エジプト革命(読み)えじぷとかくめい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エジプト革命」の意味・わかりやすい解説

エジプト革命
えじぷとかくめい

1952年7月23日、ナギブナセルらを指導者とする「自由将校団」はクーデターによって権力掌握、ムハンマド・アリー王朝を打倒した。この前後から十数年間にわたるエジプトにおける変革過程をエジプト革命という。エジプト民衆は19世紀末以来、王制とイギリスの軍事支配の下で、封建的大土地所有制と外国人特権のもたらす搾取と差別に苦しみ、王制打倒と英軍事支配からの脱却はエジプト近代史を貫く民族的課題だった。第二次世界大戦後すでにエジプトでは、イギリス・エジプト軍事同盟条約(1936年締結)廃止を要求する国民運動や、大地主層・外資系大企業と対決する農民・労働者の闘争が高まりつつあった。クーデターで王制を打倒し、エジプト共和制を樹立した自由将校団は、革命推進の中核として、エジプト人の民族的自立、民主主義回復の役割を担っていた。

 ナギブが指導する革命委員会は、旧憲法の廃止、農地改革令、政党解散令を通じて旧支配勢力を排除しつつ社会改革事業に着手した。だが革命政府は当初、自由将校団内部の対立や欧米の軍事的外圧を前に絶えず革命挫折(ざせつ)の危機に直面せざるをえなかった。革命政権下で唯一合法化された宗教的社会運動団体で広範な大衆結集力を有するムスリム同胞団は、革命委員会内部へ強力な影響力を及ぼし、革命の方向をめぐり委員会の内部対立が深まった。1954年2月ムスリム同胞団はナセル暗殺を企てたが失敗、同胞団は解体され、ナギブは失脚した。これを境にナセルが革命の最高責任者となり、革命は新段階を迎えた。

 ナセルは、第一次農地改革や産業振興に取り組む一方、英軍完全撤退実現にこぎつけ、また欧米の軍事的締め付けに対し社会主義圏への接近や非同盟諸国との連帯強化で対抗した。1956年6月英軍撤退完了に続いて、翌7月ナセルは、最大の外資系企業であるスエズ運河国有化を宣言、エジプトの完全な自主独立を打ち出した。おりから全アラブ世界では民族運動が激化してきており、そうした情勢下でイギリス、フランス、イスラエルは10月、エジプトへの軍事侵攻を企てた(第二次中東戦争)。だが、エジプト国民の結束した抵抗と全アラブやアジア・アフリカ諸国民のエジプト支援の前に3国の侵攻は失敗、エジプトは政治的に勝利して完全な自主独立を達成した。57年アイゼンハワー・ドクトリンで始まったアラブ世界への米軍事介入に対しても、58年のエジプト・シリア合併、イラク革命、ヨルダン・レバノン民衆の米英軍事介入阻止、さらには62年のイエメン革命(旧北イエメン)が相次いで生起し、全アラブの民族運動が相互に結び付いて展開し始めた。ナセルはアラブ人民の一体性(アラブ民族主義)を重視しエジプト革命を全アラブ民族解放運動の中核に位置づけることによって、革命の前進を図った。

 だがエジプトは、1960年代に入り、「社会主義」化と裏腹の官僚主義による民衆疎外や、シリアとの合併失敗(1961)が示すようなアラブ世界での大国主義的傾向を強め始めた。北イエメン内戦長期化(1962~67)と67年第三次中東戦争でエジプトの政治的・経済的危機は頂点に達し、革命はエジプト経済開発主義へ変節し始めた。

[藤田 進]

『中岡三益著『現代エジプト論』(『アジアを見る眼56』所収・1979・アジア経済研究所)』『江口朴郎・岡倉古志郎・鈴木正四監修『第三世界を知る2 中東の世界』(1984・大月書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エジプト革命」の意味・わかりやすい解説

エジプト革命
エジプトかくめい
Egyptian Revolution

1952年7月 23日の未明 G.A.ナセル中佐の率いる自由将校団がクーデターを起して国王ファールーク1世を追放したのち,エジプトに起った一連の政治,経済,社会改革をさす。 53年6月には共和制を宣言して当時国民に人気のあった M.ナギーブ中将を初代大統領にかつぎ出した。しかし,土地改革問題やムスリム同胞団の処遇をめぐってナセルとナギーブが対立,54年 11月にはナギーブが追放されてナセルの地位が確立した。この革命により,オスマン帝国の支配以来外国人の支配下におかれてきたエジプトの政治は初めてエジプト人自身によって握られ,非同盟中立政策やスエズ運河国有化,アスワン・ハイダム建設決定,土地改革や社会主義的経済政策の導入へとつながり,アラブ世界全体にきわめて大きな影響を与えた。 (→エジプト独立運動 )

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