改訂新版 世界大百科事典 「エブリマン」の意味・わかりやすい解説
エブリマン
Everyman
イギリス中世〈道徳劇〉の代表的傑作。おそらく15世紀末にオランダで刊行された《人間》を英訳したもので,16世紀初めにイギリスで出版された。〈エブリマン〉とは〈もろもろの人間〉〈あらゆる人間〉の意であるが,この作品では,普遍的な人間存在の代表者としてというよりも,カトリックのキリスト教徒の代表者として登場し,作中,一個の寓喩的な人物に転化する。この道徳劇の主題は,一種の〈メメント・モリmemento mori(死をおもえ)〉である。すなわち,人間は必ず死すべきはかない存在であり,死に際しては,現世の友情も財産も知識も美も分別もなんの役にも立たぬ,ただひたすらおのれの善行を大切にし,悔悛によって神の聖寵を受け,霊魂の救いを得るよう,人間は常に死を心にとどめ,神の栄光の中に生きることを心がけるべきである,と説く。道徳劇の伝統的な手法として,この作品もまた,友情,知識,美,分別等々の抽象観念を擬人化したアレゴリーとして登場させる。16世紀初頭の出版とはいえ,内容,形式ともに中世的な作品である。
執筆者:安東 伸介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報