イタリック語派(読み)いたりっくごは

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イタリック語派」の意味・わかりやすい解説

イタリック語派
いたりっくごは

古代イタリアで話されていたインド・ヨーロッパ系の言語群の呼称ラテン語Latin、オスコ語Osco、ウンブロ語Umbrianを含む。エトルスク語Etruscan(インド・ヨーロッパ系とする説が近年出されている)は含まれない。また、以前にはバルカン半島南部にあったイリリア語Illiricoや、ベネチアから旧ユーゴスラビア西部にかけて話されていたベネト語Venetoなどもこのグループに入れる傾向があったが、いまは否定的な意見が大勢を占めている。

 ラテン語は元来ラティウム地域(ローマの南、テベレ川左岸からアルバの丘陵地帯まで)の住民によって話され、のちにこの人々がローマを建設し、一大文化語となっているが、ここでは詳述しない。

 オスコ語は、サンニオ人によって現在のカンパニアアブルッツィ、ルカニアなどイタリア半島南部で話されていた言語で、ナポリの東80キロメートルのアベルラや、ルカニアとプリア地方の境に位し、ポテンツァの北東30キロメートルの古代都市バンツィウムで、このことばを記した碑文や銅版(前3~前2世紀)が発見されている。

 一方ウンブロ語のほうは、イタリア中部のウンブリア地方を中心として、アペニン山脈からテベレ川東岸にかけて話されており、グッビオの町からこの言語を記した7枚の銅版(前3世紀)が出土している。

 これらの金石文は、エトルスキ文字に基づくイタリックアルファベットラテン文字との混交によって記されている。ウンブロ語もオスコ語も、ローマの勢力拡大に伴い、紀元前1世紀ごろを境に、ラテン語に吸収されて消滅してしまう。

西本晃二

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イタリック語派」の意味・わかりやすい解説

イタリック語派
イタリックごは
Italic languages

インド=ヨーロッパ語族の一語派。さらに,オスク=ウンブリア諸語ラテン=ファリスキ諸語とに区分される。すべて古代にアペニン半島で行われていた言語であるが,ラテン語だけは多くの変遷を経ながら,いわゆるロマンス語派の一つとして現在とつながりを保っている。ローマ帝国発展によりラテン語が勢力を得る以前のアペニン半島には,ほかエトルリア語メッサピア語など多くの言語があったが,エトルリア語は所属が未詳であり,その他もイタリック語派ではない。なお,イタリック語派とケルト語派との関連が深いとして,イタロ=ケルト語派を立てる説もある。

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