インド・ヨーロッパ語族に属する一語派。通常オスク・ウンブリア語群Osco-Umbrianとラテン・ファリスキ語群Latin-Faliscanとに大別される。いずれも前1千年紀のイタリアで行われていた言語であるが,後者に属するラテン語が,その話し手たるローマ人の台頭とともに勢力を伸ばし,他のイタリック諸語を消滅へと追いやった。オスク・ウンブリア語群はオスク語,ウンブリア語,その他の群小方言から成り立つ。オスク語はかつて半島南部一帯に広大な勢力を有し,ポンペイやカプア出土のものを含め,200以上にのぼる碑文(前5~後1世紀)によって今日に伝えられる。ウンブリア語は中部イタリアのウンブリア地方を中心に行われ,グッビオ(古名イグウィウム)出土の7枚の銅板に刻まれた宗教上の規約(前3~前1世紀)がそのおもな資料である。ラテン・ファリスキ語群は,ラテン語とその一方言と見なすこともできるファリスキ語とから成り立つ。ラテン語は元来テベレ川下流付近の限られた地域で行われ,いくつかの方言に分かれていたが,後に優位を確立して今日のロマンス諸語の源になったのが,ローマのラテン語である。パレストリーナ(古名プラエネステ)出土の金の留金に刻まれた銘(前600ころ)がラテン語最古の記録とされてきたが,最近これは偽造だとの説が出されている。ファリスキ語はローマの北40kmばかりの小地域でエトルリア語圏に接して話されていた。以上のほか,古代イタリアの北東部で行われていたベネト語がイタリック語派と近い関係にあることが近年の研究により指摘されている。一方,イタリック語派とケルト語派とのつながりを強調し,両者をひとまとめにできるとしたイタロ・ケルト語派説は定説となるにいたらず,また,オスク・ウンブリア語群とラテン・ファリスキ語群との間に見られる類似と相違をどう解釈するかにより,両語群の間に起源的な統一状態(原イタリック語)が存在したかどうかについて,学者間の意見が分かれている。
→オスク・ウンブリア語 →ラテン語
執筆者:長神 悟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代イタリアで話されていたインド・ヨーロッパ系の言語群の呼称。ラテン語Latin、オスコ語Osco、ウンブロ語Umbrianを含む。エトルスク語Etruscan(インド・ヨーロッパ系とする説が近年出されている)は含まれない。また、以前にはバルカン半島南部にあったイリリア語Illiricoや、ベネチアから旧ユーゴスラビア西部にかけて話されていたベネト語Venetoなどもこのグループに入れる傾向があったが、いまは否定的な意見が大勢を占めている。
ラテン語は元来ラティウム地域(ローマの南、テベレ川の左岸からアルバの丘陵地帯まで)の住民によって話され、のちにこの人々がローマを建設し、一大文化語となっているが、ここでは詳述しない。
オスコ語は、サンニオ人によって現在のカンパニア、アブルッツィ、ルカニアなどイタリア半島南部で話されていた言語で、ナポリの東80キロメートルのアベルラや、ルカニアとプリア地方の境に位し、ポテンツァの北東30キロメートルの古代都市バンツィウムで、このことばを記した碑文や銅版(前3~前2世紀)が発見されている。
一方ウンブロ語のほうは、イタリア中部のウンブリア地方を中心として、アペニン山脈からテベレ川東岸にかけて話されており、グッビオの町からこの言語を記した7枚の銅版(前3世紀)が出土している。
これらの金石文は、エトルスキ文字に基づくイタリック・アルファベットとラテン文字との混交によって記されている。ウンブロ語もオスコ語も、ローマの勢力拡大に伴い、紀元前1世紀ごろを境に、ラテン語に吸収されて消滅してしまう。
[西本晃二]
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…インド・ヨーロッパ語族に属する言語。〈イリュリアのウェネティ〉という古代作家の伝承によって,かつてはイリュリア語派の中心をなすとみなされたが,現在ではイタリック語派の一言語とする説が有力である。その資料はポー川の北部から北イタリアに,また東はトリエステ周辺までと,かなり広範囲に出土した約360の碑文で,エトルリア系の文字で書かれている。…
※「イタリック語派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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