牛乳(読み)ギュウニュウ

デジタル大辞泉 「牛乳」の意味・読み・例文・類語

ぎゅう‐にゅう〔ギウ‐〕【牛乳】

牛の乳。白色の液体で、脂肪たんぱく質糖分などの栄養に富む。殺菌などの処理をして飲料とし、バターチーズヨーグルト酸乳飲料などの原料とする。ミルク。
[補説]食品衛生法にもとづく「牛乳」は乳脂肪3.0パーセント以上のもの。

牛乳類の種類と成分規格
種類別名称無脂乳固形分乳脂肪分
牛乳8.0パーセント以上3.0パーセント以上
特別牛乳8.5パーセント以上3.3パーセント以上
成分調整牛乳8.0パーセント以上規定なし
 低脂肪牛乳 〃0.5パーセント以上1.5パーセント以下
 無脂肪牛乳 〃0.5パーセント未満
加工乳 〃規定なし
乳飲料乳固形分3.0パーセント以上 
※乳固形分は、無脂乳固形分と乳脂肪分の合計。
[類語]ミルクスキムミルク脱脂乳粉ミルク粉乳練乳コンデンスミルクエバミルク

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精選版 日本国語大辞典 「牛乳」の意味・読み・例文・類語

ぎゅう‐にゅうギウ‥【牛乳】

  1. 〘 名詞 〙 牛のちち。白色の液汁で、脂肪、蛋白質、ビタミン、糖分などを含み、飲料に供する。また、バター、チーズ、乳酸飲料などの原料に用いる。ミルク。牛(ぎゅうとう)
    1. [初出の実例]「牧牛女に牛乳を乞て」(出典:百丈清規抄(1462)四)
    2. [その他の文献]〔魏書‐王琚伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「牛乳」の意味・わかりやすい解説

牛乳 (ぎゅうにゅう)

ウシが分娩(ぶんべん)のときから子牛の栄養のために乳腺で生産し,分泌するもの。

牛乳を人間の飲食用に供したのは古い時代からであって,約6000年前にインドではすでに重要な食品になっていたといわれる。また,チンギス・ハーンの兵士たちが乾燥乳を食物として携帯したとも伝えられる。日本では,大化改新のころ,福常(善那ともいう)が孝徳天皇に牛乳を献上し,天皇は善那に〈和薬使主〉の姓と〈乳長上〉の職を与えたという。その後,宮中で乳牛が飼われたこともあり,《延喜式》には諸国に〈蘇(そ)〉を作って献上させたことが記されている。蘇は現在の練乳に相当するものとされているから,この時代には酪農がかなり進み,牛乳が利用されていたことが想像できる。しかし,天武天皇の時代に家畜の食用が禁じられ,肉食忌避の風潮が拡大するにともない牛乳の飲用も長く中断したが,江戸時代にオランダ人により西洋文化が伝えられるに至り,再び牛乳が利用されるようになった。徳川家斉はインドの白牛を飼ってその乳で牛酪(バター)を製造し,徳川斉昭も水戸でウシを飼い,牛酪を製造した。しかし,この時代の牛乳の利用は上流社会に限られ,また医薬用の域を越えず,牛乳,乳製品の消費が一般化したのは明治維新後のことである。

牛乳の成分中では,水分がもっとも多くて約88%を占めている。この中に乳糖および無機質は溶解しているが,脂肪(脂質)は乳濁液(エマルジョン)となり,タンパク質はコロイド状の懸濁液(サスペンジョン)となってそれぞれ分散している。牛乳の外観が白色不透明なのはこのためである。各成分を便宜上水分と固形物に大別し,固形物のうち脂肪以外の部分を無脂固形物と呼んでいる。また牛乳の加工上,脂肪に富む部分を分別してこれをクリームと呼び,残りの部分を脱脂乳(スキムミルク)という。脱脂乳に対して脂肪を含む牛乳を全乳と称することがある。脱脂乳に酸または凝乳酵素(レンニン,ペプシン)を加えると凝固する。この凝固物をカードといい,その主成分は牛乳の主要タンパク質であるカゼインである。カードを除いた残りの液は透明な黄緑色を呈し,乳清またはホエーwheyといわれる。これには乳糖のほか,乳清タンパク質,無機質,水溶性ビタミンなどが含まれる。乳清が黄緑色を呈するのはビタミンB2のためである。全乳から同様にして凝固させたカードの場合にはカゼインのほかに脂肪が含まれる。脂肪は酸や凝乳酵素により沈殿する性質をもたないが,カゼインが凝固する際に包みこまれて同時に沈殿するものである。成分組成に影響する要因としては,乳牛の品種,系統などの遺伝的要因,泌乳期,産次,年齢などの生理的要因,気候,飼育法などの環境的要因,乳房炎などの疾病的要因がある。日本の乳牛の大部分を占めるホルスタイン種は,もっとも泌乳量の多い品種で1泌乳期中の生産量は約6000kg(1日平均約21kg)に達する。しかし,固形分はジャージー種などの牛乳にくらべて低い。分娩直後の初乳や乳房炎乳の組成は通常の牛乳と異なるため,異常乳と呼ばれ,飲用牛乳や乳製品製造に用いることはできない。以下,主要成分について述べる。

