精選版 日本国語大辞典 「うたて」の意味・読み・例文・類語
うたて
- [ 1 ] 〘 副詞 〙
- ① 物事の度合が異常に進んではなはだしい意を表わす。なぜか非常に。ますますひどく。いよいよただならず。
- ② 気持の負担となり、気に入らない意を表わす。情けなく。つらく。いとわしく。いやなことに。
- [初出の実例]「あはれてふことこそうたて世の中を思ひ離れぬほだしなりけれ〈小野小町〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑下・九三九)
- ③ 否定的な方向に進んだ異様な気持を表わす。気味悪く。変に。ろくでもなく。
- [初出の実例]「このあるじの、またあるじのよきを見るに、うたて思ほゆ」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月一五日)
- [ 2 ] ( 形容詞「うたてし」の語幹 ) 情けない。なげかわしい。気に入らない。
- (イ) 述語に用いる。
- [初出の実例]「あなわびし、あなうたて」(出典:落窪物語(10C後)一)
- (ロ) 多く「の」を伴って連体修飾語に用いる。
- [初出の実例]「ことしもあれ、うたての心ばへや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)紅葉賀)
- (イ) 述語に用いる。
- [ 3 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 情けないさま。困ったさま。
- [初出の実例]「それにはかくやはせんずる。うたてなりける心なしのしれ者かな」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)二)
うたての語誌
( 1 )原形は副詞の「うたた」だが、古くから形容詞的な意味を含み、中古以来、「うたてあり」「うたてし」の形を派生した。「源氏物語」では、「ゆゆし」「心憂し」「恐ろし」などの語とともに用いられ、対象をうとましいものとして拒否・警戒する気持を表わす。
( 2 )「うたた」が状態の変わりゆきのはなはだしいことをいうのに対して、「うたて」は、程度や量の増大のはなはだしさをいい、さらに不快な気分に傾いている点に相違がある。