イソメ(読み)いそめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ
いそめ / 磯目

環形動物門多毛綱遊在目イソメ科Eunicidaeの総称。日本各地の沿岸から約20種が知られているが、研究者によっては、スゴカイイソメ、ギボシイソメ、アカムシなどの近縁の種類をこの科に含めて分類している。ほとんどは沿岸性であるが、サンゴイソメEunice tibianaは、水深200メートルぐらいの海底にすむ。オニイソメE. aphroditoisのように、体長1.5メートルぐらいにもなる大形種もあるが、普通の種類は5~20センチメートルぐらいである。体は一般に多くの体節からなる。頭部には1~5本の感触手と1対の眼点がある。各環節にある1対のいぼ足には上部に糸状あるいは櫛歯(くしば)状のえらがある。口には強力なあごがあって餌(えさ)を挟んで食べる。大部分の種類は砂中に潜ってすむが、イワムシのように堆積(たいせき)岩のすきまやサンゴ礁の中に穴を掘ってすむものもある。

 南太平洋産のパロラ・シキリエンシスPalola siciliensisは、10~11月の生殖時期に、卵や精子が充満した体の後半部が切り離されてパロロとよばれるものとなり、水面に泳ぎ出して生殖物を放出する。これをサモア原住民はムバロロmbaloloとよび、バナナの葉に巻いて焼いて食べる。またエウニケ・スケマケファラE. schemacephalaは、アメリカのフロリダジャマイカで6~7月にかけてパロロになるが、これを大西洋パロロとよぶ。釣り餌(え)としてイワムシ(イワイソメ)、アカムシ(アカイソメ)、スゴカイイソメ(フクロイソメ)などが利用される。なおジャリメスナイソメなどとよばれている餌はゴカイ科の種である。

[今島 実]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ
Eunicidae; palolo worm

環形動物門多毛綱遊在目イソメ科に属する海産動物の総称。日本ではイワムシオニイソメなど 30種ほどが知られている。体長5~30cmのものが多いが,なかにはオニイソメのように 1m以上になるものもある。体は多くの体節から成り,各体節の両側から生じる疣足 (いぼあし) には各種剛毛のほかに糸状,櫛歯状の鰓があり,これで呼吸する。頭部には1~5本の感触手がある。ほとんどの種は砂の中や岩の割れ目の泥がたまっているようなところ,またはサンゴ礁の中に穴を掘ってすむが,サンゴイソメ Eunice tibianaのようにジグザグ状になった棲管をつくって水深 100~200mの海底にすむものもある。本州中部から南太平洋のサンゴ礁に分布する Palola siciliensisは,10~11月の満月前の数日間,夜間に雌雄それぞれの体の後半部が切れて水面に泳ぎ出し,体をくねらせながら生殖を行う (サンゴ礁の中に残った体前部はやがて再生する) 。これを「太平洋パロロ」と呼び,サモア諸島の島民は捕えて食べる。なお,フロリダ,ジャマイカに生息する E. schemacephalaも生殖群泳を行い,これは「大西洋パロロ」と呼ばれている。

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