 (1)タンパク質 カゼインと乳清タンパク質に大別される。カゼインは全タンパク質の76~86%を占める牛乳主要タンパク質であり,数種の異なるカゼイン成分よりなっている。牛乳中ではカルシウムやリンと複雑に結合してコロイド状態で存在する。牛乳が酸や凝乳酵素で凝固するのはカゼインが凝固するためで,ヨーグルトやチーズの製造はこの性質を利用したものである。乳清タンパク質は全タンパク質の14~24%を占め,おもな種類としてラクトグロブリンラクトアルブミンなどがあり,初乳では免疫グロブリンが多い。(2)脂肪 直径1~10μ(平均3μ)の,タンパク質皮膜で覆われた脂肪球の形で牛乳中に分散している。比重が軽いために,牛乳を静置すると大きい脂肪球ほど浮上しやすく,表面にクリーム層ができる。飲用牛乳ではこれを防ぐために牛乳を均質化して脂肪球をさらに微細なものにしてある。牛乳脂肪の98~99%は中性脂肪(トリグリセリド)で,そのほかに微量のリン脂質やステロール類が含まれている。脂肪を構成する脂肪酸として,酪酸などの融点の低い脂肪酸が多く,リノール酸のような不飽和脂肪酸の少ないのが特徴である。(3)乳糖 牛乳の糖質の99.8%は乳糖で,そのほかにブドウ糖や果糖がごく微量含まれている。牛乳には約4.5%の乳糖が含まれているが,乳糖の甘みは砂糖の約1/5に過ぎないので牛乳には甘さがあまり感じられない。乳糖には旋光度の異なる二つの光学異性体,α-乳糖とβ-乳糖が存在する。牛乳中では二つの型の乳糖が平衡状態に達した平衡乳糖の形で存在している。乳糖は乳酸菌により発酵し,乳酸を生成する。乳酸発酵はヨーグルトやチーズの製造に広く用いられている。(4)無機質 一般に灰分ともいわれ,約0.7%含まれている。牛乳中ではカリウム,ナトリウム,カルシウム,マグネシウムは塩化物,リン酸塩,クエン酸塩などの形で溶解して存在するほか,一部のカルシウム,マグネシウムのリン酸塩,クエン酸塩は不溶性で,カゼインと結合してコロイド状態で存在している。(5)ビタミン 比較的多く含まれているビタミンはA,B1,B2,B6,ナイアシンおよびパントテン酸であるが,とくにAとB2が豊富である。これらのビタミンは牛乳の加熱殺菌に対しても比較的安定である。

牛乳に含まれる栄養素のうち,成人にとってとくに有用なものはタンパク質とカルシウムである。タンパク質は必須アミノ酸をバランスよく含み,栄養価は鶏卵のタンパク質に次いで優れたものである。米食を中心とする食事で不足しがちな,リジンのような一部の必須アミノ酸の補給に好適である。カルシウムはカゼインと結合して,吸収されやすい形で存在している。

動物の乳汁はそれぞれの種属の幼動物に最も適した栄養物として分泌されるものである。一般に成長の速い動物では,体を構成するためにとくに重要な無機質とタンパク質の含量が高いといわれ,牛乳と母乳(人乳)についてもこの傾向が見られる。乳児にとっては母乳は必要な栄養素をすべて含んだ完全食品であるのみならず,母乳に含まれる免疫グロブリンにより新生児は母体から免疫性を得る。母乳による育児が最も優れているが,母乳の不足,母親の病気,就労などの理由で母乳が与えられない場合がある。その際に牛乳をそのまま与えることは成分の相違のため乳児の栄養にとり不適当な点があるので,牛乳の成分を質的,量的に変えて,できるだけ母乳に近づけた製品の調製粉乳(育児用粉乳)が与えられる。牛乳のタンパク質は含量が母乳の2.6倍と多いのみならず,性質も異なる。牛乳タンパク質にはカゼインが多く含まれているために,胃の中で酸とペプシンの作用を受けて粗大なカード(凝固物)を作り,乳児による消化吸収性が劣る。調製粉乳ではカードを軟らかくする処理(ソフトカード化)が行われている。脂質の含量は牛乳と母乳では大差はないが,必須脂肪酸であるリノール酸含量が牛乳脂質では少なく,調製粉乳ではリノール酸を多く含む植物油を用いて強化されている。糖質は牛乳,母乳ともほとんど乳糖であるが,牛乳中の含量は少ない。調製粉乳には乳糖が増強され,溶解したときに母乳とほぼ等しい乳糖濃度になる。無機質は牛乳には母乳の約3.5倍含まれる。過剰の無機質は乳児の腎臓の負担になるので,調製粉乳ではイオン交換などの方法でカルシウム,ナトリウム,カリウム,リンなどを一部除去すると同時に鉄が強化されている。
粉乳

牛乳は,飲用に供せられるほか,クリーム,バター,チーズ,練乳,粉乳,ヨーグルト,アイスクリームなど種々の乳製品の原料となる。

 飲用乳とは牛乳を直接飲用に供するために加工処理したもので,市乳とも呼ばれる。ガラス瓶または紙容器に入れて販売される。牛乳には微生物が発育しやすく,変質腐敗が早く起こる。加工処理の目的は,なるべく成分を損なうことなく加熱殺菌し,食品衛生上安全なものとし,かつ保存性を与えることにある。

(1)牛乳の検査 搾乳後,すぐ冷却された牛乳は工場に運ばれる。原料乳の性質は食品衛生上重要であり,また製品の品質に及ぼす影響も大きいので,工場に到着した牛乳はすぐ次の乳質検査を受ける。(a)風味試験 異味,異臭がないかを調べる。(b)アルコール試験 牛乳の新鮮度試験法の一つで,牛乳に同量の70%アルコールを加えて凝固の有無を調べる。牛乳が古かったり,搾乳後の衛生管理が悪いと,乳酸菌が増殖して乳酸をつくる。このようにして酸度の高くなった牛乳ではカゼインが不安定となり,アルコールの添加により凝固する。(c)脂肪定量 飲用乳の脂肪率には規格があり,さらに原料乳の価格は脂肪率により決められるので重要な検査である。(d)セジメント試験 牛乳中のごみや異物の量を調べ,搾乳後の取扱いが衛生的であったかどうかを判定する。さらに比重,酸度,細菌数,抗生物質検出試験などを行う。原料乳として使用する牛乳は,比重1.028~1.034(15℃),酸度0.18%以下,細菌数(直接個体検鏡法)1ml当り400万以下でなければならない。また,初乳や,抗生物質を使用してそれが残留している間の牛乳は使用できない。

(2)牛乳の清浄 乳質検査の終わった牛乳は,貯乳の前にごみや異物を除かなければならない。これを清浄といい,ろ過または遠心分離により行われる。遠心力を高めて,牛乳中の細菌の約90%を同時に除去する方法もある。

