切支丹物(読み)キリシタンもの

改訂新版 世界大百科事典 「切支丹物」の意味・わかりやすい解説

切支丹(吉利支丹)物 (キリシタンもの)

キリシタンを題材とした戯曲の総称。1638年(寛永15)キリシタン禁制以来,人形浄瑠璃,歌舞伎ではまともにこれを取り扱うことが許されず,わずかに〈天草軍記物〉として,古浄瑠璃の《天草四郎島原物語》(1666年刊)や《傾城(けいせい)島原蛙合戦》(近松門左衛門作,1719年11月竹本座),またその変種である《天竺徳兵衛郷鏡》(近松半二作,1763年4月竹本座)などが行われたにすぎず,正統な切支丹物とはいいがたい。近代に入って(明治6年解禁後),南蛮趣味の流行もあり,まず木下杢太郎連作《南蛮寺門前》(1909作),《絵踏(えぶみ)長崎殉教奇談》(1913作),《天草四郎》(1914作),《常長》《訴人》(以上1928作)などが現れ,近代人の苦悩を重ねあわせて描いている。ほかに小山内薫の《吉利支丹信長》(126作),岡本綺堂の《切支丹屋敷》(1913作),長田秀雄の《沢野忠庵》(1927作),松居松葉の《聖母(サンタ・マリア)》(1923年5月明治座)など。戦後も石川潭月の舞踊劇《切支丹道成寺》や,田中千禾夫,遠藤周作らの切支丹を題材とした作品がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「切支丹物」の意味・わかりやすい解説

キリシタン物
キリシタンもの

16世紀後半から 17世紀前半にかけて,カトリックの宣教師たちが日本での布教用につくった宗教書や語学書をいう。「キリシタン文献」「キリシタン資料」ともいう。ローマ字書きで対訳のあるものが多く,成立年代も明らかなため,当時の口語資料として貴重なものである。長崎版の漢字辞書『落葉集 (らくようしゅう) 』 (1598) ,天草版『羅葡日 (らほにち) 辞書』 (95) ,アルバレスの天草版『ラテン文典』 (94) ,長崎版『日葡 (にっぽ) 辞書』 (1603) ,J.T.ロドリゲスの長崎版『日本 (大) 文典』 (04~08) ,同じくマカオ版『日本小文典』 (20) などの辞典・文典類,天草版『平家物語』 (1592) や『伊曾保 (いそほ) 物語』 (93) などの文学書類,加津佐版『サントスの御作業』 (91) や長崎版『どちりな・きりしたん』 (ローマ字本。 1600) などの宗教書類などが代表的なものである。

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