国際収支の均衡や為替相場の安定を図るため,法律に基づき政府が外国為替取引に対して直接規制を加えること。歴史的にみると,為替管理は,資本取引に対する規制がその最初の形態であり,主として資本逃避を防止する目的で導入されている。しかし,国際収支が赤字基調にある国においては,輸出入や投資収益,運輸,その他一般送金など経常的取引に係わる外国為替取引も規制され,こうした国々においては資本取引はさらに厳しい規制を受けている。為替管理は,程度の差こそあれ,通貨当局が希少な対外決済手段(外国為替)を計画的に配分する仕組みといえよう。このような意味で為替管理の最も厳しい段階では,輸出などによって居住者が受領した外国為替をすべて通貨当局に売り渡すことを義務づける〈全面外貨集中制(外貨集中制度)〉と,こうして集中した外国為替を一定の〈外国為替予算〉のもとで計画的に輸入などの対外支払に割り当てる仕組みが採用される。
為替の自由化とは,このような為替管理を徐々に撤廃する過程のことであり,民間部門に外国為替の保有をある範囲で認める一方,対外支払に関しては外国為替予算を廃止し,外国為替の割当基準を緩和したり,特定の取引には包括的な認許可を与え,その範囲で自由な取引を認めることを意味している。為替の自由化が進展すると,国際収支の均衡や為替相場の安定を確保するためには,より広範な為替政策が重要な意味をもってくる。その最も基礎的なものは財政・金融政策であり,それにより所得,物価,金利などの水準を変化させることを通じて外国為替の需給に影響を与えて国際収支の均衡を図る。また,通貨当局が外国為替市場に介入して,為替相場の望ましい動きを実現させようと試みる。このほか,為替管理ほど直接的ではないが,たとえば,輸入保証金制度,利子平衡税,非居住者預金に対する付利禁止ないし手数料徴収などの規制を導入して,特定の対外取引を経済採算上不利なものにさせる間接的な管理も行われる。
日本の為替管理の歴史をみると,その端緒は,1930年代の大不況期に世界経済のブロック化が進み為替管理が普及するなかで,32年に制定された〈資本逃避防止法〉である。翌33年同法は廃止され,資本取引以外の対外取引も管理する〈外国為替管理法〉が同年施行された。第2次大戦後は,戦前のこの外国為替管理法が事実上空文化するなかで,連合国総司令部(GHQ)の監督・規制下におかれたが,しだいに日本の経済的主権が認められるようになり,49年に〈外国為替及び外国貿易管理法〉(以下,為替管理法と略記)が,次いで翌50年にその特別法として〈外資に関する法律(外資法)〉が制定され,戦後における為替管理の基本法が整備された。戦後しばらくの間日本は,疲弊した国内経済を背景にして厳しい為替管理の採用を余儀なくされたが,漸次経常的取引に対する為替管理を自由化し,64年4月にはIMF8条国(原則として国際収支上の理由からは経常的取引については為替管理を行わない国)へ移行した。資本取引の自由化も70年代に入り,国際収支の黒字基調化を背景に急速に進んだ。このように広範な対外取引が自由化されると,為替管理法の基本的枠組みである対外取引の原則禁止ないし原則要認可という法体系のもとでは,適切な対応が困難になった。
こうして80年12月,為替管理法の抜本的な改正が行われ,〈外資に関する法律〉もこのなかに包摂され,原則自由・有事規制を建前とする法体系に移行した。この改正法1条は〈外国為替,外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし,対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより,対外取引の正常な発展を期し,もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする〉としている。このような同法の目的を達成することが困難になるような事態(有事)においては,主として資本取引に対して規制が加えられるが,平常時においては日本の安全保障・公秩序の維持に必要な規制を除き,ほとんどの対外取引が自由化されることになった。ただし,対外取引に関する諸統計を整備し,また有事における規制を実効あらしめるため,〈外国為替公認銀行制度〉が維持され,また実際の商取引の裏付けのない外国為替の売買は原則として認められない,いわゆる〈実需原則〉が採用されてきた(実需原則は1984年4月廃止)。
その後97年に同法は再度大幅に改正され,法律名から〈管理〉が外されて〈外国為替及び外国貿易法〉(1998年4月施行)となり,〈外国為替公認銀行制度〉が廃止され,外国為替業務が自由化された(ただし,一定金額以上は事後報告が必要)。これにより,国内企業・個人間の外貨建て決済もでき,外国に預金口座を開設できるようになった。
→外国為替及び外国貿易法
執筆者:河西 宏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国際収支の均衡と外国為替相場の安定を目的として、政府が外国為替取引に対し直接統制を加えること。
為替管理は一般に部分的管理から全面的管理へ移行する。1930年代の世界的不況期に始められたこの政策は、当初は資本逃避や為替投機などのホット・マネーを規制するのが主目的であった。ところが、このような統制はその国の通貨の信用を落とし、また資本取引を規制すると投機や逃避は貿易を利用して行われるようになり、統制の目的を貫徹するためには、結局、経常取引にまで枠を拡大する必要に迫られた。加えて戦争という国家目的が加わったため、30年代後半には多くの国で全面的管理がとられるに至った。
