ダイコン(読み)だいこん(英語表記)Japanese radish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン
だいこん / 大根
Japanese radish
[学] Raphanus sativus L.

アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の一、二年草。春の七草の一つで、スズシロともいう。歴史の古い野菜で、その発祥地には諸説があるが、一般にはカフカスからパレスチナ地帯原産と考えられている。世界各地で栽培され、形態的にも異なった多くの品種があるが、それらはすべて植物分類学上、単一の種とされている。根生葉は互生で束生し、へら形のものから羽状に深裂したものなどがあり、普通は粗い毛がある。春に地上茎を直立し、枝先に総状花序を出し、白または淡紫色の十字花を多数つける。果実は長さ約5センチメートルの長角果でくびれがあり、膨らんだ部分に1個ずつ1果に数個の種子が入っている。アブラナ属(カブやキャベツ)と異なり、熟しても莢(さや)は裂開しない。茎の基部とそれに続く主根の肥大したものが大根で、葉とともに食用とする。大根の形は丸型から棒状まで品種によりさまざまである。

[星川清親 2020年11月13日]

祖先種

日本をはじめ世界各地の海岸にハマダイコンとよぶ植物が野生しているが、これも今日の栽培ダイコンと同一の種とみなされている。しかしハマダイコンと栽培ダイコンとの関係は現在もまだ明確でなく、ハマダイコンは栽培ダイコンの逸出したものであるとする説も根拠が薄い。それは、ハマダイコンは果実の莢はくびれがあるが熟すと折れやすく、花色は紫、根にデンプンが蓄積するなどの特徴があり、栽培ダイコンとは明らかに異なっているからである。逆にハマダイコンは栽培ダイコンの成立に関与した祖先種であるとする説もある。またヨーロッパのダイコンの祖先は東洋のダイコンの祖先とは違ったセイヨウダイコンR. raphanistrum L.であるとする説もある。また、日本には、福島県会津地方や山形県米沢(よねざわ)地方に、海岸生のハマダイコンとは違った内陸性ダイコンの自生もみられる。これらと海岸性のハマダイコン、栽培ダイコンとの関係もまだ十分解明されていない。

[星川清親 2020年11月13日]

品種

ダイコンの品種は華南型ダイコン、華北型ダイコン、ハツカダイコン、小ダイコン、クロダイコンに大別される。日本で古くから栽培され、品種が多く分化しているのは、華南型ダイコンである。華北型ダイコンは華南型よりもあとに伝来したと考えられ、日本の品種の主流を占めている。ハツカダイコンは明治以降に導入された。小ダイコンは南ヨーロッパおよび中国北部に栽培される小形の品種群である。

 近年まで日本各地で栽培されたダイコンの品種は100~120ほどに上る。それらは、栽培型や根の大きさ、形、色、また葉形など大きな変異がある。耕土の深い地層の関東地方では、長根型の品種で根全体が地中に潜っている吸い込み型の品種が多く栽培される。耕土の浅い地層の関西地方では、丸大根や根の上部が地上に出る抽根型の品種がおもに栽培される。桜島ダイコンは世界最大の丸型ダイコン品種で、10キログラム以上になる。一方、守口(もりぐち)ダイコンは世界最長のダイコンで、直径は2~3センチメートルであるが長さは1.5メートルに達する。また、ハツカダイコンはまるごと口に入るほど小形である。根の外皮は純白の品種が多いが、地上に抽出した部分が緑色になる青首(あおくび)といわれる品種群もある。華北型ダイコンの系統の地方在来品種には赤首のものや、白地で皮目の部分が赤紫色になるもの、紅赤色丸型のものなどがある。最近、中国野菜として華北型の品種がいくつか導入され、品種はますます多様化した。それらには緑皮紅肉で丸型、緑皮緑肉で総太り型、紅皮白肉で丸型、紅皮白肉で長型などがある。クロダイコンは文字どおり外皮が黒色のものである。

 葉の形の変異も多く、葉縁に欠刻のある典型的なダイコン葉型のほか、欠刻のないカブ葉または板葉とよばれるもの、欠刻の著しいニンジン葉とよばれるものがある。

 日本におけるダイコンの品種は、18世紀にすでに各地に数多く発達していた。19世紀初めの記録『成形図説』(1804)には、関東地方に練馬(ねりま)など、東海地方に守口、宮重(みやしげ)など、九州地方の桜島など、今日にまで引き継がれ栽培される品種が現れている。これらは今日までの間にさらに多くの品種を分化した。そのほかに昔から広く知られた品種としては、四十日(しじゅうにち)、亀戸(かめいど)、美濃早生(みのわせ)、大蔵(おおくら)、三浦(みうら)、理想、高倉、方領(ほうりょう)、阿波(あわ)、聖護院(しょうごいん)、春福(はるふく)、時無(ときなし)などがある。しかし最近は、市場に出荷されるダイコンのほとんどが従来の品種を交雑した一代雑種品種で占められていて、往年の純粋な品種の特徴は失われている。

[星川清親 2020年11月13日]