(3)貯乳 清浄にした牛乳を4℃に冷却し,断熱性のステンレス製貯乳タンクに貯乳し,原料乳の入荷量と加工処理量との均衡を保つ。

(4)標準化 飲用乳には成分規格が定められているので,これに合致するように原料乳の成分調整を行うことを標準化という。標準化は脂肪または無脂固形分の含量について行うが,原料にはクリームまたは脱脂乳が用いられる。

(5)均質化 牛乳の脂肪球が浮上してクリーム層が分離し,不均質になるのを防ぐために行う処理で,高圧式のホモジナイザーが用いられる。約60℃に加熱した牛乳を,高圧ポンプで微細な間隙(かんげき)から押し出して急激に圧力を低くすることにより脂肪球を細分する。牛乳脂肪球の大きさは直径0.1~10μであるが,これを2μ以下に細分するとその浮上はひじょうに遅くなる。正常に均質化された牛乳では大部分の脂肪球が1μ内外に細分されている。栄養的には,脂肪球の細分によって脂肪がいくらか消化されやすくなり,さらにカードも柔らかくなるのでタンパク質の消化もややよくなる効果がある。

(6)殺菌,滅菌 牛乳は栄養素に富む液体であるから微生物が発育しやすく,これを加熱殺菌して衛生上安全なものにしなければならない。乳業ではこの処理のうち,とくに病原菌を完全に殺滅し,その他の微生物の発育もなるべく抑制して,しかも牛乳の風味や栄養価値を極力損じないことを目的として行われる加熱処理を殺菌という。また,風味や栄養価に多少損失があっても長く保存するために,微生物を完全に殺滅することを目的とした加熱処理を滅菌という。加熱処理法としては,保持殺菌法という比較的低い温度で長時間(63℃,30分)殺菌する方法から,より高い温度で短時間殺菌する方法に変わってきて,現在では120~130℃で2~3秒加熱するUHT(超高温)加熱法が行われている。加熱温度はひじょうに高いが加熱時間がきわめて短いため,牛乳成分の変化はかえって少ない。この殺菌条件は滅菌またはそれに近いので細菌数はほとんどゼロになり滅菌乳に近い。しかし,加熱後の容器への充てんは厳密な無菌状態では行っていないので再汚染の可能性が残り,滅菌乳とはいえない。

(7)冷却,充てん 殺菌後,直ちに冷却して10℃以下とし,容器に充てんする。容器はガラス瓶に代わって正三角形の四面体や,直方体の紙容器が多くなっている。耐水性のクラフト紙の両面をワックス被覆するか,またはポリエチレンフィルムを接着したポリエチレンラミネート紙が用いられる。ガラス瓶に比べ,軽くて破損せず,運搬が容易で,回収を要しないワンウェー容器である。とくに1l以上の大型容器はほとんど紙製になっている。充てんされた牛乳は10℃以下に冷蔵して販売される。

日本の飲用乳には,規格上〈牛乳〉〈加工乳〉および〈乳飲料〉と呼ばれるものがある。〈牛乳〉とは殺菌,均質化および必要に応じて成分の標準化を行った牛乳である。〈加工乳〉は脱脂粉乳や乳脂肪などが加えられたものである。〈乳飲料〉は牛乳や脱脂乳を原料とし,これに種々の成分を加えて製造した飲料である。

(1)普通牛乳 殺菌と均質化を行っただけの牛乳で,成分の標準化を行うこともある。〈牛乳〉に相当するものである。規格上は脂肪率が3.0%以上必要であるが,最近の製品は3.2%程度に標準化したものが多い。また,原料乳の脂肪率が規格より高くても,これを標準化せずに販売するものを成分無調整乳とよぶことがある。(2)還元牛乳 脱脂粉乳を溶解し,これに乳脂肪(バターオイル,無塩バター)を加えて均質化したり,または全脂粉乳を水に溶解して,牛乳と同様な組成にしてから殺菌などの処理をして販売されるものをいう。濃縮脱脂乳や濃縮全乳が用いられることもある。還元牛乳を利用すれば,牛乳生産の多い地方(または国)あるいは生産の多い季節に,過剰の牛乳を保存性のよい粉乳や乳脂肪に加工して貯蔵しておき,生産の少ない地方(または国)あるいは需要の多い時期に還元して液状乳とし,需給の調節ができる。全脂粉乳は貯蔵中に脂肪の酸化により不快臭(脂肪酸化臭)を生じやすく,脱脂粉乳と乳脂肪を用いるほうが品質のよい還元牛乳ができる。還元牛乳はそれだけで販売されることはなく,牛乳と混合し,〈加工乳〉として販売される。(3)高脂肪乳 脂肪率が4%以上のジャージー種やガーンジー種の濃厚な牛乳を原料としたもので〈牛乳〉に属する。また,通常の牛乳に濃縮乳またはクリームと脱脂粉乳を加えて,脂肪率を4%以上とし,その他の成分をも多くした高脂肪乳もあり,これは〈加工乳〉に属する。(4)低脂肪乳 ローファットミルクとも呼ばれる。全乳と脱脂乳をほぼ等量ずつ混合し,さらに脱脂粉乳を加えて無脂乳固形分を増加させたものである。脂肪率1.5%前後のものが多い。低カロリー高タンパク質が特徴である。〈加工乳〉に属する。(5)UHTミルク 保存性がすぐれているため,日本ではロングライフミルクあるいはLL牛乳と呼ばれている。UHT加熱(135~150℃,0.5~15秒)した牛乳を,紙容器に無菌的に充てんしたものであるから,微生物学的にはまったく安全である。しかし,室温で3ヵ月以上保存すると,風味の悪化(脂肪酸化臭)とタンパク質のゲル化(凝固)が起こる。ヨーロッパでは3~4ヵ月の常温保存が認められている。しかし日本ではUHTミルクが実際に販売されているが,今のところ〈牛乳〉と同じく,10℃以下での冷蔵が義務づけられている。(6)フレーバーミルク 主として脱脂乳を用い。これにコーヒー,チョコレート,果汁,フルーツエッセンス,甘味料,着色料などを加えたもので〈乳飲料〉に属する製品である。UHT滅菌により長期保存が可能な製品も多い。(7)乳糖分解乳 牛乳の乳糖は,小腸のラクターゼ(乳糖分解酵素)によりブドウ糖と果糖に分解されて吸収される。しかし,先天的あるいは後天的にラクターゼが分泌されなかったり,その活性の低い人が牛乳を飲むと,数時間以内に下痢,腹鳴りなどの腹部症状が起きる。これを乳糖不耐症というが,欧米にくらべて日本ではとくに成人に多く見られる。微生物からのラクターゼの工業的生産が可能になり,これを用いて牛乳中の乳糖の3/4ぐらいをあらかじめ分解した製品である。〈乳飲料〉に属する。
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牛乳は,人間にとって必要なすべての栄養素をふくむ完全食品だといわれており,欧米諸国では,古くから食品群中もっとも重要な位置を占めてきた。日本にはもともと牛乳消費の習慣はなく,ごく一部の例外を別とすれば,明治の文明開化とともに消費が始まったのであるが,急速に消費が増えたのは第2次大戦後である。1950年には1人年間わずかに5.3kgの消費でしかなかったが,92年には68.0kgになっている。第2次大戦後の食生活欧米化の象徴品目が牛乳だった。しかし急速に増えたといっても,欧米諸国にくらべればその消費量はまだまだ少ない。たとえばフランスでは1人年間284kg,イタリア267kg,アメリカ263kg,ドイツ245kgとなっている(1992)。日本では牛乳消費の主体が飲用乳であるのに,フランスなどではバター,チーズなどの乳製品に主体があり,飲用乳消費の差は小さくなってきたが,乳製品消費量が決定的に日本は少ない。

