未確定の判決について,控訴審(〈控訴〉の項参照)よりも上の審級の裁判所になされる上訴。個々の事件の正当な解決を図ることと,原則として唯一最上級の裁判所(民事訴訟については高等裁判所が上告裁判所となる場合が認められている)が判断を示すことによって,法令の解釈の統一をすることを目的としている。
民事訴訟における上告は,終局判決に対してなされる法律審への上訴ということができる。民事訴訟の上告審は法律審として構成されており,上告裁判所は事件の内容に関しては事実認定を行わず,原審が適法に事実を確定している限りでは,それに拘束される(民事訴訟法321条)。事実審理から解放されているとはいえ,上告審は本来唯一最上級の裁判所が担当するものであるから,そのままでは上告裁判所の負担が過重となる可能性が高い。そこで,例えば,原裁判所の許可があるときにだけ上告を認めるとか,財産権に関する事件では,不服申立ての対象が一定金額に満たないときは上告に制限を加えるとか,あるいは上告することの可否を上告裁判所の裁量にゆだねるというような上告制限の方策が,各国で講じられている。日本の民事訴訟における上告に関しては,簡易裁判所が第一審である事件においては,特別の場合を除いて(民事訴訟法327条)最高裁判所が上告裁判所とはならないこと,当事者が権利として上告できる(権利上告)理由を制限し(312条),他方では裁量上告の制度を採用していること(318条)などが,上告制限ないし最上級裁判所の負担軽減策として挙げられる。
上告は,原則として高等裁判所または地方裁判所が控訴審としてした終局判決に対してなされる(311条1項)が,高等裁判所が第一審として判決を下している場合(独占禁止法85条,特許法178条等)や,当事者間に跳躍上告の合意がある場合には,第一審判決に対してただちに上告がなされる(民事訴訟法311条1項,2項)。
上告審は法律審であるから,不服申立ての理由は,本質的に原判決における法令違反でなければならない。そして,権利上告の理由とすることができるものは,基本的には〈判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があること〉に限られている(民事訴訟法312条1項)。しかし,裁判の信用,当事者の権利保護,法秩序維持などの観点からとくに重大と考えられる手続法違反については,これを理由として上告することができる(絶対的上告理由。312条2項)。ところで,上告が理由ありとされるためには,ただ憲法違反等があるというだけでは足りず,その憲法違反等と原判決との間に因果関係のあることが必要である(312条1項,3項)。そしてこの因果関係は,憲法を含めて,民法や商法のような実体法の違反の場合には,その存在を確実な形で認定できるが,手続法違反の場合は,確実な形で認定することは,通常きわめて困難である。そこで,一般論として手続法違反を理由とする不服申立てにおいては,原判決との間の因果関係の在否は,実体法違反の場合ほど確実に認定できなくともよいと考えざるをえないのであるが,絶対的上告理由についてはそれにとどまらず,その重要性に照らして,その事由がありさえすれば,原判決との間の因果関係の有無を問わず,上告が認容される。なお,高等裁判所が上告裁判所となる場合には,憲法違反や絶対的上告理由以外に,〈判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反〉をも上告の理由とすることができる(312条3項)。この場合の法令には,法律のほか,命令,裁判所規則,地方公共団体の条例・規則,条約,慣習法が含まれる。経験則が一定限度でこの中に含まれるか否かは争いがあるが,含まれるとする説もかなり有力である。また,この法令違反は,法令の解釈の誤りとして生じることも,適用の誤りとして生じることもある。そしてそれらの誤りは,原審の訴訟手続の上に存することも,原審の示す事件の内容に関する法的判断の中に存することもある。
裁量上告は,最高裁判所が上告裁判所となるべき場合に,当事者から上告受理の申立てがあったとき,最高裁判所が決定により,上告審として事件を受理するという形で認められている(318条)。上告受理の申立ては,〈原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては,大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件〉についてすることができる(318条1項)。また,上告受理の申立ては,憲法違反や絶対的上告理由を主張してすることはできない(318条2項)。
