改訂新版 世界大百科事典 「産業別統一闘争」の意味・わかりやすい解説
産業別統一闘争 (さんぎょうべつとういつとうそう)
同一産業内の複数の労働組合が共同して行う運動で,おもに日本の労働組合運動について使われる用語。〈春闘〉もこれに含まれ,その闘争方式は〈春闘方式〉とも呼ばれる。
日本では労働組合が企業別に組織されているため,同一産業内に多くの組合があり,企業規模や経営状態によって活動に差異が生じやすい。その結果,業績等事情の悪い企業での労働条件が低下し,それが全体の水準を低下させる可能性が大きい。これに対処するために,組合間で共通の目標を設定し,運動形態や日程を調整して一斉に行動することによって,労働条件の平準化をはかり,全体の水準を向上させようとする運動が産業別統一闘争である。企業別組合という組織を基盤にして,実質的には欧米の産業別組合と同じ交渉力を発揮しようとする試みである。産業別統一闘争に際しては,単位組合として自治権をもっている企業別組合が,交渉権,スト指令権,妥結権を上部団体である産業別連合体に移譲する手続をとり,統一交渉の主体を形成する必要がある。実際には,組合間の意思統一の程度や相手側の経営者の態度によって,文字どおりの統一交渉のほか,対角線交渉,共同交渉,集団交渉などのさまざまな形式に分かれている。
第2次大戦直後には,産別会議が労働組合運動の中心であったため,企業別組合を分会あるいは支部と位置づけて産業別組合としての運動が行われたが,ドッジ・ラインによる企業合理化にともなって企業別交渉に分解された。このため労働組合の交渉力は弱まり,経済の発展に対して労働条件の改善が立ち遅れる傾向が出たため,総評の太田薫らを中心に産業別連合体に結集した統一行動をとる動きが現れ,1955年から産業別統一賃金闘争(春闘)が行われるようになった。その成果として賃金相場が形成され,賃金水準も上昇した後は,この方式で労働時間,定年制,退職金,労働災害補償などの問題にも産業別の標準を掲げるようになった。
執筆者:栗田 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報