改訂新版 世界大百科事典 の解説
ギャロッピング・インフレーション
galloping inflation
年率数十%という高い物価上昇率が続くとギャロッピング(駆足の)・インフレーションという。第2次大戦後ずっと毎年20%から数百%ものインフレ率を経験しつづけている,アルゼンチン,ブラジル,チリ,コロンビア等の南米諸国の例がよく知られている。こうした諸国では巨額な財政赤字を毎年出しつづけており,それが高い通貨の増加率と相まって高いインフレ率の原因となっているとみられる。このような高い物価上昇率が長期間続くと,賃金は生計費指数に直結して決められる傾向が強くなる。それとともに,物価の上昇が賃金の上昇を招き,それがコスト上昇を通じてまた新たな物価上昇を生む,という〈物価と賃金の悪循環pricewage spiral〉が経済に定着してしまう。また貨幣の減価する速度が速いため,企業も家計も貨幣保有を極力抑制しようとするため,消費や換物に走る。インフレ率が高く,しかも不安定なために,将来の見通しを立てることが難しくなるので,取引は短期化し,資本を長期間固定しておかなければならない投資はリスクが大きすぎて行われなくなってしまう。さらに内外のインフレ率の差を反映して,これらの諸国では毎年,大幅な平価切下げを強いられるため,為替リスクは大きく,海外からの投資にブレーキをかけることになる。また,国内資本が海外へ逃避することを防ぐために,外貨の取得や保持等を制限するための為替管理も必要となる。
→インフレーション
執筆者:小椋 正立
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報