なお,上告裁判所である最高裁判所は,憲法違反や絶対的上告理由がない場合にも,原判決に,〈判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとき〉は,それを破棄することができる(325条2項)。
上告裁判所は,高等裁判所が控訴審または第一審として下した終局判決に対する上告の場合は最高裁判所,地方裁判所が控訴審として下した終局判決に対しては高等裁判所である(311条1項)。また跳躍上告がなされる場合は,簡易裁判所の第一審判決に対しては高等裁判所に,地方裁判所の第一審判決に対しては最高裁判所に上告がなされる(311条2項)。上告審の手続に関しては,別段の定めがない限り控訴審の手続に関する規定が準用され(313条),またそのことをとおして地方裁判所における第一審の手続に関する規定も準用される(297条)。
上告の提起は,上告状を原裁判所に提出してする(314条1項)。上告人は上告理由を上告状に記載するか,または上告理由書に記載して原裁判所に提出しなければならない(上告理由書提出強制,315条)。上告裁判所は原裁判所が適法に確定した事実を前提として,原裁判所が行った法令の解釈と,事実に対する法令の適用の当否を審査するので,その審理は事後審的である。また上告審での調査は,不服申立てのあった限度で,上告理由に基づいて行われる(320条)。
上告に関してなされる裁判は次のようなものがある。上告状に不備がありそれが補正できない場合に原裁判所の裁判長がする上告状の却下(314条2項,288条),上告が不適法でそれが補正不可能な場合や,定められた期間内に上告理由書が提出されなかったり,上告理由書の記載が定められた方式によっていない場合に原裁判所がする上告却下の決定(316条1項),同じ理由あるいは,上告の理由が明らかに312条1項および2項に規定する事由に該当しないことを理由として上告裁判所がする上告却下の決定(317条),上告裁判所が上告状,上告理由書,答弁書等の書類によって上告に理由がないと判断した場合に,口頭弁論を経ずにする上告棄却の判決(319条),上告裁判所が口頭弁論を経たうえで上告に理由なしとしてする上告棄却の判決,口頭弁論を経て,上告に理由があるものと上告裁判所が認めた場合にする原判決破棄の判決(325条1項)である。そして原判決を破棄する場合には,上告裁判所がみずから事実認定をやり直して事件の内容について判断を下すわけにいかないため,原則として事件を原審に差し戻す(破棄差戻し)か,原裁判所に差し戻すことが不都合なときは,同等の他の裁判所に移送(破棄移送)する(325条1項)。原判決を破棄するとはいえ,原裁判所の事実認定は十分に行われており,上告裁判所が法令の解釈適用をみずからやり直しさえすれば事件が解決できる場合と,事件が裁判所の権限に属さないという理由で原判決を破棄する場合には,上告裁判所はみずから事件を落着させる判決(破棄自判)をすることができる(326条)。なお以上をみて明らかなように,上告審の手続には上告をしりぞける場合に関して,かなり書面審理主義が取り入れられている。
執筆者:大須賀 虔
刑事訴訟においても,上告は判決に対する法律審への上訴である。したがって申立人は,この制度によって原判決(不服申立ての対象となる判決)の一定の法律的な誤りないし違法制を主張して,その是正を求めることができるが,控訴の場合のように事実認定や刑の量定の当否の審査を権利として請求することはできない。日本では,1880年の治罪法以来,原則としてすべての事件で上告の申立てを許してきた。旧刑事訴訟法(1922公布)では,事実認定や量刑についても一定の範囲で,上告理由として主張することまで認めていた。現行刑事訴訟法の上告制度を民事訴訟法や旧刑事訴訟法のそれと比べると,上訴理由がより限定され,またすべて最高裁判所の管轄とされている点が特色である。
現行法では,高等裁判所のした判決に対して上告の申立てができる(刑事訴訟法405条)。したがって上告の対象は,普通は控訴審判決であり,上告審は事件についての第三審となる。ただし,内乱罪などのように高等裁判所が第一審として判決する場合には,その判決に対して上告することができ,また重要な憲法問題を含む事件では,地方裁判所などの下した第一審判決に対してただちに上告を申し立てる跳躍(または飛躍)上告の制度もある(刑事訴訟規則254条)。
