エキノコックス(読み)えきのこっくす

共同通信ニュース用語解説 「エキノコックス」の解説

エキノコックス

サナダムシ一種寄生虫幼虫を宿した野ネズミを食べたキツネや犬の腸で成虫に育ち、卵がふんと一緒に排出される。卵が人やサルなどの口から体内に入り寄生するとエキノコックス症になり、数年から十数年の潜伏期間を経て重い肝障害を起こす。感染部位を切除すれば治るが、長期間自覚症状がないため、発見が遅れて死に至ることもある。人の体内では幼虫のままで卵が作られず、人から人へは感染しない。

更新日:

出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エキノコックス」の意味・わかりやすい解説

エキノコックス
えきのこっくす
[学] Echinococcus

扁形(へんけい)動物門条虫綱円葉目テニア科エキノコックスEchinococcus属の寄生虫の総称。日本には単包(たんほう)条虫E. granulosus(全国的に散発するがまれ)と多包(たほう)条虫E. multilocularis(北海道全域)の2種が分布する。

 単包条虫の成虫は体長2~7ミリメートル、頭節と3個の片節からなり、イヌなどの小腸に寄生する。イヌの糞便(ふんべん)とともに排出された卵は、中間宿主ウシヒツジシカ、ウマなどに食べられ、その小腸内で孵化(ふか)した幼虫は腸壁に侵入し、血流あるいはリンパによって肝臓や肺などの臓器に移行し包虫(ほうちゅう)を形成する。単包条虫の包虫を単包虫といい、初めは小さな袋が徐々に発育して鶏卵(けいらん)大あるいは小児頭大にもなり、袋内部は液で満たされる。この袋の内壁から多数の繁殖胞とよばれる小さな袋が生じ、各繁殖胞には数個から100個以上の原頭節が含まれる。この結果、1個の卵から無数の原頭節がつくられることになる。牧畜の盛んな国ではヒツジやウシの内臓や雑肉をイヌに与える。これに包虫が寄生していれば包虫内の原頭節は固有宿主であるイヌの小腸内で成虫に発育する。

 一方、多包条虫の成虫は体長1.2~4.5ミリメートルで、頭節と2~4個の片節からなり、キツネやイヌなどの腸に寄生している。卵は中間宿主のノネズミ類に食べられ、肝臓などで包虫をつくる。多包条虫の包虫を多包虫とよび、直径1~5ミリメートルの小さな袋が次々と形成されて集合体となる。原頭節を含む繁殖胞は袋壁内にできる。多包虫は原発部位から他の臓器へ転移することもあり、悪性腫瘍(しゅよう)を思わせる。

 ヒトがキツネの毛皮あるいは野生のイチゴやコケモモなどに付着した卵を経口摂取すれば、中間宿主となって包虫症にかかる。北海道のキタキツネの多包条虫感染率は50%である。包虫は外科的に摘出する以外確実な治療法はない。免疫診断などで早期に発見することが重要となる。エキノコックスは初め幼虫の包虫につけられた名称であるが、のちに成虫にも使われるようになった。このため成虫の包条虫と幼虫の包虫の両者に用いられる。

[町田昌昭]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例