日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトカケガイ」の意味・わかりやすい解説
イトカケガイ
いとかけがい / 糸掛貝
wentletrap shell
軟体動物門腹足綱イトカケガイ科Epitoniidaeに属する巻き貝の総称。同科は、日本には約100種を産する。殻は多くの種で白いが、淡褐色の帯状やまだら模様のあるものもある。成長線に沿って強い板状肋(ろく)があり、これを糸に見立ててこの名がある。中に板状肋と交差する螺肋(らろく)があるため布目状彫刻のみられるものもある。殻口は丸く、水管はない。蓋(ふた)はオオイトカケガイ類のように黒くやや厚いものと、ナガイトカケガイ類のように黄色く薄いものとの2様がある。雄性先熟で雌雄異体、通常大きい個体が雌である。紫色の汁を出す腺(せん)があり、口の歯舌には同形同大の鋭い歯が多数あり、おろし金状になっていて翼舌形といわれる。この歯舌は、イトカケガイ類がイソギンチャク類の体表に取り付き、表皮から体液を吸う食性に適している。潮間帯にすむ種は、砂を集め卵嚢(らんのう)をつくって卵を入れ、弾力性のある糸でつなぐ。雌はこれに埋もれていて、雄はその周囲にいる。代表的な種の一つであるオオイトカケガイEpitonium scalareは日本、中国に分布し、殻高は70ミリメートルぐらいに達し大形で美しく、19世紀には西欧のコレクターの需要があるため偽物がつくられたという逸話がある。
[奥谷喬司]