 飲用乳生産は都市近郊に,乳製品は遠隔地にというのが各国共通の立地であり,日本でもそうだったが,輸送面での技術革新,LL牛乳の登場が牛乳の立地要因を大きく変動させ,大都市飲用乳市場での産地間競争が激しくなっている。乳製品も,国際的に供給過剰であり,輸入圧力をつねに受けている。
乳業 →酪農
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「牛乳」の意味・わかりやすい解説

牛乳
ぎゅうにゅう

ウシの乳腺(にゅうせん)からの分泌物で白色不透明の液体。栄養成分を多く含み、消化吸収がよい飲料として消費されるほか、乳製品原料として広く利用される。搾乳(さくにゅう)を目的として品種改良されたウシを乳牛という。熱帯、亜熱帯地域では水牛乳も同様に利用される。搾り取ったままいっさいの処理加工を加えられていない牛乳を「生乳(せいにゅう)」という。また、ウシは分娩(ぶんべん)直後から約1年間泌乳を続けるが、分娩直後から3~5日目ぐらいまでの牛乳は、成分的にその後の牛乳と著しく異なり、殺菌などの加工に適さないので、「初乳(しょにゅう)」とよんで飲用に供さない。これに対しそれ以後の牛乳を「常乳(じょうにゅう)」とよぶ。

[新沼杏二・和仁皓明]

歴史

牛乳は、羊乳、山羊(やぎ)乳、馬乳などと同様に、人類が搾乳可能な動物を家畜化したころから利用され始めたものと考えられる。紀元前2500年ころのメソポタミアのウル第1王朝期の、搾乳とその加工を示す浮彫りが発見され、また前2050年ころの古代エジプト第11王朝の彫刻も残っている。その他、牛乳の利用については古代インド神話、北欧神話などでも重要な意義をもっている。日本での牛乳飲用については、650年(白雉1)ころ中国からの渡来人善那使主(ぜんなのおみ)(別名福常)が孝徳(こうとく)天皇に牛乳を献じて和薬使主(やまとのくすしのおみ)の姓を賜り、その子孫は典薬寮において乳長上(ちちのおさのかみ)という職名を与えられたという『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』(815)の記録が古い。その後『大宝律令(たいほうりつりょう)』(701)や『延喜式(えんぎしき)』(927)などに、中国伝来の乳製品である蘇(そ)(酥)や酪(らく)が製造され、平安末期まで宮廷で用いられた記録がある。その後江戸中期に至るまで、牛乳や乳製品利用の記録は見当たらない。1727年(享保12)に8代将軍徳川吉宗(よしむね)が千葉県嶺岡(みねおか)(鴨川(かもがわ)市)に牧場をつくり、インドから白牛を導入して白牛酪(はくぎゅうらく)(牛乳に砂糖を加え鍋(なべ)で煮つめて型詰めし、焙炉(ほいろ)にかけて乾燥したもの)を製造し、その効用を宣伝したが、薬用として貴重品の域を出なかった。

 現代の日本の牛乳飲用は明治の文明開化とともに始まり、1863年(文久3)オランダ人から乳牛の飼育、搾乳技術を学んだ前田留吉(とめきち)が、横浜太田町に搾乳所を開いたのが日本人による最初の近代搾乳業であった。その後明治政府の洋風化政策によって、北海道をはじめとする全国各地に牛乳の利用が普及していったが、1888年(明治21)の年間1人当り消費量は116ミリリットルにすぎなかった。その後の増加も第二次世界大戦で激減したが、戦後学校給食における飲用の普及、食生活の洋風化などで大幅に消費は伸びてきている。しかし欧米諸国に比べるとその水準は低い。

[新沼杏二・和仁皓明]

組成と栄養

牛乳の組成はウシの品種、年齢、泌乳時期、季節、飼育方法、健康などで変化する。代表的な乳牛の品種による平均組成差、ならびにウシ以外の搾乳動物の乳の平均組成を以下に示す。


