コウジカビ(読み)こうじかび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コウジカビ」の意味・わかりやすい解説

コウジカビ
こうじかび
[学] Aspergillus

不完全菌類、モニリア目に属するカビをいう。古来、米飯にこのカビが着生・発育し、甘味を形成する現象を「神立(かむだ)ち」とよんだことが語源といわれる。コウジカビの外観は、黄、緑、褐、黒ないし白色を呈するが、これは分生子や閉子嚢殻(へいしのうかく)の色である。基底菌糸層は無色ないし明色で、菌糸の一部に足細胞ができ、これから分生子柄が垂直に伸長する。分生子柄の先端は膨らんで頂嚢となる。頂嚢の形は、球形、亜球形、楕円(だえん)形、フラスコ形、棍棒(こんぼう)状などさまざまで、頂嚢から放射状に梗子(こうし)(フィアライド)が形成される。梗子には1段と2段があり、先端に分生子が内生的に形成されて押し出されるが、その形には、球形、卵形、楕円形などがある。一方、有性生殖(子嚢殻―子嚢―子嚢胞子)をするグループがあり、エメリセラEmericella、ユーロチウムEurotium、ヘミカルペンテルスHemicarpenteles、ネオサルトリアNeosartoryaなどの属が含まれる。これらの属は子嚢菌類、ユーロチウム目(コウジカビ目)に属する。

 コウジカビは発酵工業上重要なカビで、みそしょうゆ甘酒(あまざけ)、清酒などの醸造用、クエン酸グルコン酸イタコン酸などの有機酸発酵用、デンプン、タンパク質、ペクチン分解酵素グルコースオキシダーゼなどの酵素製品の製造用、あるいはステロイド化合物の酸化生成のためなど、多面的に利用される。世界中に広く分布するカビで、特殊な生態を示すものに次のようなものがある。好塩性や好乾燥性(好高浸透圧性)のもののほか、ヒトを含めた哺乳(ほにゅう)動物や鳥類に対して病原性のあるもの、昆虫に寄生するものなどがある。なお、狭義の意味でコウジカビという場合はニホンコウジカビをさしている。

[曽根田正己]

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改訂新版 世界大百科事典 「コウジカビ」の意味・わかりやすい解説

コウジカビ (麴黴)
Koji-fungus
Aspergillus

不完全菌類コウジカビ属菌類の総称。菌糸体はよく発達し,隔壁のある菌糸が生えひろがり,ところどころから分生子形成器官を支える分生子柄が直立する。その上部は丸くふくらみ,周囲に1段または2段の小枝をつくり,先端の分生子形成細胞から次々と分生子を押し出すように形成し,分生子が数珠状に長くつながる。分生子は緑色,黒色,黄色,褐色,白色などさまざまで,その色,形,表面構造などで種類が区別される。発育が速く,いろいろな酵素,代謝産物をもつので発酵工業に広く利用されている。ニホンコウジカビA.oryzae(Ahlburg)Cohn(英名green mold)はもっとも有名で,デンプン糖化力の強いものは日本酒醸造,タンパク質分解力の強いものはみそ,しょうゆのこうじとして広く利用されている。アワモリコウジカビA.awamori Nakazawaは泡盛醸造に使われる。クロカビA.niger V.Tieghem(英名black mold)も餅,米飯,パンなどにごく普通である。応用性の高い反面,有害菌もあり,フミガツスコウジカビA.fumigatusは40℃でよく生え,鳥類(ときに人体)の肺に生えて病気(アスペルギルス病)をおこし,カワキコウジカビA.glaucus群はやや乾いたものを好むので,塩分や糖分の多い食品や皮革製品,レンズなどに発生することが多い。ニホンコウジカビに近いフラブスコウジカビA.flavusはカイコをはじめとする昆虫のこうじかび病をおこし,有毒のアフラトキシンを生産し,マイコトキシン研究の端緒となった。コウジカビは系統的にはアオカビにごく近い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コウジカビ」の意味・わかりやすい解説

コウジカビ(麹黴)
コウジカビ
Aspergillus

不完全菌類モニリア目の1属できわめて普通にみられる。約 50種を数えることができる。なかでも米その他のデンプンを糖化する狭義のコウジカビ A. oryzae,強力な酵素を有するので有名なクロカビ A. niger,土壌などにきわめて広く存在し,温血動物の病気を引起すケムリイロコウジカビ A. fumigatusなどが周知の種である。基質の表面に伸びる菌糸から,枝が空中に立上がりその先端が頭状になるが,その上に直接,または多数の小菌糸を生じた上に,フィアライドと称するとくり形の細胞を生じ,その頂端から絞り出すように分生子がつくられる。分生子は次々に生じて,長い鎖状になる。

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世界大百科事典(旧版)内のコウジカビの言及

【消化薬】より

…(3)微生物由来の消化酵素は,薬物としての消化酵素の最も多彩な種類の提供源となっている。とくにアスペルギルス属Aspergillusから抽出された消化酵素は種類が多く,アミラーゼ,プロテアーゼ,リパーゼの作用を併せもつものもある。しかもタンパク質消化の至適pHが酸性領域にあるものが多く,耐酸性の消化酵素として実用価値が高い。…

※「コウジカビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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