日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウミツバメ」の意味・わかりやすい解説
ウミツバメ
うみつばめ / 海燕
storm-petrel
鳥綱ミズナギドリ目ウミツバメ科に属する海鳥の総称。同科Hydrobatidaeの鳥は外洋にすみ小形で、全長約13~25センチメートル。全身黒褐色のものが多く、翼は細く長い。足には水かきがある。この翼と足を用いて海面近くを歩くように飛び、海の表層に浮かび上がってきた動物プランクトンを嘴(くちばし)でつまみとって食べる。姿や飛び方が陸上のツバメやイワツバメに似ているためこの名がつけられたが、飛び方はむしろ哺乳(ほにゅう)類のコウモリや黒いアゲハチョウの仲間に似ている。風のある海にいることが多く、翼を不規則に羽ばたきながら前進する。いくらか大きい種では、ときおりグライダーのように飛ぶこともある。
[長谷川博]
生態
繁殖様式や生活史はミズナギドリ目のほかの仲間とよく似ている。大洋中の小島で集団営巣し、地面に掘った横穴、あるいは岩の割れ目、すきまを利用した巣にただ1卵を産む。雌雄交替で40~50日間抱卵して、かえす。その後、油状の餌(えさ)や、半消化のものを口移しに雛(ひな)に給餌(きゅうじ)し、9~10週間養育する。繁殖を開始する年齢は陸上の小形の鳥が1、2歳であるのに比べるとずっと遅く5、6歳である。しかし、成鳥が翌年まで生き残る率は90%と高く、長く生きることが多い。営巣地の島に帰るのは暗くなってからで、早朝まだ暗いうちに海に出ていく。産卵から巣立ちまでの期間も3か月半と長い。
[長谷川博]
種類
ウミツバメ類は8属20種に分類され、大きく2群に分けられる。南半球に分布するものは短くて広めの翼があり、足は長く、海面での採餌に適した形態をしている。それに対して、北半球産のものは、翼は細く長く、足は短く、風にのって飛翔(ひしょう)するのに適している。南半球には多様な種がおり、その一群が北半球に侵出し、分化したと考えられている。
日本近海にまれに渡ってくるアシナガウミツバメOceanites oceanitesは亜南極圏の島で繁殖し、北半球に渡って越冬する種であるが、太平洋には少ない。ヒメアシナガウミツバメGarrodia nereisは周年亜南極圏海域で過ごす。この点で北太平洋北部に分布するハイイロウミツバメOceanodroma furcataに対応する種といえる。とくに興味深い種はチリーウミツバメOceanodroma hornbyiで、これは南アメリカ西岸に多いが、巣卵は発見されていない。情況証拠によって内陸部で営巣するのではないかと考えられている。日本列島近海には6種が分布する。寒海性のハイイロウミツバメ、冷海性のコシジロウミツバメOceanodroma leucorhoe、温海性のクロコシジロウミツバメOceanodroma castro、ヒメクロウミツバメOceanodroma mororhis、それに暖海性のオーストンウミツバメOceanodroma tristrami、クロウミツバメOceanodroma matsudairaeがそれである。北海道厚岸(あっけし)沖の大黒島のコシジロウミツバメ、岩手県宮古市日出島(ひでしま)のクロコシジロウミツバメ、岩手県釜石(かまいし)市三貫島(さんがんじま)のヒメクロウミツバメなどの繁殖地は国の天然記念物に指定されている。
[長谷川博]