改訂新版 世界大百科事典 「カゼイン繊維」の意味・わかりやすい解説
カゼイン繊維 (カゼインせんい)
casein fiber
牛乳中に含まれるタンパク質のカゼインから,人工羊毛を目ざして作られた再生タンパク質繊維。キューティクル(うろこ状表面)のある羊毛と違って,平滑な表面をもつため洗濯しても収縮しない利点がある。1935年からイタリアでラニタールLanital,次いで39年からアメリカでアララックAralac(現在製造中止)が製造された。ほかに,イギリスでフィブロレインFibrolane,イタリアでメリノバMerinova(いずれも商標)が牛乳を原料として製造されている。カゼイン繊維の温かさと柔らかい手触りは羊毛によく似ており,価格が安い。カゼイン繊維は羊毛と混紡して使用される。普通はステープルファイバーとして市販される。水にぬれると強度が乾燥時の50~70%に低下するので注意が必要である。染色は羊毛よりも容易である。製法は,クリームを取り除いた牛乳を冷却後,酸を加えてカゼインを沈殿させる。カゼインをアルカリに溶解し,酸浴へ押し出し,延伸,硬化させる。短く切った繊維をホルムアルデヒドと加熱し,不溶化する。日本では69年に,カゼインをアクリロニトリルと共重合をした,絹様の風合いをもつ繊維(商標シノンChinon)が工業化された。
執筆者:瓜生 敏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報