●各純血種乳牛の乳組成(g/100g)
ホルスタイン
 全固形 12.26
 脂肪 3.40
 タンパク質 3.32
 乳糖 4.87
 灰分 0.68
ショートホーン
 全固形 12.81
 脂肪 3.94
 タンパク質 3.32
 乳糖 4.99
 灰分 0.70
エアシャー
 全固形 12.90
 脂肪 4.00
 タンパク質 3.58
 乳糖 4.67
 灰分 0.68
〔ブラウンスイス〕
 全固形 13.41
 脂肪 4.01
 タンパク質 3.61
 乳糖 5.04
 灰分 0.73
〔ゲルンジー〕
 全固形 14.61
 脂肪 4.95
 タンパク質 3.91
 乳糖 4.93
 灰分 0.74
〔ジャージー〕
 全固形 14.91
 脂肪 5.37
 タンパク質 3.92
 乳糖 4.93
 灰分 0.71
注:Turner(1936年), Eckles(1943年)による
●各種搾乳動物の乳組成(g/100g)
〔ウシ〕
 脂肪 3.75
 タンパク質
  カゼイン 3.0
  アルブミン等 0.4
 乳糖 4.75
 灰分 0.75
〔スイギュウ〕
 脂肪 6.0
 タンパク質
  カゼイン 3.8
  アルブミン等 0.7
 乳糖 4.5
 灰分 0.75
〔ヤギ〕
 脂肪 6.0
 タンパク質
  カゼイン 3.3
  アルブミン等 0.7
 乳糖 4.3
 灰分 0.84
〔ヒツジ〕
 脂肪 9.0
 タンパク質
  カゼイン 4.6
  アルブミン等 1.1
 乳糖 4.7
 灰分 1.0
〔ラクダ〕
 脂肪 3.0
 タンパク質
  カゼイン 3.5
  アルブミン等 0.4
 乳糖 5.5
 灰分 0.77
〔ウマ〕
 脂肪 1.1
 タンパク質
  カゼイン 1.3
  アルブミン等 0.7
 乳糖 5.8
 灰分 0.3
注:J. G. Davisによる

 日本で飼育されている乳牛はほとんどホルスタイン種であって、ジャージー種がごく限定された地域でわずかに飼育されている。牛乳の主成分は、水分、タンパク質、脂肪、炭水化物(乳糖など)、灰分で、そのほか微量成分としてリン脂質、ビタミンなどを含んでいる。季節的に変動する成分は脂肪、タンパク質であって、秋冬期に高含量となり、春夏期に低含量となる。分娩直後の初乳はタンパク質の組成が常乳と異なり、グロブリン含有量が高いため、加熱により容易に凝固する性状があるので飲用、加工に供しない。牛乳のタンパク質は主としてカゼイン(全タンパク量の80%)、アルブミンおよびグロブリンである。カゼインは牛乳中ではカルシウムと結合しコロイド状に分散している。カゼインは酸および凝乳酵素により凝固し、ヨーグルトやチーズの製造にはその性質を利用する。アルブミン、グロブリンは水溶性のタンパク質で、酸または凝乳酵素によっては凝固しないが、75~80℃に加熱することによって凝固する。カゼインを凝固沈殿させた上澄み液(乳清という)に含まれるので乳清タンパク質とも称する。牛乳中のタンパク質は必須(ひっす)アミノ酸の含有量が多く栄養的に優れた価値をもっている。脂肪は径2.5~3.5マイクロメートルの大きさで、表面をリン脂質およびアルブミンで覆われた球体としてコロイド状に分散している。牛乳が白色不透明の外観を呈しているのはカゼインおよび脂肪球が乳濁分散しているためであるが、脂肪球は静置しておくとしだいに浮上してクリーム層を形成する。これを防止し脂肪を均一に分散させるため、脂肪球を1マイクロメートル以下のサイズに細分化することをホモゲナイゼーション(均質化)という。乳脂肪は分子量の小さい脂肪酸、とくに酪酸、カプロン酸を多く含み、他の動物性脂肪に比べ体内での消化吸収が早い。炭水化物は99.8%が乳糖である。乳糖は自然界では動物の乳汁以外には存在しない特殊な炭水化物で、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースの2種の単糖類が結合したものである。ガラクトースはリン脂質とともに、哺乳(ほにゅう)期にある幼動物の脳の発育に重要な役割をもつといわれ、乳糖がその給源になっている。乳糖は小腸内の乳糖分解酵素によって、グルコースとガラクトースとに分解されてから体内に吸収される。乳糖分解酵素は哺乳期間中はかならず存在するが、離乳してから乳の摂取をやめるとしだいに消失する。この場合乳糖が分解されずに直接腸管を通過するため、消化器系統に腹部膨満、腹痛、下痢などの生理的現象がおこる場合がある。これを乳糖不耐症という。乳糖不耐症は人種、食習慣とくに乳の継続摂取量の差によって発生率が異なり、北欧白人種は少なく、アジア人種、アフリカ人種に多い。日本人の場合平均して20~30%といわれている。そのため、乳糖をあらかじめ酵素で分解した乳糖分解乳が欧米、日本で市販されている。牛乳を乳酸発酵によって乳糖分を減少させたり、チーズのように脂肪、タンパク質の部分と乳糖を含有する乳清の部分に分離して、乳糖を含まない部分を主として食用に供する古来からの加工の原理には、成人の乳糖不耐現象と強い関係がある。

 灰分の特徴はカルシウムの含有量が多いことで、日本人1人1日当りのカルシウム所要量600ミリグラムは、牛乳を毎日200ミリリットルを飲用すればほぼその半量を摂取することができる。ビタミン類は脂溶性のA、D、E、水溶性のC、B1、B2、ナイアシン酸、B6、B12、パントテン酸などほとんどのビタミンが含有されている。このように牛乳は人体に必要な栄養素を含有し、しかも消化吸収のよい完全食品である。

 しかし、人乳と牛乳の組成を比較するとかなり成分上の差がみられる。すなわち人乳は、(1)タンパク質含量が牛乳の3分の1で、かつカゼインの含有比率が低い、(2)脂肪含量はほぼ同じであるが、脂肪酸組成をみるとリノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸が人乳のほうに多い、(3)灰分の含有量が少なく、とくにカルシウム、カリウム、リンの量が少ない、(4)ビタミン類はA、Cが多く、B1、B2、Dの量が少ない、などの差がある。したがって、乳児に対して牛乳をそのまま与えることは栄養的に十分とはいえない。このような人乳との成分の差を可能な限り少なくするように、牛乳中の諸成分の組合せを行ったものが人工栄養児用の調製乳である。たとえば、牛乳中の乳清タンパク質を分離して添加することによってカゼイン比率を下げたり、不飽和脂肪酸を多く含む植物油脂を添加して脂肪酸組成を人乳に近づけたりする。一般にこのような処理組合せによって、乳児の胃内におけるタンパク質の胃酸による凝固物を人乳とほぼ同じ柔らかさにしたものをソフトカードミルクといっている。

