かび毒(読み)かびどく

日本大百科全書(ニッポニカ)「かび毒」の解説

かび毒
かびどく

カビが農産物や食料、飼料を侵害すると基質に二次代謝物質を生産するが、この代謝物質にはヒトおよび動物に有害な生理作用をもつものがあり、これをかび毒(マイコトキシンmycotoxin)という。これらによる中毒をかび毒中毒症(真菌性中毒症mycotoxicosis)といい、食物内毒素型中毒と考えられ、慢性の肝・腎(じん)障害性、神経毒性、造血機能障害性、光過敏症など、多くの毒性の発現がある。また、実験動物によって強い発癌(はつがん)性も証明されている。次に主要なかび毒の生産菌とその障害性を列記する。

(1)アスペルギルスコウジカビ) アフラトキシンAspergillus flavus, A. parasiticus=急性脳症、肝毒性、肝・腎癌。ステリグマトシスチンA. versicolor=肝毒性、肝癌。オクラトキシンA A. ochraceum=肝毒性、肝癌。

(2)ペニシリウムアオカビ) ルテオスカイリンPenicillium islandicum=肝硬変、肝癌。シクロクロロチンP. islandicum=肝硬変、肝癌。シトレオビリジンP. citoreoviride=肝毒性。ルグラシンP. rugulosum=肝毒性。ルブラトキシンA P. rubrum, P. purpurogenum=肝毒性。オクラトキシンA P. viridicatum=肝毒性、肝癌。シトリニンP. citrinum, P. viridicatum=腎ネフローゼ。パツリンP. patulum, P. expansum=上行神経麻痺(まひ)、肝毒性。

(3)フザリウム(アカカビ) T‐2トキシンFusarium tricinctum, F. solani=臓器出血、造血障害性。フザレノンX F. nivale=臓器出血、造血障害性。ニバレノールF. nivale=臓器出血、造血障害性。ツェラレノンF. graminearum=エストロゲン(発情ホルモン物質)作用。

(4)その他 バッカク毒素Clavicepus purpurea(バッカク菌)=壊疽(えそ)性、けいれん性(中枢神経障害)。

 アフラトキシン中毒症は、1960年にロンドン郊外の養鶏場で約10万羽のシチメンチョウのひなが中毒死する事故から研究が発展したもので、ヒトの中毒症の解明も進みつつある。アオカビ中毒については、第二次世界大戦後、わが国の黄変米中毒から研究が始まったものであり、アカカビ中毒は、ムギ類やトウモロコシを飼料とする家畜の中毒で知られる。バッカク中毒は、ヨーロッパでの毒ムギ中毒として歴史的に有名である。ヨーロッパでの毒ムギ中毒の歴史は古く、記録は10世紀におけるフランスの事件にさかのぼる。その後、16世紀に至るまでヨーロッパ各国に発生し、人々は苦しめられたのであるが、原因であるバッカクキンとの関連がわからず、単に「毒ムギ中毒」とか「聖アンソニーの火」などとよび、なすすべがなく神に救いを求めたとされている。

[曽根田正己]

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