正統カリフ(読み)セイトウカリフ(その他表記)al-Khulafā' al-Rāshidūn

デジタル大辞泉 「正統カリフ」の意味・読み・例文・類語

せいとう‐カリフ【正統カリフ】

ムハンマド死後ムスリムによる選挙で選ばれてイスラム共同体を指導した、最初の4代のカリフアブー・バクルウマルウスマーンアリーの4人をさす。→正統カリフ時代

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「正統カリフ」の意味・わかりやすい解説

正統カリフ
せいとうカリフ
al-Khulafā' al-Rāshidūn

イスラムにおいて,ムハンマドの直後の後継者であるメジナの4人のカリフをいう。正統と一般に訳されている言葉は異端に対比する意味はなく,神の正しい導きのもとにあるという意味で,後世の歴史家の用語である。初代アブー・バクル (在位 632~634) は預言者ムハンマドの没後ただちに衆に推されて原始イスラム国家の最高指導者となり,カリフと称した。2代目ウマル1世 (在位 634~644) はアブーバクルの指名によってその跡を継ぎ,3代目ウスマーン (在位 644~656) はクライシ族の有力者から成る選挙人互選によって選出されたが,最後はアラブ戦士中の不満分子の手で殺された。4代目アリー (在位 656~661) はその不満分子に推されてカリフ位についたが,彼のカリフ位を認めない反対派との闘争に明け暮れ,ついには刺客の手にかかって暗殺された。正統カリフ時代は,アラビア半島内の反イスラム勢力の打倒と,ササン朝ペルシア帝国領および東ローマ帝国領征服の時代であった。カリフの指導するアラブ戦士 (すなわちイスラム教徒) 集団は征服地に建設されたいくつかの軍事都市に移住し,征服戦争に従事した。カリフの下の行政機関は,アラブ戦士に年金食糧とを支給するディーワーン,軍指令官アミール,被征服者から租税を徴収するアーミルとがあっただけのごく簡単なものであった。第3代カリフ,ウスマーンの治世の後半から征服事業が停滞し,内紛が始った。アラブ戦士集団の分裂は,アリーの暗殺とウマイヤ朝成立をもっていったんは収まったが,いくつかの重要なイスラムの分派をつくる契機となった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「正統カリフ」の解説

正統カリフ(せいとうカリフ)
al-Khulafā' al-Rāshidīn

正統カリフとは,ムハンマド死後の最初の4人のカリフ(アブー・バクルウマルウスマーンアリー)に対する,後世のスンナ派の呼称。その統治期を正統カリフ時代という。この時代に行われたアラビア半島の再統一と大征服活動によって実質的にイスラーム世界が成立し,またイスラーム社会の基本的な社会制度と統治体制が形成された。その一方で,大征服後の遊牧部族間の利害対立が,メディナ政府の路線対立に反映し,ウスマーンの暗殺に至る政治的な亀裂を生み出した。後世のスンナ派はこの時代を,預言者ムハンマドの死後,イスラームの理念が最も理想的に実現していた時代と理解する。これを継承して,近現代のサラフ主義者は正統カリフ時代への回帰を志向。一方,シーア派主流は,最初の3人のカリフを,アリーの正統な後継権を簒奪したものとして忌避する。

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