることで喘鳴(ぜんめい)や咳(せき)の発作が繰り返しおこる疾患であり、日本小児アレルギー学会が作成している『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン』(2017)では、「発作性に起こる気道狭窄(きょうさく)によって、喘鳴や咳嗽(がいそう)、および呼気延長を伴う呼吸困難を繰り返す疾患である」とされている。
気管支喘息は、その時期をつけてよばれることがあり、小児期にみられる気管支喘息が「小児気管支喘息」(小児喘息ともよばれる)である。なかでも5歳以下におこる喘息を「乳幼児喘息」とよぶ(過去には2歳以下を「乳児喘息」とよんでいた)。思春期・青年期にみられる気管支喘息は「思春期・青年期喘息」とよばれ、年齢的には12~21歳までをさす。
[高増哲也 2020年3月18日]
症状と診断
喘息発作がおきているときは、気道で三つの変化がおきて呼吸をしにくくしている。すなわち、(1)気管支を取り囲んでいる筋肉(気管支平滑筋)が収縮して気道を狭くする、(2)気道の内側が腫(は)れて、むくんでいる(気道粘膜の浮腫(ふしゅ))、(3)痰(たん)が増えている(気道分泌の亢進(こうしん))。
発作がおこる原因は、気道が刺激に反応しやすい状態、すなわち気道過敏性にあるといわれている。そして気道過敏性の原因は、気道の慢性炎症にあるとされる。
気管支喘息の診断は、呼吸機能検査、気道過敏性検査などでこれらを確認することが基本となるが、小児の場合には呼吸機能検査などが困難なことが多いため、症状の経過を中心に診断をしていくことになる。その際に有用なのは、喘息発作がおきていると考えられるときに気管支拡張薬を吸入し、症状の改善がみられるかどうかであり、改善する場合は喘息発作がおきていたと判断する。また、気道炎症があると一酸化窒素(NO)が産生されるため、呼気中のNO濃度を測定すれば、気道炎症の程度を確かめることができる。
[高増哲也 2020年3月18日]
治療
気管支喘息の治療は、発作がおきているときには気管支拡張薬を使い、排痰を促し、気管支を広げることが中心となる。予防のためにはステロイド薬を吸入して気道炎症を抑える方法と、抗ロイコトリエン薬の内服をする方法が中心となる。ステロイド薬の吸入は、上手にできているかどうかが効果に関わるので、上手な吸入方法を習得することが肝要である。ステロイド薬の吸入だけでは不十分な場合には、長時間作用性気管支拡張薬が配合された吸入薬を用いることもある。これらの基本治療を適切に行ってもなおコントロールがむずかしい場合には、生物学的製剤の注射を行う治療もある。
治療の目標は、適切な予防法により、症状がおこらない状態にすることであり、最終的には寛解・治癒を目ざす。小児気管支喘息は、過去には夜間の救急外来受診のおもな原因であり、入院を必要とすることも多く、死亡することもまれではなかったが、現在では適切に予防することにより、かなり症状をコントロールすることができるようになっている。
[高増哲也 2020年3月18日]