日本大百科全書(ニッポニカ) 「イレッサ薬害訴訟」の意味・わかりやすい解説
イレッサ薬害訴訟
いれっさやくがいそしょう
イギリスの製薬会社アストラゼネカ社が開発した抗悪性腫瘍(しゅよう)薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の副作用被害をめぐる訴訟。重大な副作用の危険性を周知させなかったとして、患者と患者遺族が輸入販売元の製薬会社と国を相手取って1億8000万円を支払うよう求めた。2004年(平成16)に東京地方裁判所と大阪地方裁判所に提訴され、一審で東京地裁は国と製薬会社の双方に、大阪地裁は製薬会社に一部責任があるとして患者への補償を求める内容の和解を勧告。しかし国と製薬会社は和解を拒否した。二審(東京・大阪高等裁判所)では判決が覆り、最高裁判所でも上告が退けられて、2013年(平成25)4月12日患者と患者遺族の敗訴が確定した。イレッサは日本の肺癌(はいがん)患者の多くのタイプに有効と判断され、2002年に世界で最初に日本で承認され、アストラゼネカ社により輸入販売が開始された。発売当初から投与後に間質性肺炎で死亡する例が報告されたため(2012年9月までに公式発表で857人が死亡)、製薬会社は国の指示に従って説明書に警告を掲載し、医師の注意を促した。裁判では、この薬剤と副作用との因果関係と、国や製薬会社の注意喚起の適切さが焦点となった。しかし、臨床試験での発症例に明確な因果関係は見いだせず、また、優先順位は低かったものの、添付文書には副作用について記されていたため、医師への注意喚起はなされていたと判断された。現在、イレッサは手術のできない患者や癌を再発した患者に限り、遺伝子検査を行って効果が期待できると判断された場合に投与されている。
[編集部]