上告の申立ては,検察官からも,被告人,弁護人,保佐人などからもできる(刑事訴訟法351,353,355条)。上告を申し立てるには,原判決から14日以内に,最高裁判所あての申立書を原裁判所に提出し,さらに上告裁判所の指定する期間内に上告の理由を記載した趣意書を提出しなければならない。上告理由として申立人が主張できるのは,(1)原判決に憲法違反または憲法解釈の誤りがあること,および(2)原判決が最高裁判所などの判例と相反する判断をしていること(判例違反)である(405条)。上告裁判所は,原判決について,上告趣意書に主張されているような事由があるかどうかを審査する。このように刑事訴訟における上告理由は狭く限られており,上告審たる最高裁判所のおもな役割は,憲法問題について最終審として判断すること(憲法81条)と,法令解釈の統一を図ることにしぼられている。しかし,上告の可能性がこのようにせばめられていると,重大な問題を含む事件でも,最高裁判所がこれを取り上げて,裁判の誤りを是正したり,法解釈を示したりすることができない場合がある。そこで,上に述べたような本来の上告理由の存在が認められなくても,原判決について法令違反,量刑のはなはだしい不当,重大な事実の誤認または再審事由などが発見され,これをたださなければ著しく正義に反する場合には,上告裁判所に原判決を破棄する権限が認められている(刑事訴訟法411条)。実際には,この種の職権破棄を期待して上告が申し立てられる例が多い。さらに,最高裁判所は,本来の上告理由が主張されていないときでも,法令の解釈に関する重要な問題を含む事件を,上告審として受理することができる(上告受理。刑事訴訟法406条,刑事訴訟規則257条)。
上告申立てが不適法であるとき,または原判決を取り消すべき理由のないときは,上告は棄却される。原判決に判例違反があっても,判例を変更すべき場合には,やはり上告は棄却される(刑事訴訟法410条2項)。適当な上告理由が主張されないときのように,決定で上告を棄却する場合はもちろん,判決で上告を棄却する場合でも,明らかに上告に理由がないときは,口頭弁論を経ずに書面審理だけで裁判することができる(408条)。このため,上告審では弁論が行われないことが多い。ただし,死刑事件については,口頭弁論を行うのが慣行となっている。いずれにせよ,被告人は公判期日に召喚されない(409条)。原判決を取り消すべき理由があるときは,これを破棄して,事件を原裁判所または第一審裁判所に差し戻すか,上告裁判所が事件について自判して結論を出す。原判決が不法に管轄を認めたことを理由に破棄するときは,事件を管轄裁判所に移送する(410~413条)。
なお,非常上告は,すでに確定した判決について申し立てられるもので,上訴としての上告とは異なる。
→上訴 →審級
執筆者:後藤 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
訴訟法上、未確定の判決について控訴審以上の審級の裁判所になされる上訴。
[内田一郎]
高等裁判所がした第一審または第二審の判決に対して、最高裁判所の救済的裁判の請求をする、上訴の一つ。上告申立人は、申立書を原裁判所に差し出し、上告趣意書を上告裁判所に差し出さなければならない。上告趣意書には、裁判所の規則の定めるところにより、上告申立ての理由を明示しなければならない。
上告の理由は、以下の憲法違反および判例違反である(刑事訴訟法405条)。
(1)憲法の違反があること、または憲法の解釈に誤りがあること
(2)最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと
(3)最高裁判所の判例がない場合に、大審院もしくは上告裁判所たる高等裁判所の判例またはこの法律(新刑事訴訟法)施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと
さらに、最高裁判所は、これらの上告理由のない場合であっても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、事件受理の申立て、控訴裁判所からの移送および跳躍上告により、自ら上告審として事件を受理することができる(同法406条)。
上告審の審判については、原則として、控訴に関する規定が準用され、公判期日に被告人を召喚することを要しない。違憲判断事件については、優先してこれを審判しなければならない。上告審の裁判としては、上告棄却の判決、原判決破棄の判決、破棄移送の判決、破棄差戻しの判決、破棄自判、訂正の判決、訂正申立て棄却の決定がある。すなわち、上告裁判所は、上告理由があるときは、原則として、判決で原判決を破棄しなければならない。また上告裁判所は、上告申立て事由がない場合であっても、以下のうちいずれかの事由があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる(刑事訴訟法411条)。
(1)判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること
(2)刑の量定が甚だしく不当であること