[新沼杏二・和仁皓明]

生産と消費

食習慣としてみれば、牛乳を飲用として多く消費する民族と、乳製品として消費する傾向の民族がある。フィンランド、デンマーク、カナダ、ニュージーランドなどは飲用比率が高く、ドイツ、フランス、イタリアなどは飲用比率が低い。

[新沼杏二・和仁皓明]

製造

牛乳は栄養的に優れているため、細菌の繁殖が容易なので、各国で原料(生乳)、製造、保存などの条件、成分規格、検査方法などが厳密に定められている。厚生省令では原料乳に関する規格ならびに販売に供する牛乳を、「牛乳」「特別牛乳」「部分脱脂乳」「脱脂乳」「加工乳」に分類している。それによれば、「牛乳」とは、生乳を成分規格に合致する範囲で殺菌し容器に充填(じゅうてん)したものであって、生乳以外のいかなる成分をも添加することはできない。一方、成分規格の範囲まで生乳の成分とくに脂肪分を標準化することは可能である。これに対して脂肪分の季節的な変動や乳牛間の個体差を標準化しないものを無調製牛乳と通称している。「特別牛乳」とは、特別牛乳搾取処理場の許可を受けた牧場で、搾乳の段階から厳しい衛生管理を要求される牛乳であって、殺菌しなくても販売でき、成分規格も格別に厳しい。殺菌処理を行う場合でも低温殺菌法が指定されている。現状ではごくわずかの量しか生産されていない。「部分脱脂乳」は、生乳の脂肪分を3.0%未満、0.5%以上に分離脱脂したものであって、一般には1.0~2.0%の脂肪を含んでいるものが多く、ローファット牛乳と通称されている。ローファット牛乳はアメリカにおいて脂肪の過剰摂取を防ぐ目的で販売され普及したが、日本においてはまだ消費量は多くない。「脱脂乳」は、遠心式脂肪分離装置によって乳脂肪を0.5%以下になるまで除去したもので、一般の飲用消費向けにはほとんど販売されていない。乳製品原料のほか製菓原料、子牛飼料用として利用されている。「加工乳」とは、生乳、牛乳のほか、クリーム、脱脂粉乳などのように、乳成分以外の成分を含まない乳製品のみを原料として、成分規格に合致するように水分のみを加えて復原調製された牛乳であって、ビタミン類やミネラル類などの強化添加は許されていない。一般に還元牛乳と通称されているものはこれにあたる。これらの分類は、容器にそのいずれかをわかりやすく表示することが義務づけられている。

 砂糖、コーヒー、果汁など牛乳成分以外のものを牛乳に混和した場合は、乳製品の「乳飲料」の分類になり、「牛乳」の表示を許されていない。わが国では直接飲用に供する目的で市販されている液状乳を「市乳」と通称することがあるが、これは英語のmarket milkの訳語である。

 牛乳の製造においてその衛生的品質を保持することがもっとも重要であり、殺菌方法の条件がそれにあたる。殺菌方法には低温殺菌法(LTLT法。62~65℃、30分)、高温殺菌法(HTST法。72~87℃、15秒以内)、超高温殺菌法(UHT法。120~150℃、0.5~4秒)などの方法がある。超高温殺菌法に無菌充填法を組み合わせたものは、滅菌処理牛乳(アセプティックミルク)とよばれていて、缶詰製品と同様に常温で流通することを許可している国もある。厚生省令では、「特別牛乳」を除き、低温殺菌法と同等の効力のある殺菌条件を選択し、その条件を表示すれば上記のうちどの方法を採用してもよい。

 低温殺菌法は、牛乳中に含まれる可能性のある有害細菌を死滅させるために、パスツールによって考案された方法である。高温殺菌法は、プレート式熱交換殺菌装置の発明によって、15秒以内の殺菌時間で低温殺菌法と同等の殺菌効果を得られるようになり、現在きわめて普及している。近年さらに超高温殺菌法の開発によって、牛乳の風味を損なわず保存期間を延長することが可能になった。無菌充填法と組み合わせた場合は、常温流通で60~90日内の品質保証期間を得ることが可能になった。これをLL牛乳(ロングライフミルク)と通称している。しかしその結果、おもにビタミン類の減少があり、90日の常温保存でビタミンCは80~100%、B12は約50%減少することが知られている。

 牛乳の容器は合成樹脂を張り合わせた紙が開発されるに及んで、それまでのガラス瓶からしだいに紙容器に変化しつつある。紙容器には、成型された容器に充填するものと、紙容器を成型しながら充填するものの2種類があり、後者は容器上部に空間をつくらない。欧米ではさらにプラスチック成型容器が普及しつつある。

[新沼杏二・和仁皓明]

用途

牛乳はそのまま飲用に供せられるほか、バター、チーズ、クリーム、粉乳、発酵乳などの乳製品に加工される。洋風の調理においてはスープ、グラタン、ソースなどの基礎的な原料として広く利用されている。さらに、タンパク質のカゼインは酸、アルカリで変性し独特の物性を示すので、接着剤や衣料用のボタン材料などに利用され、乳糖は甘味度や吸湿性の少ない糖なので医薬品の倍散剤として広く使用されている。

[新沼杏二・和仁皓明]


