改訂新版 世界大百科事典 「インミッシオン」の意味・わかりやすい解説
インミッシオン
Immission[ドイツ]
ドイツ民法(およびスイス民法)上の概念で,ばい煙,騒音,震動などが隣地に侵入すること。日照妨害,汚水の侵入は含まない。ドイツ民法上,所有権はあらゆる有形無形の侵害から守られ,妨害排除請求権が認められている(ドイツ民法903,1004条)。また,侵害行為が違法で故意・過失がある場合には損害賠償を請求することができる(823条以下)。しかし,インミッシオンについては特別な受忍義務が規定されている。(1)被害が本質的(〈かなりの程度〉という意味)でなければ,被害者は差止めも損害賠償も請求できない。(2)本質的な被害を受けた場合でも,侵害行為がその地域に一般に行われている土地利用(たとえば工業地域における工場)から生じたもので,しかも相当な防止措置によって防止できない場合も同様。(3)本質的な被害を受けた被害者は適当な補償を請求できる(906条)。また,連邦インミッシオン法(1974。旧法律名は営業法)は,行政庁の認可を受けた施設について,被害者の操業停止請求を認めず,単に防止措置請求か,それが経済的にできないときは損害賠償請求しか認めていない。ただし,認可手続においてインミッシオンの有無が審査され住民の意見も尊重される(連邦インミッシオン法10,14条)。
日本における生活妨害・公害に関する法理の研究は,他の法領域におけると同様,これらドイツ法,英米法(ニューサンス)に学ぶところが大きかったが,世界でも類を見ない公害の激化に直面して,日本ではより被害者本位の理論が定着した。
→差止請求権 →ニューサンス
執筆者:沢井 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報