改訂新版 世界大百科事典 「ウオクイコウモリ」の意味・わかりやすい解説
ウオクイコウモリ
小魚を主食とする翼手目ウオクイコウモリ科Noctilionidaeに属する哺乳類の総称。形態からbulldog bat,生態からfisherman batなどの英名がある。この科には1属2種があり,新世界に特有。その1種メキシコウオクイコウモリ(ウオクイコウモリ)Noctilio leporinusはメキシコの南西部からアンティル諸島,トリニダード島を経て,アルゼンチン北部までの熱帯に分布する。後足が大きく,かぎづめが針のように鋭く,魚をとらえるのに適応している。体長10~13cm,前腕長7~9cm,体重30~70g。飛膜は狭くて長い。腿間膜(たいかんまく)は幅広く,尾の先端は腿間膜の上面のほぼ中央に突き出す。体毛は短く,背面体側部ではまばら。体色は雌雄で異なり,背面は雄では光沢がある橙褐色,雌では灰色または暗褐色,魚食のため体臭が強い。樹洞,洞窟,海食洞などの岩の割れ目に小群で生息。海または淡水の水面近くを泳いでいる全長3~8cmほどの小魚を後足のつめを使ってすくいあげ,1晩に30~40尾ほどもとらえる。ふつうは休息地まで運んで食べるが,飛翔しながら食べることもある。ときには昆虫も食べる。魚をとらえるとき,水中に入ることがあるが,頭だけを水面に出して,翼を櫂(かい)のように動かして巧みに泳ぎ,岸までたどりつく。近縁種ミナミウオクイコウモリN.albiventrisは,ホンジュラスからアルゼンチンまで分布し,前種より小型で,体長7cm,前腕長5~7cm。樹洞,建物などにすみ,洞窟には生息しない。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報