1960年代を中心にニューヨークで展開された表現運動。1961年、ジョージ・マチューナスGeorge Maciunas(1931―1978)によって命名された。フルクサスということばは、流れ、不断の変化、排泄(はいせつ)物の放出などの意味をもつ。その名のとおりメンバーも活動も流動的で、1970年代初頭までに、ラ・モンテ・ヤング、小野洋子(オノ・ヨーコ)、ヨーゼフ・ボイス、ナム・ジュン・パイクといった各国のアーティストが入れかわりながらかかわりをもち、イベント、コンサート、出版など、ジャンルを超えたさまざまな表現を行った。芸術家の特権的な独創性を否定しようと試みたり、表現のうちに悪ふざけをもち込んだりと、その活動は、高尚かつかけがえのないもの、という既存の芸術概念を攪乱(かくらん)する側面を強くもった。この意味でフルクサスは、同時代におこったネオ・ダダやハプニングといった美術界の動きに連動するものである。とくに、アーティストが提供したアイデアに基づき、意味や価値をもたないささやかなものを箱に詰め合わせ、廉価に通信販売した一連の作品は、この運動の性質を示す一例であろう。幅広いその活動は、運動終息後もコンセプチュアル・アートやパフォーマンスに影響を与えた。
[蔵屋美香]
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1960年代に,ハプニングを表現形態として活動を行った国際的な芸術家のグループ。名称はラテン語に基づき〈流体の〉〈崩壊途上の〉などの意。その前史として,作曲家J.ケージを中心に1950年代アメリカで見られたハプニングの原型をなす催しがある。同グループはニューヨークを本拠に,ドイツ各地(ケルン,ウィースバーデン,デュッセルドルフなど),パリ,コペンハーゲンなどで活動を展開した。〈きまじめな芸術とその諸制度,ヨーロッパ中心主義,芸術の専門性とエゴに反対する〉立場を取り,美術およびその周辺領域(音楽,演劇,文学,新しい諸メディア等)にまたがる多様なハプニングを行い,1950年代後半以降のネオ・ダダ的な芸術運動の一つの中心をなした。マチューナスG.Maciunas,ブレクトG.Brechtらを中心メンバーとし,他にヒギンズD.Higgins,ノールズA.Knowles,ワッツR.Watts,ラ・モンテ・ヤングLa Monte Young,パイクN.J.Paik,日本の靉嘔(あいおう),小野洋子,久保田成子,小杉武久らがいる。
執筆者:千葉 成夫
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… ダダがそうであったように,1960年代のパフォーマンスは,芸術家たちの非常に柔軟な相互関係によって成り立っていた。パフォーマンスを行うグループや場所は流動的であり,61年にジョージ・マチューナスGeorge Maciunasがパフォーマンスの専門誌を作るために考え出した〈フルクサスFluxus〉(雑誌は実現しなかった)は,やがて当時のパフォーマーを横断的に結びつける国際的な組織の名になったが,ラテン語で〈流れ〉を意味するfluxusと英語のflux us(われわれを融合する)とをかけたこの語は,当時のパフォーマーの流動的な関係にふさわしいものであった。このことは,ニューヨーク美術界の刺激を受けて活気づいていた〈読売アンデパンダン展〉(日本アンデパンダン展)出品作家たちの活動と,ケージに学んだ一柳慧(いちやなぎとし)や小野洋子らの媒介でしだいに日本にも形成されはじめたさまざまな芸術グループにもあてはまる。…
※「フルクサス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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