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食の医学館 「牛乳」の解説

ぎゅうにゅう【牛乳】

《栄養と働き》


 牛乳は栄養的にきわめてすぐれた食品として、古くから世界中いたるところで親しまれてきました。
 記録によれば、日本で牛乳が飲まれるようになったのは、6世紀半ばのこと。ただ、はじめのうちはもっぱら薬用として用いられており、その後も長らく牛乳を口にできたのは、皇族や大名のように特権階級の人たちだけでした。
 日本で一般の人々が牛乳を飲めるようになったのは、明治時代に入ってから。さらに、日常の食卓へ本格的に普及するのは、パン食が一般的になった戦後のことです。
〈豊富なカルシウムが骨の病気やイライラ、不眠症を解消〉
○栄養成分としての働き
 良質の動物性たんぱく質をはじめ、各種のビタミン、ミネラル類など、牛乳には生きていくうえで必要とされる栄養素の大半が含まれています。なかでも注目したいのは、日本人にとって唯一、恒常的に不足しているミネラルのカルシウム。牛乳はその80%強が水分であるにもかかわらず、100g中に110mgものカルシウムを含んでおり、コップ1杯程度で、大人1日あたりの所要量の3分の1を満たすことができます。
 カルシウムは骨や歯などを形成する材料となるのはもちろん、さまざまな生理機能の維持にも、重要な役割をはたす栄養素です。たとえば、神経や筋肉の興奮をコントロールするほか、免疫機能、ホルモンの分泌(ぶんぴつ)、心拍運動の調節にもカルシウムが欠かせません。
 そこで、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)やくる病などの骨の病気をはじめ、ストレスやカルシウム不足からくるイライラ、不眠症、情緒不安定などに有効な食品として、牛乳は評価されてきました。
〈必須アミノ酸をはじめ各種ビタミンもバランスよく含有〉
 このほかにも、必須アミノ酸を豊富に含んだ良質のたんぱく質、バランスよく含まれるビタミンA、B1、B2、B6、B12、D、Eといった栄養素ともあいまって、胃炎、脳卒中(のうそっちゅう)、動脈硬化などの予防にも役立つと考えられます。

《調理のポイント》


 牛から搾(しぼ)ったままの生乳を原料に、加熱殺菌、均質化などの処理を行ったものが、市販されている牛乳です。
 牛乳には、その製法や成分によって、さまざまな種類があるので、持ち味や好みに合わせて使いわけましょう。
 利用法としては、そのまま飲んだり各種の飲料に使うほか、シチュー、グラタン、お菓子の材料など、用途は多彩。まわりのにおいを吸収しやすいため、レバーなどをつけておくとにおい消しの効果もあります。
 牛乳を料理に使う場合、強火で長時間煮立てたり、酸味のあるものといっしょに加熱したりすると、分離してしまうので注意が必要です。加熱は沸騰(ふっとう)直前に止めるようにし、酸味を加えるときは、先に牛乳だけあたためておいてから、少しずつ酸味を加えるようにしてください。
 牛乳はたいへん鮮度が落ちやすいため、ロングライフタイプを除いて保存はかならず冷蔵庫で行います。未開封の状態なら1週間~10日程度はもちますが、開封後は2日くらいで飲みきるようにしましょう。
<覚えておきたい牛乳の種類とその内容>
 牛乳のパッケージには、製法や成分にしたがってローファット、特濃、成分無調整などの分類が記されています。表示の示す意味を覚えてじょうずに使いわけましょう。
・牛乳/生乳のみを加熱殺菌したもので、乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上を含むことが規格規準。水分や乳脂肪などの成分を添加することは、禁じられています。
・加工乳/生乳、牛乳、脱脂粉乳、バターなどの乳製品を原料として加工された製品の総称。無脂乳固形分8.0%以上が規格規準ですが、乳脂肪分に関する規準はありません。乳脂肪分3.0%以下のローファットミルク、反対に乳脂肪分、無脂乳固形分を強化した特濃牛乳などがここに含まれます。
・乳飲料/生乳、牛乳、脱脂粉乳、バターなどの乳製品に、果汁や甘味料、香料、各種の栄養分などを添加してつくられます。コーヒー牛乳やフルーツ牛乳をはじめ、カルシウムや鉄分などを強化したヘルシータイプの牛乳も、この仲間になります。
・脱脂乳/生乳から乳脂肪分を取り除いたもの。乳脂肪分0.5~3%の部分脱脂乳と0.5%未満の脱脂乳があります。脱脂乳の水分を除いて粉末にしたものが脱脂粉乳(スキムミルク)です。
・低温殺菌牛乳/一般の牛乳は120~130度で1~3秒間、殺菌したものが大半ですが、それより低い温度で殺菌を行ったもの。63~65度で30分間殺菌するものが多いが、ほかに75度以上で15分以上、72度で15秒以上殺菌したものも含みます。
・ロングライフミルク/135~150℃の高温で1~3秒間殺菌した、常温で約60日から90日間の長期保存が可能な牛乳。ただし、開封後の保存期限はふつうの牛乳とかわりません。
・成分無調整乳/季節や飼料の与え方などにより、生乳の乳脂肪分は変化します。それが規準を超えた場合、調整することが認められていますが、そうした調整をしないものを成分無調整乳と呼びます。
・ノンホモジナイズド(ノンパスチャライズド)ミルク/通常の牛乳は、含まれる乳脂肪が分離しないように、脂肪球を細かく砕いて均質化処理(ホモジナイゼーション)がしてあります。これを行わないものをノンホモジナイズドミルクといい、生乳に近い自然な風味が特徴です。
・ジャージー乳/ジャージー種の牛からとられる牛乳。市販の牛乳の大半を占めるホルスタイン種の牛乳にくらべて栄養価が高く、味も濃厚ですが、搾乳量が少ないため値段は高めです。

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百科事典マイペディア 「牛乳」の意味・わかりやすい解説

牛乳【ぎゅうにゅう】

乳牛の乳で特有のにおいと味をもち栄養価が高い。平均して水分88.6%,脂肪3.3%,タンパク質2.9%,炭水化物4.5%,無機物0.4%。タンパク質の約80%はカゼイン,炭水化物は乳糖を主とする。カルシウム,カリウム,リン,鉄等,およびほとんど全種のビタミン,必須(ひっす)アミノ酸を含み消化もよい。母乳に比し脂肪はやや低級でタンパク質の消化性も落ちるが完全栄養に近い。一般に市乳として栄養価をそこなわぬよう殺菌されている(牛乳殺菌法)。またほとんどの牛乳はホモジナイザーにかけて脂肪球を砕き,脂肪が表面で固まらぬよう均質化がなされている。 飲用牛乳は食品衛生法により〈牛乳〉〈加工乳〉〈乳飲料〉の3種に分けられている。〈牛乳〉は殺菌と均質化を行ったもので,脂肪率が3.2%程度になるよう標準化したものと,成分無調整乳とがある。〈加工乳〉は脱脂粉乳等から再組成される還元牛乳を利用したもので,脂肪分を多くした高脂肪乳や少なくした低脂肪乳(ローファットミルク)などがある。〈乳飲料〉は主として脱脂乳にコーヒー,果汁,甘味料などを加えたもので,〈牛乳〉とは呼べないことになっている。なお,脂肪分1.5%前後の低脂肪乳は牛乳の成分基準に合わないため,〈牛乳〉ではなくローファット飲料などと呼ばれる。→乳製品
→関連項目カード(酪農)乳業

