クンストハレ(読み)くんすとはれ(英語表記)Kunsthalle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クンストハレ」の意味・わかりやすい解説

クンストハレ
くんすとはれ
Kunsthalle

常設コレクションを所有しない、企画展専用の美術館施設。クンストは芸術を、ハレはホールを表すドイツ語で、従来の美術館を意味するクンストムゼウムとは区別して用いられる。ドイツ語に由来するようにドイツ語圏が発祥地で、ハンブルクベルンニュルンベルクフランクフルトバーゼルウィーンなどドイツ、スイスオーストリアの主要都市には、いずれも歴史のある高名なクンストハレが所在し、欧米全域で同様の施設が建設・運営される。英語でアート・センターと呼ばれる施設の多くはクンストハレに相当し、また専用施設ではないにしても、多くの美術館に企画展専用のスペースが設けられているのも、クンストハレという施設理念が浸透した結果である。多くの場合、展覧会企画は専属キュレーターが担当するが、なかにはボンのクンストハレのように、専属キュレーターを置かず、展覧会のたびにその企画に専従するゲスト・キュレーターを迎える運営形態を採用している施設もある。

 日本の代表的なクンストハレとしては、東京都庭園美術館や水戸芸術館のような少数の公立美術館と、セゾン美術館(1975~99)など百貨店系美術館を中心とする多くの私立美術館が挙げられる。公募展や貸画廊をはじめレンタル・スペースでの展覧会が多い日本では、クンストハレもまた同じ主旨の施設とみなされることが多い。だが、独自の展覧会企画を充実させ、発信することを目的としている点では、企画の内容を全面的に借り手に依存するレンタル・スペースとは根本的に性質を異にしている。1990年代以降、展覧会企画者としてのキュレーターにスポットが当たり、しばしば「キュレーターの時代」といわれるようになったのも、主な活躍の場であるクンストハレの存在が大きい。一方で、長い伝統のある百貨店の催事場にもクンストハレとよべる側面がある。

 2007年(平成19)、東京・六本木に開館した国立新美術館は常設コレクションを一切もたない、企画展専用の大ギャラリーと、公募展への貸与を目的とした小ギャラリーの二本立てという国際的にも他に類例のない施設である。

[暮沢剛巳]

『長谷川栄著『新しいソフト・ミュージアム』(1997・三交社)』『暮沢剛巳著『美術館はどこへ?』(2002・廣済堂出版)』『リュック・ブノワ著、水嶋英治訳『博物館学への招待』(文庫クセジュ)』


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