カプロー(読み)かぷろー(その他表記)Allan Kaprow

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カプロー」の意味・わかりやすい解説

カプロー
かぷろー
Allan Kaprow
(1927―2006)

アメリカの現代美術家。「ハプニングhappening」の創始者として知られる。ニュー・ジャージー州アトランティック・シティに生まれる。ハンスホフマンに絵画を学び、コロンビア大学美術史を専攻した。1950年代に画家ジャクソン・ポロックと知り合い、その身体的動作で描かれるアクション・ペインティングに関心を寄せていた。また1956年から2年間ニューヨークのニュー・スクールで作曲家ジョン・ケージに師事したことが、日常的環境のなかで行われる身体表現の過激な芸術化の契機となった。ハプニングということばは、59年秋ニューヨークのルーベン画廊で催されたカプローによる「六つの部分からなる18のハプニング」と題された公演から生まれた。「出来事」を意味するハプニングは、画廊や劇場、野外や街頭で行われる公演であるが、作者と協力者の身体表現とともに、ときに観客を巻き込み、偶発的要素を含みながら現実空間のなかで展開する。芸術と日常の垣根を取り払おうとするこの種の公演は、1960年代になるとクレス・オルデンバーグ、ジョージ・シーガルなどの美術家も参加し、65年以降には韓国人アーティスト、ナム・ジュン・パイクのビデオ・テクノロジーを用いたハプニングをはじめ各ジャンルのアーティストが参加したフルクサス・グループの多様な活動などを通じて、国際的に広まっていった。カプローは1961年から66年までニューヨーク州立大学教授を務めたほか、各地の大学で教鞭(きょうべん)をとり、現代芸術の組織者として活動した。彼が創始した美術家による「行為の芸術」は、イベント、インターメディア、さらにはパフォーマンスなどと名前を変えながらも、現代芸術の一形式として定着している。

[石崎浩一郎]

『『美術手帖』315号(1969・美術出版社)』『Allan Kaprow ; an exhibition sponsored by the Art Alliance of the Pasadena Art Museum(1967, Pasadena Art Museum, California)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カプロー」の意味・わかりやすい解説

カプロー
Kaprow, Allan

[生]1927.8.23. ニュージャージーアトランティックシティー
[没]2006.4.5. カリフォルニア,エンチニータス
アメリカの美術家。ハンス・ホフマン美術学校で美術と哲学を学び,1949年ニューヨーク大学,1952年コロンビア大学でそれぞれ修士号を取得。ジャクソン・ポロックやジョン・ケージの影響を受けた。 1959年ニューヨークのルーベン画廊で「6つの部分から成る 18のハプニング」と名づけた催しを開き,これが「ハプニング」という言葉が独特の意味をもって使われた最初となった。行為による芸術であるが,演劇と区別するためカプローはハプニングという言葉を用いた。著述も多く,特に『アセンブリッジ,環境,ハプニング』 Assemblage,Environments and Happenings (1966) が知られる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「カプロー」の意味・わかりやすい解説

カプロー
Allan Kaprow
生没年:1927-2006

アメリカの美術家。ハプニングの創始者。前衛作曲家J.ケージの影響を受け,〈日常と芸術との境目をあいまいにする〉ことを目ざした。最初は,廃物で構成された〈環境〉作品を作り,やがて1962年,人間の行為と環境とが交錯し,衝突するハプニングをはじめて発表した。大著《アッセンブリッジ・環境・ハプニング》(1966)に見られるとおり,きわめて理論的批評的知性の持主でもある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「カプロー」の意味・わかりやすい解説

カプロー

米国の美術家。ニュージャージー州生れ。画家として出発したが,ジョン・ケージの偶然性の思想に影響を受け,1959年にニューヨークの画廊で《六つのパートから成る18のハプニングズ》を行い,行為による〈ハプニング(偶発的行為)〉という表現形式を開始した。画廊空間や野外での行為を通して観衆を巻き込み,彼らの行為を誘発する仕掛けとしての〈ハプニング〉は,表現の主体(アーティスト)と観衆の境界を曖昧にし,一定の時間を共有する体験に基づいた,ものにとらわれない表現形式として音楽・美術の世界に多大な影響を与えた。著書に《アッセンブリッジ,エンバイロンメント,ハプニング》(1966年)がある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のカプローの言及

【環境芸術】より

…一方,室内空間を対象とした場合も,建築の工法の発達により,巨大な吹抜けをもったホテルやショッピング・センターなどに,光と造形による環境芸術が登場している。こうした空間の造形表現とは別に,J.ケージA.カプローなどが始めたパフォーマンスPerformanceは,芸術家と観客が一つになって作りあげる表現状態としての環境芸術といえる。70年代になって,海岸,島,市中のモニュメントなどを布で梱包するクリストのような活動も見られる。…

【パフォーマンス】より

…〈作者〉やパフォーマーと〈観客〉との間の区別が超えられたのもハプニングにおいてであった。ジャーナリズムの反響によって一躍〈ハプニング〉という言葉を広めることになったアラン・カプローの《六つの部分から成る18のハプニング》(1959)では,ニューヨークのルーベン画廊にしつらえられた三つの部屋を,招かれた〈観客〉が歩き回ったり,着席したりすることが重要部分を占めていた。 〈脱領域〉的な性格のほかにパフォーマンスがハプニングやイベントから引き継いだもののうち,最も重要なものは,一回性や偶然性の尊重である。…

【ハプニング】より

…〈偶発的なできごと〉を意味する日常的な英語であるが,1960年代,とくにアメリカの美術家たちが,表現の新しい領域として〈アクション〉に注目したとき,〈ハプニング〉は独特の響きをもつ美術用語となった。命名者はA.カプローで,1959年ニューヨークのルーベンReuben画廊で《六つの部分からなる18のハプニング》を発表したとき,この語が用いられた。三つの部屋で,光,映像,言葉,オブジェなどを伴って,多くの参加者がさまざまな行為を行った。…

※「カプロー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android