日本大百科全書(ニッポニカ) 「おもちゃ絵」の意味・わかりやすい解説
おもちゃ絵
おもちゃえ
子供の手遊び向きの図柄に描かれた浮世絵版画(絵草紙)の一種。玩具(がんぐ)絵。江戸時代の安政(あんせい)(1854~60)前後から明治中期にかけて流行し、当時の子供たちに親しまれた。玩具が浮世絵師によって描かれるようになったのは明和(めいわ)(1764~72)初期からで、文化・文政期(1804~30)になると、浮世絵師と刷師(すりし)とが協力して毎年正月に「春興刷(しゅんきょうずり)」という錦絵(にしきえ)を発表。画題に犬張り子、奈良人形、羽子板、春駒(はるこま)、鞠(まり)など、春の遊びに用いられる玩具類を扱った。以後おもちゃ絵が流行し、子供の好きそうな題材が選ばれた。羽子板絵、武者絵、あるいは動植物を人物化した戯画風のもの、さらに子供の健康を守る疱瘡除(ほうそうよ)けの赤絵や、社会科的な教訓絵、細工絵などがある。これらを切り抜いて小箱に貼(は)ったり、組立て絵、立てばんこ(切り組み絵)式に細工したりした。また絵がそのまま玩具となる十六武蔵(むさし)、福笑い、双六(すごろく)、判じ絵、凧(たこ)絵、辻占(つじうら)絵、影絵なども含まれる。作者には、歌川国芳(くによし)と門下の芳藤(よしふじ)、芳幾(よしいく)たち、大坂では貞信(さだのぶ)、小信(このぶ)があり、ことに芳藤の作品に優れたものが多い。図柄には、大名行列、祭礼、相撲(すもう)、姉様、童話物、いろはかるた、五十三次、狐(きつね)の嫁入り、化け物尽くし、猫芝居、変わり絵、西郷戦争などがあり、絵本などの児童雑誌が出現する前の日本的な童画集とみることもできる。しかし児童出版物などに押され、版木の消滅したものからしだいに姿を消した。
[斎藤良輔]