ギリシア東部、エーゲ海上にある島。キオス海峡を隔ててトルコのカラブルン半島と相対する。トルコ名サクズSakiz、イタリア名シオScio。プサラPsará島など付近の小島をあわせてキオス県を構成する。キオス県は面積904平方キロメートル、人口5万3100(2003推計)。島は面積841.6平方キロメートル。気候は温暖で果樹栽培が盛んである。マスチック(芳香性植物樹脂。乳香。乳香酒をつくる)は、この島の特産物として知られる。火山性の島でしばしば地震があり、とりわけ1881年の大地震の被害は大きかった。温泉も多い。また、アンチモン、大理石を産出する。なお、世界的に活躍する船主のなかにはキオス島出身の者が多い。島の東岸には県都キオスがあり、人口2万1500(2003推計)。港湾があり、ぶどう酒や果実を積み出しする。ジェノバ人の要塞(ようさい)跡がある。
[真下とも子]
初期青銅器時代やミケーネ時代の遺跡が発掘されているキオス島は、古代ギリシアの歴史家トゥキディデスによりギリシアでもっとも富裕な国と評されている。良港と沃地(よくち)に恵まれたためか、イオニア諸都市のなかでも有力ポリス(都市国家)として古くから繁栄した。加えてこの島は、ホメロスの故郷とも語り伝えられており、文学史上でも重要な島であった。経済的には、農業のほかに商工業も発展し、奴隷使用も盛んであった。キオスのぶどう酒はギリシア世界に広く輸出され、ぶどう酒生産にまつわる島の支配者オイノピオンの伝説の地としても知られていた。政治的には、早くから民主的な国制が発達したらしく、紀元前6世紀前半と推定される碑文には、民意をかなり重視したと思われる制度が記されている。前6世紀中ごろキロス王によりペルシアに合併されたが、のちイオニアの反乱に参加、ペルシアの支配に反抗した。ペルシア戦争後、デロス同盟に加入したが例外的に自治を享受していた。前413年アテネより離反したが、前4世紀にはアテネと友好を保っていた。ヘレニズム時代もほぼ独立国として存続、親ローマ的政策をとり、スラのとき自由市となった。ビザンティン帝国、ベネチア、ジェノバなどの支配を経て、1566年よりオスマン帝国領。1821年のギリシア独立革命に加わったため、翌22年トルコ政府による大量虐殺を受けた。これに取材したドラクロワの名画『キオス島の虐殺』(1824)はよく知られる。1912年よりギリシア領。
[真下英信]
エーゲ海東部のギリシア領の島。面積842km2,人口5万3000(2001)。ブドウ,イチジクなど地中海性の農産物に富むが,特にカンラン科のニュウコウジュBoswellia carteriiの香料生産が有名で,現在ではギリシア焼酎とも言うべきウーゾに添加される。古代以来主都キオスは小アジアに面した東岸中央にあり,古代にはイオニア12都市の有力都市で,詩人ホメロスの出身地とも伝えられる。前6世紀前半の一碑文は上告受理機関としての〈民衆評議会(ブーレー)〉の存在を語ってキオスの民主化を暗示するが,その後,ペルシアの宗主権に服した。前5世紀にはデロス同盟の有力盟約国として海上戦力を保有する独立国の地位を堅持した。ヘレニズム・ローマ時代にはローマとの友好関係を保った。ビザンティン時代の重要な史跡には11世紀のネア・モニ修道院がある。のち1566年以降トルコの支配をうけ,1912年ギリシア領となったが,ギリシア独立戦争時の惨劇〈キオスの虐殺〉(1822)は,ドラクロアの同じ題の絵画でも知られている。
執筆者:馬場 恵二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アナトリア西岸に面する島。ブドウ酒,イチジク,染料用乳香樹脂が特産。イオニア人の植民による。政治的には,アテネとの結合,離反を繰り返した。ホメロスの生地とも伝えられる。その後,ローマ帝国,ビザンツ帝国,オスマン帝国の支配を受け,1913年にギリシアに統合された。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
「ヒオス島」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…14世紀の中葉,ジェノバ人がイズミル湾に面したフォチャFoça(フォカイア)のミョウバン鉱を獲得して精製を開始し,ジェノバに向けて積出しを行った。15世紀にはミョウバンの独占会社がつくられ,キオス島を拠点に東地中海諸地域のミョウバンが集積され,1000t近い積載能力をもつ大型帆船によって直接にフランドルの毛織物工業地帯へ輸送された。しかし,1455年にトルコ人がフォチャを征服してから,この交易は急速に衰退した。…
※「キオス島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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