改訂新版 世界大百科事典 「ジョウチュウ」の意味・わかりやすい解説
ジョウチュウ (条虫)
tapeworm
条虫綱Cestodaに属する扁形動物の総称。すべての種類が寄生性で,いずれの発育段階においても消化管を有しないという特徴がある。人体寄生のものは,成虫が通常ヒトの腸管内に寄生して,腹痛や下痢,栄養障害などを起こす。これらはすべて多節ジョウチュウで,1個の頭節scolexと数個ないし数千個の片節(体節)proglottideとからなり,全長10mに達するものがある。それらのあるものは真田紐(さなだひも)に似ているところから,この紐が一般に使用されるようになった江戸時代ころから,ジョウチュウはサナダムシと呼ばれるようになったという。頭節は頭部と頸部とからなり,頭部には宿主に固着するための構造物として,吸盤(通常4個)または吸溝(背腹正中部に1対)を備えている。また,頭部の先端が突出して額嘴を形成し,その周囲に小鉤を有する場合がある。頸部は,片節の新生に重要な部分である。片節は生殖にあずかり,通常雌雄1組の生殖器を備えているが,頸部に近いほど片節も小さく生殖器も未熟であり,末端に向かって片節は大きく生殖器も成熟する。したがって片節は,未熟片節,成熟片節,および子宮内に虫卵を有する受胎片節の3群に分けられる。頭節から末端までの全体をストロビラstrobila(片節連体)という。消化管がないので栄養は体表から吸収されるが,これはあたかもヒトの腸絨毛(じゆうもう)に類似した構造の角皮絨毛と呼ばれる微小な無数の突起を通して行われる。
ジョウチュウの発育史の特徴としては,キュウチュウと異なり原則として(エキノコックスを除き)幼虫の段階での増殖がないことが挙げられる。虫卵は糞便とともに排出されるが,片節内または外界で発育して,6本の鉤を有する六鉤(ろつこう)幼虫onchosphereとなる。これは幼虫被殻と呼ばれる1~2層の被膜に覆われているが,それにさらに繊毛を生ずるものがあり,その場合の幼虫をコラキディウムcoracidiumと呼ぶ。これらの幼虫のその後の発育には通常一つまたは二つの中間宿主を必要とし,変態を行って種々の形の幼虫となる。その最後の発育形態のものが終宿主に摂取されると,その腸管内で発育して成虫となる。
ジョウチュウの種類
人体寄生のジョウチュウには擬葉目と円葉目とがあるが,ヒトは終宿主となることもあり,中間宿主となることもある。擬葉目の代表例としてはコウセツレットウ(広節裂頭)ジョウチュウDiphyllobothrium latumがある。このジョウチュウでは,虫卵内に形成されたコラキディウムは水中で孵化(ふか)し,第1中間宿主のケンミジンコに摂取されてプロケルコイドprocercoidとなる。これが第2中間宿主の魚類に摂取されると,魚肉内で発育して紐状のプレロケルコイドplerocercoidとなる。日本で第2中間宿主として重要なものは,サクラマス,カラフトマス,ニジマス,サケなどであり,ヒトはこれらの魚肉の生食の際プレロケルコイドを摂取して感染し,これが小腸で成虫になる。しかし同じ擬葉目でも,イヌ,ネコを固有宿主とするマンソンレットウジョウチュウD.mansoniのプレロケルコイド(ヘビ,カエル,ニワトリなどが宿主)を摂取した場合には,成虫に発育せずに幼虫のまま体内を移動し,皮下のいろいろな場所に腫瘤をつくる孤虫症sparganosisの原因となる。
円葉目には,テニア科のムコウ(無鉤)ジョウチュウ,ユウコウ(有鉤)ジョウチュウ,タンホウ(単包)ジョウチュウ,タホウ(多包)ジョウチュウなど重要な人体寄生虫が含まれ,また膜様条虫科のコガタ(小型)ジョウチュウ,シュクショウ(縮小)ジョウチュウ,ジレピス科のウリザネ(瓜実)ジョウチュウDipylidium caninumなどが含まれる。これらのうち,ムコウジョウチュウTaenia saginataとユウコウジョウチュウT.soliumでは中間宿主(前者はウシ,後者はブタ)の腸管内で六鉤幼虫がかえり,それが筋肉などに侵入して囊虫を形成し,ヒトは生肉の中のそれを摂取して感染し,腸管内で成虫となる。またユウコウジョウチュウの受胎片節がヒトの腸管内で破損し多数の虫卵が遊離した場合,六鉤幼虫が自家感染を起こし,ヒトがあたかも中間宿主のようになって囊虫が筋肉,脳,目,心臓などに形成され,人体有鉤囊虫症を起こすことがある。一方,タンホウジョウチュウEchinococcus granulosusやタホウジョウチュウE.multilocularisの場合,終宿主はイヌ,キツネなどで,ヒトは中間宿主である。主としてイヌの体毛に付着した虫卵を経口摂取して感染するが,六鉤幼虫は小腸上部で孵化して腸壁に穿入(せんにゆう)し,肝臓,肺,脳などいろいろな臓器組織に至って包虫を形成し,ヒトに致命的な害(包虫症)を与える。またコガタジョウチュウHymenolepis nanaやシュクショウジョウチュウH.diminutaは,本来ネズミの寄生虫であるが,ヒトにも感染し,とくに子どもに多い。これには,ノミやコクゾウムシなどの中間宿主体内の擬囊尾虫(囊虫の一型)の摂取または虫卵の直接摂取により感染する場合があり,さらに,自家感染もある。
駆虫・治療
ジョウチュウを駆除するにはカマラ,綿馬(めんま),ザクロ皮,ビチオノールなどが一般に用いられるが,条虫症の治療には,前述した自家感染や囊虫症,包虫症の可能性を考慮に入れて行うことがたいせつである。孤虫症や囊虫症,包虫症の場合には,虫体を外科的に摘出するのが確実な治療法である。
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報