ぐるみ闘争(読み)ぐるみとうそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ぐるみ闘争」の意味・わかりやすい解説

ぐるみ闘争
ぐるみとうそう

労働争議において、組合員だけでなく妻子を巻き込んだ家族ぐるみの闘争、地域の市民をも巻き込んだ地域ぐるみ(または街ぐるみ)の闘争を総称していう。家族ぐるみ闘争は、1952年(昭和27)以降のデフレ政策下の企業整備反対闘争の際、総評の高野実(みのる)事務局長が推進した戦術で、52年の炭鉱争議各地の炭労組合員の主婦を炭婦協(日本炭鉱主婦協議会)に組織し、争議に協力させたことに始まる。地域ぐるみ闘争は、54年の尼崎(あまがさき)製鋼所の大量人員整理反対闘争に際し、主婦会の共闘のみならず、整理で地域の衰微を心配する労働組合のほか、農民、商工業者、医師、婦人などの団体、革新政党で「工都尼崎市民を守る懇談会」を組織し、争議を支援したのが典型例である。

 日本の企業別組合は、産業別・地域別共闘の密度が薄いので、このような戦術が採用されたが、当時は各地の軍事基地反対闘争とも絡んで、総評をはじめ労働組合が政治闘争・国民運動的傾向を深め、要求地方自治体に向けて反政府運動を展開しようとする「地域人民闘争」に走る危険があるという批判も現れ、1955年以降の好況期下火となり、産業別統一闘争春闘が盛んになるなかで、ほとんど消滅した。

松尾 洋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のぐるみ闘争の言及

【三鉱連企業整備反対闘争】より

…炭鉱不況下の1953年,三井鉱山(従業員約5万7000人)の人員整理(6739人)をめぐる労働争議。三鉱連(全国三井炭鉱労働組合連合会)は,113日スト後に人員整理案を白紙撤回させ全面勝利する。組合勝利の要因は,(1)職場・地域組織の強化,炭婦協(主婦会)の結成などを通じ大衆闘争を展開したこと,(2)無期限全面ストライキをうたず,当時最も有効な保安順法闘争や部分ストライキなど柔軟な戦術を採用したこと,(3)職員組合(職制だけで組織される組合)との共闘がうまくいき,組合分裂もなかったこと,(4)組合の〈独走も敢えて辞せざる決意〉,などがあげられる。…

【職場闘争】より

…1950年代,総評が労働組合運動の指標たらんと模索した運動論で,その内容は職場・地域の大衆闘争を重視したものである。結成(1950)後まもなく左傾化した総評は,組織強化の運動論を求め,炭労,北陸鉄道労組などの大衆闘争に着目した。とくに炭労は,52年の63日闘争(賃上げ闘争)を契機に,幹部請負闘争を廃し,大衆闘争の推進を組合運動方針の中心にすえた。この動きは,高野実総評時代の大衆闘争方式である〈ぐるみ〉闘争に結実し,つづく太田薫・岩井章の総評時には職場における大衆闘争が,春闘を支える企業別組合強化の運動論として位置づけられた。…

【地域闘争】より

…第2次大戦後の日本では,全逓信従業員組合が二・一スト禁止後の賃金ストップ・首切り企業整備に反対して,1947年秋に職場闘争を強化しつつ地域闘争を展開したのが最初である(〈全逓〉の項参照)。その後地域闘争は〈地域人民闘争〉とよばれる権力闘争に転化され,政治主義的誤りと占領軍・官憲の弾圧のために衰退したが,53年以降のデフレ期の人員整理反対闘争のなかで〈ぐるみ闘争〉方式に発展させられ,再び華々しく闘われた。この方式は,家族ぐるみ・地域ぐるみの組織をつくり,その闘争によって,企業の危機が叫ばれると闘争体制が崩れるという企業別組合の弱点を補おうとするものであった。…

【日鋼室蘭争議】より

…デフレ経済下の1954年,日本製鋼所室蘭製作所(従業員約3700人)での指名解雇(901人)をめぐる労働争議。総評高野実指導による〈ぐるみ〉闘争の典型として有名であり,企業整備反対闘争(〈三鉱連企業整備反対闘争〉の項参照)としても知られる。争議は日鋼室蘭労組の敗北に終わるが,妥結に至るまで193日を要した。組合は,同じ三井系の北三連(北海道の三井鉱山3労組)や隣接する富士製鉄室蘭労組をはじめ,総評あげてのオルグ・支援を受けた。…

【労働運動】より

…協約闘争のなかで〈明職(明るく働きやすい職場をつくる)運動〉を展開した北陸鉄道労組や企業整備反対闘争を契機として(合意事項を覚書にする)メモ化闘争を推進した三井三池労組など,いくつかの職場闘争の先進的なケースを生み出していったとはいえ,52年の電産・炭労スト,53年の日産争議の敗北などにみられるごとく,産業別統一闘争は組合側の足並みの乱れによって瓦解を重ねた。このようななかで,総評は職場闘争をベースにすえて家族ぐるみ,町ぐるみの地域闘争で闘うという〈ぐるみ闘争〉路線を提起していったが,この方式も54年の尼崎製鋼争議,日鋼室蘭争議の敗北によって実を結ぶことなく終わった。しかも,54年には,総評第2回大会を契機として分裂した民同の右派勢力がヘゲモニーをもつ全繊同盟など3組合が総評から脱退し,総同盟とともに別個のナショナル・センターとして全労会議を結成するにいたった。…

※「ぐるみ闘争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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