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「牛乳」の意味・わかりやすい解説

牛乳
ぎゅうにゅう
cow's milk

乳牛の乳腺から分泌される白色不透明の液体で,特有の香気と甘味を有する。幼牛の利用しうる唯一の食物で,これだけで生命を維持し,正常な成長をすることができるもので,人間にとっても鶏卵とともに栄養的にほぼ完全に近い食品ということができる。固形分約 11.5%,蛋白質 3.0%,脂質 3.5%,乳糖 4.5%,無機質 0.7%前後,その他各種の微量成分を含む。その性状としては乳糖および無機質の水溶液に,脂質が乳濁質,蛋白質が懸濁質として分散しているコロイド溶液である。直接飲用に供する目的で加工処理されたものを一般に市乳と呼んでいる。栄養価値がきわめて高く,細菌の繁殖にも好適な培地であるため腐敗しやすく,また,病原菌などが存在することもあるので衛生上安全なものとするため,市乳には保持殺菌,あるいは高温短時間殺菌,超高温加熱殺菌のいずれかの方法がとられる。また,日本の加工乳の多くは殺菌前に均質化 (ホモジナイズ) を行なって脂肪球を細分化してあり,静置してもクリームが分離しないようにしてある。牛乳は飲用に供されるばかりでなく,粉乳練乳,バター,チーズ,クリーム,発酵乳,乳酒,その他各種の乳製品に加工利用されている。市販されている牛乳は,法律的には牛乳と加工牛乳とに区別されている。牛乳とは乳牛からとったままを食品衛生法の定めに従って処理したもので,成分は無脂乳固形分 8.0%以上,乳脂肪分 3.0%以上,細菌数 1ml中5万以下,大腸菌群陰性,比重 1.028~1.034 (15℃) のものとされている。濃縮したり,ビタミン添加したものは加工乳である。

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普及版 字通 「牛乳」の読み・字形・画数・意味

【牛乳】ぎゆう(ぎう)にゆう

牛の乳汁。〔魏書、閹官、王伝〕老を扶けて、より從ひて洛邑にる。~常に牛を飮み、色、處子(しよし)の如し。太和二十年、卒(しゆつ)す。時に年九十。

字通「牛」の項目を見る

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飲み物がわかる辞典 「牛乳」の解説

ぎゅうにゅう【牛乳】


牛の乳。白色で、たんぱく質、カルシウム、脂肪などの栄養に富む。乳牛から搾った乳(生乳)に加熱殺菌などの処理をして飲用とするほか、バター・チーズ・ヨーグルトなど乳製品の原料に用いる。「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」では、乳脂肪分3%以上、無脂乳固形分8%以上を含むものと規定されている。

出典 講談社飲み物がわかる辞典について 情報

栄養・生化学辞典 「牛乳」の解説

牛乳

 ウシの乳.人類の重要な食資源で多くの加工法がある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の牛乳の言及

【異常乳】より

…通常の牛乳にくらべて性質が異なっているために,飲用牛乳や乳製品の製造に用いることができない牛乳をいい,次のような種類がある。(1)アルコール陽性乳 原料乳の検査で用いられるアルコール試験で凝固する牛乳である。…

【ウシ(牛)】より

…日本で比較的多発するウシの伝染病,一般病について表1に示す。
【利用】
 (1)牛乳 新鮮な牛乳は白色不透明な液体で,かすかな甘みと特有な香りがある。成分は品種や飼養条件,泌乳期などにより変化する。…

【人工栄養】より

…なんらかの理由で乳児を母乳で育てることができず,その代りに,他の栄養料を用いて乳児に栄養を与えることを人工栄養という。栄養料として最も多く用いられるのは牛乳であるが,ほかにヤギ乳または大豆乳(豆乳)などが用いられることもある。 人工栄養の歴史は古いが,人工栄養に頼れるようになったのは1930年ころからであり,日本で調製粉乳が用いられるようになったのは50年過ぎからである。…

【畜産】より

… 家畜の飼養数は家畜単位換算で,多い順にインド(2億6141万家畜単位),中国(1億8599万家畜単位),ソ連(1億6143万家畜単位),アメリカ(1億4261万家畜単位),ブラジル(1億1692万家畜単位)となる。インドは乳牛が,中国は肉牛と豚,ソ連は肉牛,乳牛,豚,羊,アメリカは乳牛,肉牛,豚,ブラジルは圧倒的に肉牛が多い。 飼畜の絶対数(家畜単位)の多さではなく,面積当りあるいは人口当りの飼養密度になると,この順序は著しく変わる。…

【乳】より

…これらの特性にあわせて,人乳は他の哺乳類の乳に比べて,低タンパク質,低電解質,高糖質という特徴をもっている。人乳の代りに用いられることの多い牛乳に比較して,量的な組成が異なるのみならず,質的にも,タンパク質は牛乳に比べてカゼインが少なく,乳精タンパク質が多く,脂肪は不飽和脂肪酸を多く含み,カルシウム濃度が低くカルシウム:リン比が小さい。糖質,脂質の量が多いことは,他の哺乳類に比べて大きい脳神経系を養うためのエネルギー源,急速に成長する神経系の構成素材を供給するという意味をもっている。…

【乳業】より

…牛乳およびバター,チーズなど,牛乳を加工した乳製品を製造する産業。日本の1995年の原乳生産量は838万tで,うち514万tが飲用向け,311万tが乳製品向けとなっている。…

※「牛乳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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