日本大百科全書(ニッポニカ) 「けんちん」の意味・わかりやすい解説
けんちん
中国伝来の巻煎(チュワンチエン)(巻繊)が変化した料理で、卓袱(しっぽく)料理のなかにも入っている。巻煎は、材料を卵焼きや昆布で巻いて油炒(いた)めするのを原則とするが、蒸したものや多少の変化を加えたものもある。けんちんは、ダイコン、シイタケのせん切り、ささがきごぼうなどを油炒めし、豆腐を崩して油炒めしたものと混ぜ合わせて湯葉で巻き、とめ口を水溶き葛粉(くずこ)でとめ、油炒めしてから煮て味をつける。これには、タイ、スズキ、サワラ、エビなどを白焼きしてから蒸して加えるものもある。けんちん蒸しは小ダイを主として用いる。背開きにして中骨を除いた小ダイを2時間ぐらいしょうゆに漬けておき、豆腐、ニンジン、キクラゲ、ゴボウ、麻の実などをごま油で炒めて、しょうゆから取り出した小ダイの腹に詰め込んで蒸し上げる。けんちん汁は、豆腐を絞って水けを切り、せん切り野菜とともに油で炒め(関東では油揚げをかならず用いる)、しょうゆ仕立ての汁にして、もみのりを加える。油揚げものりも本来は巻く材料であるが、汁には刻んでいっしょに入れる。
けんちんは元来、鹿児島の郷土料理であるが、広く全国でつくられている。大分の郷土料理に黄飯(おうはん)というのがあるが、これもけんちんの応用料理である。
[多田鉄之助]