アバンギャルド映画の名作の1本となったフランス映画。1928年製作。ともにスペイン生れのL.ブニュエルとS.ダリの合作で,ガルシア・ロルカらとともにマドリードの若い詩人・芸術家のグループに属していた2人が,お互いにみた〈もっとも狂気じみた〉夢の数々を脈絡なく語り合って,それをもとに1週間足らずでシナリオを書き上げ,〈徹底的にシュルレアリスムの中に入って〉(ブニュエル)作った〈自動記述〉的な映画。2巻(サイレント・スピードで24分,トーキー・スピードによるサウンド版17分)。パリで《アッシャー家の末裔(まつえい)》(1928)などでジャン・エプスタンの助監督をしたブニュエルが,母親に金を出してもらって初めて監督した自主製作映画であったが,マン・レイとルイ・アラゴンの強力な支持でシュルレアリストのグループに紹介され,パリのアバンギャルド映画専門館ステュディオ・デデュルスリーヌで上映されてセンセーションを巻き起こし,〈映画におけるシュルレアリスム宣言〉となった。初演のときには,ブニュエル自身がスクリーンの裏から蓄音機でワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》とアルゼンチン・タンゴのレコードをかけ伴奏音楽をつけたという。超現実的イメージが連なるこの映画は,〈シュルレアリストの知的なエッセー〉と解釈されて大きな反響を呼んだが,ブニュエル自身は,この作品が当時のパリのサロンで受け入れられたことに愕然(がくぜん)とし,〈じつは絶望であり,殺人への情熱的な呼びかけにほかならぬものを,美しいとか詩的だとか思い込んだ度しがたい低能なスノッブども〉と毒づいて反発した。彼が次に,ダリなしで〈もはやスノッブなブルジョアどもに同化の機会を与えない〉《黄金時代》(1930)を作りそれにこたえたことはよく知られている。《アンダルシアの犬》はフロイト的解釈などもなされたが,むしろイメージそのものの生理的な強烈さによって記憶され,映画史上もっともスキャンダラスな事件となった。ブニュエルはこの映画以前に数編の詩を書いており,同名の題で出版を計画していたという。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス映画。1928年作品。これがデビュー作になる監督ルイス・ブニュエルと画家サルバドール・ダリが製作。シュルレアリスム運動の最盛期に、美術や文学などと呼応するように盛んに試みられたアバンギャルド映画の代表作。上映時間16分ほどのなかで、女性が剃刀(かみそり)で眼球を切り裂かれる冒頭のシーンに始まり、切断され路上に転がった右掌を杖(つえ)でつつく若い女、ロバの死体が乗せられたピアノとそれを引っ張る男、手のひらに群がる蟻など、衝撃的な映像が積み重ねられていく。ブニュエルとダリが互いに出し合ったイメージ群をもとに、表向きは男と女の愛情のもつれをたどるような体裁をもたせつつ、実はいっさいの合理的な展開や意味を排除する。ちょうど夢をみているような世界である。そのなかに人間の不合理な衝動や欲動の生起がとらえられている。
[出口丈人]
…カランダの裕福な地主の家に生まれ,イエズス会の学校を経てマドリード大学に学び,詩人で劇作家のフェデリコ・ガルシア・ロルカ,画家のサルバドール・ダリらと親交を結び,シュルレアリスム運動に心をひかれる。1925年にパリに移り住んでから,ジャン・エプスタン監督《アッシャー家の末裔(まつえい)》(1928)の助監督をつとめたのち,ダリとの共同脚本によるシュルレアリスムの映画的マニフェストともいうべき短編《アンダルシアの犬》(1928)をつくり,その特異なスタイルによって注目を浴びた。それはダリとともにお互いにみた〈もっとも狂気じみた〉夢を脈絡なく語り合い,〈徹底的にシュルレアリスムのなかに入って〉シナリオを書き上げた〈自動記述〉的な映画であった。…
※「アンダルシアの犬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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