イソメ

改訂新版 世界大百科事典 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ

多毛綱イソメ科Eunicidaeに属する環形動物総称。日本ではイワムシオニイソメなど19種が知られている。体長は5~30cmのものが大部分であるが,オニイソメでは体長が1mを超すものもいる。体は多くの体節が連なり,各体節の両側には剛毛をもったいぼ足がある。頭部には感触手があり,ヒトモトイソメは1本,シボリイソメは3本,イワムシは5本と種類によって異なる。いぼ足には櫛歯(くしば)状のえらがあって,これで呼吸するが,その形や出現する場所などは種によって違っている。大部分のものは浅海の砂れき中にすむが,サンゴイソメEunice tibiana水深100~200mくらいの海底にすむ。

 Palola siciliensisは本州中部より熱帯域のサンゴ礁にすむが,生殖時期になると大量の生殖型個体が群泳するので有名である。サモアフィジーギルバート諸島では毎年10月と11月の満月から8日目と9日目の日の出前の1~2時間に生殖群泳をする。このときには島民小舟に乗って網ですくい食用にする。この泳ぎだす部分は体の後方の3/4くらいであって,ここの部分に雄では精子,雌では卵を充満させていて,泳ぎながら生殖が行われる。体の前の部分はサンゴ礁の穴の中に潜りこんでいて,失った部分を再生する。このように生殖群泳する虫を太平洋パロロという。大西洋でも西インド諸島でE.schemacephalaが7月に生殖群泳をするが,これを大西洋パロロと呼んでいる。日本パロロといわれているのはゴカイ科の1種のイトメのものであってイソメ科のものではない。イソメ類はよく釣餌に用いられるが,とくにイワムシは万能餌虫といわれ,いろいろな魚種に用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ
いそめ / 磯目

環形動物門多毛綱遊在目イソメ科Eunicidaeの総称。日本各地の沿岸から約20種が知られているが、研究者によっては、スゴカイイソメ、ギボシイソメ、アカムシなどの近縁の種類をこの科に含めて分類している。ほとんどは沿岸性であるが、サンゴイソメEunice tibianaは、水深200メートルぐらいの海底にすむ。オニイソメE. aphroditoisのように、体長1.5メートルぐらいにもなる大形種もあるが、普通の種類は5~20センチメートルぐらいである。体は一般に多くの体節からなる。頭部には1~5本の感触手と1対の眼点がある。各環節にある1対のいぼ足には上部に糸状あるいは櫛歯(くしば)状のえらがある。口には強力なあごがあって餌(えさ)を挟んで食べる。大部分の種類は砂中に潜ってすむが、イワムシのように堆積(たいせき)岩のすきまやサンゴ礁の中に穴を掘ってすむものもある。

 南太平洋産のパロラ・シキリエンシスPalola siciliensisは、10~11月の生殖時期に、卵や精子が充満した体の後半部が切り離されてパロロとよばれるものとなり、水面に泳ぎ出して生殖物を放出する。これをサモアの原住民はムバロロmbaloloとよび、バナナの葉に巻いて焼いて食べる。またエウニケ・スケマケファラE. schemacephalaは、アメリカのフロリダやジャマイカで6~7月にかけてパロロになるが、これを大西洋パロロとよぶ。釣り餌(え)としてイワムシ(イワイソメ)、アカムシ(アカイソメ)、スゴカイイソメ(フクロイソメ)などが利用される。なおジャリメ、スナイソメなどとよばれている餌はゴカイ科の種である。

[今島 実]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ
Eunicidae; palolo worm

環形動物門多毛綱遊在目イソメ科に属する海産動物の総称。日本ではイワムシオニイソメなど 30種ほどが知られている。体長5~30cmのものが多いが,なかにはオニイソメのように 1m以上になるものもある。体は多くの体節から成り,各体節の両側から生じる疣足 (いぼあし) には各種剛毛のほかに糸状,櫛歯状の鰓があり,これで呼吸する。頭部には1~5本の感触手がある。ほとんどの種は砂の中や岩の割れ目の泥がたまっているようなところ,またはサンゴ礁の中に穴を掘ってすむが,サンゴイソメ Eunice tibianaのようにジグザグ状になった棲管をつくって水深 100~200mの海底にすむものもある。本州中部から南太平洋のサンゴ礁に分布する Palola siciliensisは,10~11月の満月前の数日間,夜間に雌雄それぞれの体の後半部が切れて水面に泳ぎ出し,体をくねらせながら生殖を行う (サンゴ礁の中に残った体前部はやがて再生する) 。これを「太平洋パロロ」と呼び,サモア諸島の島民は捕えて食べる。なお,フロリダ,ジャマイカに生息する E. schemacephalaも生殖群泳を行い,これは「大西洋パロロ」と呼ばれている。

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百科事典マイペディア 「イソメ」の意味・わかりやすい解説

イソメ

多毛類イソメ科の環形動物の総称。イワムシ,ツノイソメ,コンキレイソメなどがある。体は一般に細長く,たくさんの体節に分かれる。大部分は体長5〜20cmだが,オニイソメは1mを超すものもある。多くは浅海の砂れきなどに穴を掘ってすむ。釣餌として利用。生殖時期に体の後半部が切り放され,いっせいに海面に浮かび出て生殖を行う太平洋パロロはこの仲間。

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