日常の食事の主体となる食物。副食の対概念。先進国,発展途上国のいかんを問わず,その国で,あるいは同一国のある地域で,自然にあるいは栽培して生産される安くて,最もうまい,カロリーの高い(貯蔵性があるのが,より好ましい)デンプン質に富む食料(ただし,生肉摂取中心のカナダ・エスキモーの場合は除く)が,世界的にみて主食となっている。コムギ,オオムギ,トウモロコシ,エンバク,ライムギなどの禾穀(かこく)類が主食となっている国々や地域(主として,南北アメリカ,ヨーロッパ,中国)が多く,イネが主食となっている国々や地域(主として東南アジア)も少なくない。雑穀が主食となっている国々や地域(主としてアフリカ)もある。そのほかサツマイモ,キャッサバ,ヤムイモ,タロイモのようないも類が主食となっている国々や地域もみられる(東南アジア,アフリカ)。ジャガイモを麦類と複合して(温帯,亜寒帯のヨーロッパなど),インゲンマメ,ヒヨコマメ,ソラマメ,ササゲなどを禾穀類と複合して(インド,南アメリカ),主食として食されている国々や地域もある。サゴヤシ,バナナ,パンノキ,ナツメヤシ,カボチャも主食として利用されている(熱帯地域)。主食がイネのように1種類の場合も,豆類+禾穀類のように,2種類か場合によっては3種類が複合している場合もある。イネ,コムギ,その他の麦類,雑穀,ジャガイモ,その他のいも類,豆類の順で消費されている。
日本では1942年の食糧管理法制定以降,イネを主食とするようになったが,それ以前は,イネとオオムギを複合して主食とすることは各地でみられ,地域によっては,ヒエ,アワ,キビ,トウモロコシ,ソバ,サツマイモが主食となっていた。主食は,人々が生活し,社会的さらに文化的活動をするエネルギー源となる。メソポタミア,エジプト,ギリシア・ローマ,中国,インカなどの古代文明の発達の基礎には,必ず主食となる穀物が生産,確保されていた。その是非は別として,可処分所得が高くなると1日に必要なエネルギーをデンプン質の主食から摂取する割合は少なくなり,野菜類,肉類・卵類,牛乳・乳製品,油脂類,果実類からの摂取割合が多くなる傾向がみられる。日本人の米の1人当り年間の消費量は,大正末期から昭和初期にかけて最も多く,150kgを超していたが,漸次減少し,最近では1962年をピーク(約120kg)とし,高度経済成長に伴って激減し,94年には66.3kgという数字を示すに至った。
執筆者:川田 信一郎
日本のように歴史時代に入っても多様な食料のなかから穀物,とくに米を絶対視して日常化する過程を政策的に進めてきた国にあっては,歴史的にも主食の概念は米を対象に設定されたものである。《正倉院文書》によって奈良時代の奈良の下級役人の食生活についてみると,主食の60~70%ほどが米で,あとはコムギや豆類であったから,貴族,豪族層あたりだけが米を主食としていたと考えられる。まして一般の農民は,貢租の中心が米であったから,米を主食とすることはできなかった。このような形は中世から近世,さらに明治時代に入っても続き,米の主食化は上層からしだいに中層へと下降していったが,それが国民全体に及んだのは昭和になってからである。それまで国民の70%近くを占めていた農民は,定畑や焼畑から得られたムギ,ソバ,アワ,ヒエ,豆類などの雑穀,ダイコン,カブ,サトイモ,カンショ(甘藷)などの根菜類や葉菜類,ワラビ,ゼンマイなどの山菜,さらに木の実などの採取物を食料としていた。加えて河川湖沼からの漁獲物,猟で得た動物もあり,きわめて多彩ではあったが供給は不安定であった。しかもそれらの食料は,それが得られる季節や旬(しゆん)によって複数が組み合わされているので,全体としてのローテーションは成立しているものの,年間を通しての主食というものはなかったといってよい。農民が米を十分に食べることが可能な機会は,氏神の祭,盆や正月の年中行事,冠婚葬祭などに限られていたのである。農民の主食をもっとも象徴的に表現した言葉はカテ飯である。〈カテル〉とは加える意であるから,カテ飯は米以外のものに少量の米を加えた食べ物ということであり,このようなカテ飯には,副食を必要としないのがふつうであった。したがって,米を主食とする食生活が完成したのは,米の生産が需要を上回った第2次世界大戦後である。
執筆者:坪井 洋文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…油脂類,脂肪の多い食品類。
[食習慣による分類]
主食,副食,間食,嗜好食(コーヒーやチューインガムなど)に分類される。主食はエネルギーを供給するために重要で,日本では摂取エネルギーの25%を米から得ている。…
※「主食」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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