改訂新版 世界大百科事典 「ガロアの理論」の意味・わかりやすい解説
ガロアの理論 (ガロアのりろん)
Galois theory
ガロア理論ともいう。高次方程式の解法に関する研究に伴って,18世紀後半に根の性質の解明が進み,1820年代に入ってから,É.ガロアが〈方程式の根をつけ加えた体〉および今日の言葉で〈方程式のガロア群〉と呼ばれるものを考え,部分群と部分体との対応を示した。その結果は,19世紀末ごろJ.W.デデキント,1910年シュタイニッツErnst Steinitz(1871-1928)によって有限次代数拡大体の場合に一般化され,また,28年にはクルルWolfgang Krull(1899-1976)が位相群の概念を利用して,無限次代数拡大の場合に一般化した。
これらの結果の応用,あるいは環のガロア理論への一般化などがあるが,最も基本的な数体の場合を中心にして説明する。
定義
複素数からなるある体(有理数全体を含み,その元の間で四則演算が0で割ることを除いて可能な集合)K,Lについて,LがKのガロア拡大体(または,正規拡大体)であるとは,次の(1)~(3)が満たされるときにいう。
(1)LはKの拡大体。(2)Lの各元αはK上代数的,すなわち,適当な自然数nおよびKの元c1,c2,……,cnをとれば,αn+c1αn⁻1+c2αn⁻2+……+cn=0である。(3)各α∈Lに対して,そのK上の最小多項式f(x)((2)におけるn,ciによる多項式xn+c1xn⁻1+……+cnのうち,nの最小のもの)をとれば,f(x)はLの適当な元 α1,α2,……,αnにより,と一次式の積に因数分解される。(3)の条件を確かめるには次の定理が有効である。
定理
(1)f(x)がKに係数をもつn次多項式であるとき,そのn個の根α1,……,αnをKにつけ加えた体(Kの元とα1,……,αnとによって四則演算で得られる数全体の集合)はKのガロア拡大体である。
(2)Kのガロア拡大体L1,L2,……があるとき,それらを含む最小の体もKのガロア拡大体である。
ガロアの基本定理
LがKのn次のガロア拡大体(nはLをK上のベクトル空間と考えたときの次元)であるとき,Lの自己同型σ(LからLへの1対1写像で,σ(a+b)=σ(a)+σ(b),σ(ab)=σ(a)・σ(b)となるもの)で,そのKへの制限が恒等写像(a∈Kならばσ(a)=a)であるもの全体Gはn個の元からなる群をなす。このGをこのガロア拡大のガロア群という。このとき,
(1)Gの部分群Hに対し,φ(H)={x∈L|≏σ∈H,σ(x)=x}はKとLとの中間の体になる。逆に,KとLとの中間の体Mをとれば,ψ(M)={σ∈G|≏x∈M,σ(x)=x}はGの部分群になる。この対応φ,ψは互いに逆対応であり,したがって,KとLとの中間体全体とGの部分群全体とがψによって1対1対応する。そしてMがM′の部分体であることとψ(M)がψ(M′)を含むことが同値である。
(2)MがKのガロア拡大であるための必要十分条件は,ψ(M)がGの正規部分群であることである。
一般の体の場合は,正規拡大はまったく同様に定義し,分離的(最小多項式が重根をもたない)という条件を付加してガロア拡大を定義する。ガロア拡大については,上と同じ型の定理が成り立つ。
執筆者:永田 雅宜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報