(3)判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること
(4)再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること
(5)判決があったのちに刑の廃止もしくは変更または大赦があったこと
[内田一郎]
第二審裁判所の未確定な終局判決(高等裁判所が第一審である場合や、跳躍上告の場合には、その第一審の終局判決)に対し、法令の解釈適用に違反あることを理由として、その破棄を求めるため上告裁判所(最高裁判所または高等裁判所)にする不服申立て。上告裁判所は原判決の確定した事実に拘束され(同法321条1項)、これを基礎として法律適用の当否を裁判する。したがって訴訟は、控訴審の口頭弁論終結時の状態で上告審へ移転する。そのため当事者も上告審においては、事件の事実関係について新しい主張や、証拠を提出して原審の事実認定を争うことはできない(この点で第一審の続行である控訴審とは異なる)。上告が提起されると、控訴審におけると同様に、原判決の確定が遮断されるとともに、執行力の発生を停止する効力が生ずる。
上告審においては、上告人の原判決に対する不服の主張を、法令違反を理由とするものに限っている。すなわち「判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があるとき」に上告をすることができる(民事訴訟法312条1項)。また、高等裁判所に対する上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる(同法312条3項)。憲法以外の一般法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかな場合であるから、法令違反と判決の内容つまり判決主文との間に因果関係があることが必要とされる。ここで法令違反という場合の法令とは、憲法、法律、命令、規則、地方公共団体の条例・規則、日本国の締結・加入した国際法上の条約・協定などをいう。法令違反の原因には、原裁判所が法令の解釈を誤解した場合と、具体的事実に法令を適用する際に適用の仕方を誤った場合とがある。そして上告理由としての法令違反には、原判決中の法律判断について不当な場合(判断の過誤)と、その前提となった訴訟手続において違法な処置のある場合(手続の過誤)とがある。違反される法令は、判断の過誤では主として実体法であり、手続の過誤では主として訴訟法である。また、絶対的上告理由は、手続法規の違反のうちとくに重大な違反のため、判決に影響を及ぼすか否かを問わず、つねに上告理由となるものをいい、それらは民事訴訟法第312条2項に列挙されている。なお、絶対的上告理由として列挙されていないものであっても、再審の訴えの事由(同法338条1項に列挙)に該当するものは、実質上、上告理由となりうると解されている。
[内田武吉・加藤哲夫]
なお、通常の不服申立てができなくなった裁判(高等裁判所が上告審として下した終局判決、地方裁判所が第二審としてなした終局判決など)について、憲法の解釈の誤り、憲法違反がある場合に限り、さらに最高裁判所に上告することができるものとされている(特別上告、民事訴訟法327条)。
1996年(平成8)の民事訴訟法改正(1998年1月1日施行)では、最高裁判所に対する上告であって、それが、原判決にこれまでの最高裁判所の判例に反する判断があること、および法令解釈に重要な事項を含むことを理由とする場合には、最高裁判所は、かかる事件について、申立てにより、決定をもって事件を受理することができることとされた(上告受理の申立て、同法318条1項)。これを裁量上告という。かかる受理決定があったときは、上告があったものとみなされる(同法318条4項)。
[加藤哲夫]
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… 最高裁判所は,1947年5月3日に日本国憲法および裁判所法が施行されるとともに,それまでの大審院に代わるものとして発足した。大審院は,1875年に設置され,86年制定の裁判所官制のもとで一般の裁判に対する上告を審理する裁判所となったが,89年に発布された大日本帝国憲法および翌年施行された裁判所構成法のもと,司法権の独立を基礎とし司法作用の最高権限者としての性格をもつに至った。ただし,大審院は,次の諸点について最高裁判所と異なるところがみられる。…
※「上告」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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