日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケルト語派」の意味・わかりやすい解説
ケルト語派
けるとごは
インド・ヨーロッパ語族中の一分派。ケルト人は紀元前5世紀~前3世紀にかけて、原住地と目される現在の南ドイツ地方から、ヨーロッパ各地へ広がっていった。ブリテン諸島へ渡来したケルト人もその一部であった。このようにケルト語は広い地域で話されていた。これらの言語をあわせてケルト語派という。地理的観点から大陸ケルト語(ゴール語、ケルト・イベリア語)および島嶼(とうしょ)ケルト語(ブリタニック語、ゲーリック語)の二つに分けることができる。
大陸ケルト語は5世紀にはラテン語に吸収された。ブリテン島では同じころブリタニック語がアングロ・サクソンの侵攻により語形が崩れ、しだいにウェールズ語、コーンウォール語(18世紀末に廃れた)および対岸のブルターニュ地方のブルトン語などの下位語群に分かれていった。他方アイルランドのゲーリック語からは、6~7世紀にかけて、いわゆる古期アイルランド語が形成された。スコットランド・ゲール語およびマン島語(マンクス語)はその派生である。
以上のうちケルト・イベリア語を除く大陸ケルト語およびブリタニック諸語では、インド・ヨーロッパ祖語における子音kw(=qu)がpの音で現れている。たとえば、ラテン語quattuor(四つ)に対して、ゴール語petor-、ウェールズ語pedwarのようにである。この事実から、これらのケルト語をまとめてP群p-Celticとよぶことが多い。他方ゲーリック諸語はQ群q-Celticとよばれる。ウェールズ語pedwar(四つ)に対するアイルランド語ceathair[k'ahir]はその一例である。総じてケルト語は、インド・ヨーロッパ祖語における語頭の子音pを落とす傾向にあった。そのほか語頭の緩音化・鼻音化とよばれる変音現象、さらには語彙(ごい)、形態、文構造にもこの語派には著しい特徴がみられる。代名詞と融合して人称と数に応じて変化するいわゆる屈折前置詞の使用、動詞文頭のVSO(動詞―主語―目的語)の語順など。古い豊かな文献を有するアイルランド語やウェールズ語はいまも活力のあるケルト語ではあるが、その実勢力は英語の圧力に押されて漸減する現状にある。
[土居敏雄]