包虫症(読み)ほうちゅうしょう(エキノコックスしょう)(英語表記)Echinococcosis (Hydatid disease)

六訂版 家庭医学大全科 「包虫症」の解説

包虫症(エキノコックス症)
ほうちゅうしょう(エキノコックスしょう)
Echinococcosis (Hydatid disease)
(感染症)

どんな感染症か

 エキノコックスという条虫(じょうちゅう)幼虫包虫)が寄生する病気です。日本では、多包(たほう)条虫による多包性エキノコックス症(多包虫症)が病気として重要です。

 成虫は体長1㎝以下と小さく、イヌやキツネの腸に寄生しています。虫卵はそれらの動物の糞と一緒に排出され、虫卵をヒトが飲み込むと幼虫となって感染します。幼虫は血液を通って主に肝臓に寄生し、そこで包虫になって増殖します。

 多包虫症は、20世紀以降に北海道に定着したと考えられ、現在、北海道全域で流行しています。北海道ではキタキツネが最も重要な感染源で、約60%のキタキツネが感染していると報告されています。最近、本州でも包虫症が報告されていますが、持ち込まれたルートは不明です。

症状の現れ方

 包虫の増殖は遅く、感染してから長期(数年~十数年)にわたって無症状ですが、包虫が増殖してスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。

 肝臓に寄生している場合、肝臓がはれて上腹部に痛みを感じるようになり、黄疸(おうだん)の症状が出ることがあります。また、包虫は脳や肺に転移することがあり、脳転移では神経症状が現れます。症状が現れてから治療せずにいると、10年で94%の患者さんが死亡します。

検査と診断

 血清検査と画像検査を併用して診断を行います。ただし、包虫が小さいうちは、どちらの検査でも陰性になることがあります。北海道では、多包虫症の集団検診を実施しています。

治療の方法

 手術で病巣を切り取る以外、治療法はありません。そのためにも早期発見・早期治療が非常に重要で、その場合の予後は良好です。

病気に気づいたらどうする

 感染初期には無症状なので予防が最も大切です。北海道で飼育されているイヌのうち、1%以上がエキノコックスの成虫に感染しているという報告があります。

 北海道の各市町村の保健所では、住民のエキノコックス血清検査を無料で実施しています。キタキツネや感染犬と接触のある人は血清検査を受けましょう。

 北海道への旅行者は、キタキツネと接触しないことが大切です。キタキツネのすんでいる地域では、土や草木などに触れたら手を十分に洗う、沢の水を生で飲まないなど、虫卵が口に入らないように気をつけましょう。

奈良 武司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「包虫症」の意味・わかりやすい解説

包虫症
ほうちゅうしょう
hydatidosis
hydatid disease
larval echinococcosis

エキノコックス属の条虫は日本に単包条虫と多包条虫の2種が分布するが、包虫症はこれらの幼虫(単包虫と多包虫)によっておこる人獣共通感染症である。エキノコックス症ともいい、感染症予防・医療法(感染症法)では4類感染症に分類されている。ヒトは中間宿主であり、人体内で幼虫が成虫になることはない。

 単包虫症は日本で全国的に散発するがまれであり、多包虫症は北海道の全域およびまれに東北地方などにみられる。多包虫のヒトへの感染は、キツネやイヌの糞(ふん)とともに排出された卵を経口摂取することによる。具体的にいえば、卵に汚染されたキツネやイヌの毛皮、飲料水、野生植物の漿果(しょうか)などを介して感染が成立する。小腸内で孵化(ふか)した幼虫は腸壁を通過し、血流やリンパ流によって肝臓に運ばれ、直径1~5ミリメートルの小さい袋の集合体となって増殖し、肝腫大(しゅだい)、肝障害を引き起こす。一般に、感染後10年以上経過してから症状を現すので、発見が遅れることが多い。悪性腫瘍(しゅよう)のように血流を介して他の臓器に転移することもある。

 治療としてはプラジカンテルなどの薬物療法も試みられているが、外科的に摘出する以外に確実な治療法はない。免疫診断などで早期発見に努める。

[町田昌昭]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「包虫症」の意味・わかりやすい解説

包虫症
ほうちゅうしょう
echinococcosis

エキノコックス症あるいはエヒノコックス症ともいう。包虫の寄生によって起る条虫症である。エキノコックスとは本来,条虫の幼虫の形態上の呼称であるが,そのまま属名として用いられている。ヒトとの関係が明らかな種類は単包条虫 (以前はい粒条虫と呼ばれた) と多包条虫で,幼虫はそれぞれ単包虫,多包虫と呼ばれる。これらの条虫はイヌやキツネを終宿主とするが,たまたま虫卵を経口摂取するとヒトが中間宿主となり,腸管内で孵化して肝臓や肺に寄生する。症状としては,肝臓の寄生によって上腹部不快感,肝腫大,腹水や黄疸が起る。脳に寄生しててんかんの原因となることもある。治療としては,包虫を外科的に摘出する以外に有効な方法はない。感染源であるイヌなどの糞便の始末に注意し,虫卵で汚染された食物が直接口に入らないよう留意するのがよい。

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栄養・生化学辞典 「包虫症」の解説

包虫症

 [Echiococcus]属の条虫の幼虫による感染症で,組織にシスト(嚢子)が形成される.肝包虫症は肝不全で死に至る可能性があり,肺包虫症は胸膜炎,気管支炎を起こす.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の包虫症の言及

【エキノコックス】より

…ヒトもまた中間宿主で,イヌとの接触の際,イヌの体毛に付着した虫卵を知らずに摂取して感染することが多い。包虫の寄生部位としては,肝臓,肺が最も多く,そのほか腎臓,脾臓,脳などにも寄生し,その部位によっては致命的な包虫症echinococcosis(hydatid disease)の原因となる。一方,タホウジョウチュウの場合,終宿主はイヌ,キツネ,中間宿主は主として野ネズミの類であるが,その包虫は多房性であり,またタンホウジョウチュウの場合と異なり周囲が結合組織で覆われないため破れやすく,血行またはリンパを介して転移し多発することがある。…

【ジョウチュウ(条虫)】より

…一方,タンホウジョウチュウEchinococcus granulosusやタホウジョウチュウE.multilocularisの場合,終宿主はイヌ,キツネなどで,ヒトは中間宿主である。主としてイヌの体毛に付着した虫卵を経口摂取して感染するが,六鉤幼虫は小腸上部で孵化して腸壁に穿入(せんにゆう)し,肝臓,肺,脳などいろいろな臓器組織に至って包虫を形成し,ヒトに致命的な害(包虫症)を与える。またコガタジョウチュウHymenolepis nanaやシュクショウジョウチュウH.diminutaは,本来ネズミの寄生虫であるが,ヒトにも感染し,とくに子どもに多い。…

※「包虫症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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