この段階における為替管理は、外貨の供給面と需要面の二つに分かれる。外貨の供給面における管理では、輸出やその他経常取引によって業者が獲得した外貨を効率的に使用するために、政府が強制的に買い上げる外貨集中制がとられた。もっとも厳しいのが全面的集中制であり、それよりも緩やかなのが為替銀行や貿易業者に外貨保有を認める持高集中制である。外貨需要面では外貨を使途別に割り当てることが当局の主要な仕事となる。まず商品輸入、債務支払、海外渡航などの大項目別に割り当て、次に商品輸入についてはその重要度などを勘案して商品別割当て、業者別割当て、相手国別(通貨別)割当てなどが行われる。このような外貨割当てがもっとも進んだ段階では外貨予算制度が採用される。以上のほかに、為替銀行の公認、為替相場の公定、決済通貨の指定なども付随して実施される。
[土屋六郎]
1930年代の金本位停止後、イギリス、フランスなどの西欧諸国やアメリカでは、ホット・マネー対策として直接統制的な為替管理を避け、通貨当局による為替平衡操作という間接的統制方法をとった。しかし、それには豊富な財源、とりわけ外貨準備が必要であったため、財政上または貿易上の困難によって十分な財源をもてなかったドイツや東欧諸国は直接的な為替管理を採用した。日本も同様である。
第二次世界大戦前から戦時中へかけては、外貨は戦争遂行の重要資源とされ、各国とも為替管理を強化した。この状態は戦後もしばらくは続いた。その理由としては、各国とも金・外貨準備をほとんど費消していたこと、戦争による生産力の荒廃により為替管理なしには国際収支の均衡を達成できなかったことなどがあげられる。戦後過渡期は意外に長引いたが、1950年代に入って経済復興が進んだので、各国はIMF協定に盛られた貿易・為替自由化の原則にのっとり為替管理をしだいに緩和した。こうして58年には西欧通貨の交換性回復が実現し、さらに61年には多くの西欧諸国がIMF8条国へ移行した。
[土屋六郎]
わが国における為替管理の端緒は1932年(昭和7)に制定された「資本逃避防止法」である。これは前年に起こった満州事変と金本位離脱を嫌った資本の海外流出を防ぐのが目的であった。しかしその効果ははかばかしくなかったので、翌33年には経常取引にまで範囲を拡大した「外国為替管理法」が制定され、臨戦体制に入った41年にはさらに全面的に改正されて為替管理はもっとも厳しいものとなった。
第二次世界大戦後は、民間貿易が再開された1949年(昭和24)に「外国為替及び外国貿易管理法」が制定され、ここに戦後における為替管理の基本法が体系化された。戦前の為替管理が強化の一途をたどったのに対し、戦後のそれはIMF協定の趣旨に沿い、為替制限の撤廃に努力することがうたわれた。1960年代には急速に自由化が進み、64年にはIMF8条国へ移行した。金融の国際化、円の国際化の進展にあわせ、1980年に前記の管理法が大幅に改正されて、資本取引については従来の「原則禁止、例外自由」から「原則自由、例外(有事)禁止」へ転換した。さらに1998年(平成10)4月、「外国為替及び外国貿易法」(改正外為法)が施行され、「完全自由化」が達成された。
[土屋六郎]
『貿易為替実務研究会編『体系貿易為替実務事典』7訂版(1982・新日本法規出版)』▽『天野可人編『図説国際金融』(1974・財政詳報社)』▽『吉野昌甫・滝沢健三編『外国為替入門』第2版(1981・有斐閣)』
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…為替管理の一方式。国際収支上の理由から,通貨当局が外国為替取引に厳格な管理を行って,対外決済手段である外貨の集配機構を営む場合,多くの国は,その国の輸出業者などが受け取った外貨を一定期間内に外国為替銀行ないし通貨当局に売り渡す義務を課している。…
…すなわち,79年に全面的に改正され,87年および91年に大改正がなされ,さらに97年には法律名から〈管理〉が外されるなどの大幅改正(98年4月施行)を経て現在に至っている。
[為替管理]
同法は,私人の行う外国為替取引は原則として自由とし,緊急事態の発生など,特殊な場合にのみこれを規制できるものとしている。すなわち,外為法1条は,(1)外国為替および外国貿易などの対外取引は原則として自由であること,(2)対外取引に対して規制を行う際には,必要最小限の管理または調整にとどめるべきこと,を明文化した。…
…広義には為替相場に影響を及ぼす一般的な経済政策(金融・財政政策等)を含むとも解されるが,狭義には為替相場そのものを政策主体が操作する場合と,直接それに代替することを目的として採られる政策とに限定して為替相場政策という。前者には,為替相場制の選択(固定・変動相場制(固定為替相場制,変動為替相場制),単一・二重・複数相場制等)と,与えられた為替相場制のもとでの平価変更や為替安定化操作があり,後者には,外国為替の需給に直接統制を加える為替管理,および利子率や預金準備率等の金融面への間接的統制を通じて外国為替の需給を調節しようとする政策を含めることができる。為替相場政策の基本的な目的は,一国の国際経済取引とその決済を円滑に発展させるために,為替相場を適切な水準に保つことである。…
※「為替管理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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