日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホルムアルデヒド」の意味・わかりやすい解説
ホルムアルデヒド
ほるむあるでひど
formaldehyde
もっとも簡単な構造をもつアルデヒド。メタナールともよぶ。1859年にロシアのブートレロフによって最初に得られた。
メタノール(メチルアルコール)の接触酸化によって生成する。この反応は、メタノールの蒸気と酸素を赤熱した白金、銅、または銀網上に通すとおこり、反応熱が触媒を熱するから触媒を加熱し続ける必要がない。工業的にも、メタノールと空気の混合ガスを加熱して銀またはモリブデン鉄混合酸化物触媒上に通して反応させると得られる。この反応はメタノール‐空気混合ガスの爆発範囲(メタノール7~37%)を避けて行う必要があり、そのためにメタノールを約50%含む混合ガスを用いるメタノール過剰法と、メタノールを約5%にした空気過剰法の2通りの製法がある。現在では、空気の使用量が少なく、動力の点で有利な前者がおもな工業的製法になっている( )。
常温では強い刺激臭をもつ気体である。きわめて強い還元性をもち、フェーリング液を還元して赤銅色を呈し、アンモニア性硝酸銀水溶液を還元して銀鏡反応を示す。酸化を受けるとギ酸HCOOHとなり、さらに強く酸化すると二酸化炭素と水とになる。容易に重合してトリオキシメチレン(メタホルムアルデヒド)を生ずるが、この物質は加熱によってホルムアルデヒドを再生する。ホルムアルデヒドは水によく溶けるので、35~38%水溶液がホルマリンの名で市販され、消毒・殺菌に用いられている。工業的に重要なのはベークライト(フェノール樹脂)、ユリア樹脂(尿素樹脂)、メラミン樹脂、ビニロンなどの合成原料としての用途である。また、その還元性を利用して分析試薬としても使われる。
ホルムアルデヒドは生活環境中では建材、塗料、接着剤などの原料として使われているが、毒性が強く、視覚障害、皮膚や消化器の炎症、鼻や咽頭(いんとう)の粘膜の刺激などの症状を引き起こす。木材、石炭、砂糖など多くの有機化合物が不完全燃焼する際の煙にはホルムアルデヒドが含まれているので、目や鼻の粘膜が刺激され、痛みや炎症をおこす。また、建材や建築用接着剤に含まれているホルムアルデヒドはシックハウス症候群(建築材料などから発生する化学物質による室内空気汚染による健康障害)の原因物質の一つとされている。そのため、2002年(平成14)厚生労働省によって室内におけるホルムアルデヒドの濃度の指針値(職域における屋内空気中のホルムアルデヒドの濃度を0.08ppm以下とする)が設定され、さらに同年に建築基準法の改正が行われ、ホルムアルデヒドを使用した建材が制限されるようになった。また、メラミン食器(メラミン樹脂はホルムアルデヒドを原料とする)を長期間使用していた児童に視覚障害がおきたとの報告もあるので注意を要する。
[廣田 穰・末沢裕子 2016年2月17日]
『日本建築学会編『室内空気質環境設計法』(2005・技報堂出版)』
ホルムアルデヒド(データノート)
ほるむあるでひどでーたのーと
ホルムアルデヒド
HCHO
分子式 CH2O
分子量 30.0
融点 -92℃
沸点 -19.3℃
比重 0.815(測定温度-20℃)