栽培

もっとも用途の多い初冬どり漬物用ダイコンは、夏の終わりころに、畑を深く耕して基肥を施す。堆肥の多用は味のよいダイコン生産に不可欠とされる。低いうねをつくってから、約30センチメートルおきに数粒ずつ種子を播(ま)く。秋口に芽生えを3、4回にわたって間引きして一本立てとする。また土寄せをして根の肥大を促す。この間に3回ほど追肥を行う。全施肥量は10アール当り窒素14キログラム、リン酸3キログラム、カリ13キログラムが標準で、地力に応じて加減する。病害には近年ウイルス病が大被害をおこすことが多く、一代交雑品種の普及もこのウイルス病抵抗性品種をつくることに主目的の一つがあった。そのほか、白斑(はくはん)病、黒斑(こくはん)病、黒腐(くろぐされ)病などがとくに連作畑に出やすい。土壌センチュウの被害も大きい。害虫にはアブラムシがウイルス病を媒介し、幼苗期にはシンクイムシヨトウムシの害があり、ほかにダイコンサルハムシ、キスジノミハムシなどがある。収穫は適期を過ごすと、す入りをおこすので、生育の早いものから抜いて収穫する。

 ダイコンは、全国各地で栽培されるが、とくに北海道、千葉、青森、鹿児島などが多く、品種と作型との組合せで一年中出荷されている。生産量の多いのは秋・冬ダイコンで、夏ダイコンは北海道や青森、群馬など寒冷地や高冷地で生産され、春ダイコンは都市近郊、青森、九州などで栽培が多い。生産量の74%が生食用に消費され、24%が沢庵(たくあん)漬けなど加工用である。

[星川清親 2020年11月13日]

起源と伝播

栽培年代は古く、エジプトでは紀元前2700~前2200年ころ、ピラミッド建造の労働者の食事にダイコンが供された記録がある。発祥地から西へ伝播(でんぱ)したダイコンは、ヨーロッパでハツカダイコン、クロダイコン、小ダイコンなどに発達して栽培された。しかしヨーロッパでのダイコンの普及は遅く、栽培が始まったのはイギリスでは15世紀、フランス、アメリカでは16世紀である。一方、東に伝えられたダイコンは、中国の北部と南部に分かれて入り、著しく分化・発達し、さらに10世紀以前には日本に伝えられて世界でもっとも多くの品種を分化した。大根と書いて今日のようにダイコンと読むようになったのは室町時代中期ころのことであることが、『節用集(せつようしゅう)』(15世紀)に「大根(だいこん)、又蘆菔(ろふ)、蘿菔(らふ)、大根(おほね)」とあることから知られる。江戸前期にはすでにいくつかの品種が成立し、作型も分化していたことが当時の農書からわかる。江戸時代にヨーロッパのクロダイコンが日本に渡来した記録も残っているが、それは定着しなかった。明治時代になってハツカダイコンがヨーロッパから伝来し、栽培利用されるようになった。

[星川清親 2020年11月13日]

食品

おでん、ふろふき、みそ煮、あら煮などの煮物、漬物、おろし、なますなどに、葉をひたし物、汁の実、漬物などにして食べる。日本のダイコン品種の大部分を占める華南型の品種は、多汁質でとくに煮物に向く。ずんどう形の関東の大蔵(おおくら)や、丸形の関西の聖護院(しょうごいん)などは柔らかく煮物に適している。根のほうが細く曲がり、いかにもダイコンの先祖型のような方領(ほうりょう)はふろふきに最適とされる。おろし用には辛味のないものが好まれるが、薬味用としては辛味の強いダイコンが好まれる。丸形をした辛味大根は、江戸時代にそばの薬味として珍重されたが、現在では京都府と秋田県にわずかに残っている程度である。華北型の品種で、内部まで色のついているものをおろしにすると、淡緑色や淡紅色で料理の彩りが美しい。華北型のダイコンには水蘿蔔(すいらふく)とよばれる生食用の品種群もあり、中国で好まれている。ダイコンは凶作時の代用食としても重要な作物で、昔は東北地方の御飯の増量材(糧物(かてもの))の首位を占めていた。根も葉も乾燥して貯蔵し、糧飯(かてめし)や汁の実とした。切干し大根は18世紀の初めごろから愛知地方で生産された。現在は宮崎県宮崎市田野町が主産地で、宮崎県は全国生産第1位である。また東北地方では、冬に凍結乾燥させた凍(し)み大根をつくる。

 漬物は調理法であると同時に貯蔵技術ともいえる。江戸前期、沢庵(たくあん)禅師の考案といわれる沢庵漬けは、練馬(ねりま)大根の産地で売り出して一般に普及した。一方、東北地方や信州では華北型の在来品種が長期貯蔵漬物用に用いられた。これらの根はデンプン質で硬く、煮物には不向きだが、漬物として古漬けになっても味がよい。

 ヨーロッパのダイコンは、東洋に比較すると形が小さく、利用も多くない。クロダイコンは辛味が強くスパイス的に利用され、スライスしてサンドイッチやサラダに用いる。ハツカダイコンはラディッシュとよばれ、サラダやオードブルに丸ごと生食用として利用される。

 ダイコンの栄養価は豊かではないが、繊維質が多いので健康食としての意義が大きい。また多く含まれるジアスターゼが消化を助けるといわれる。一方、葉は可食部100グラム中にカルシウム210ミリグラム、カロチン2600マイクログラム、ビタミンB20.13ミリグラムなどを含み、黄緑色野菜として栄養的に優れている。在来品種のなかには小瀬菜(こぜな)のように葉とり専用の品種もある。穎割(かいわ)れ大根はダイコンの芽物(めもの)ともいえるもので、かつては高級品で吸い物などに使われたが、近ごろでは生野菜としてサラダに、また薬味としての利用も急増し、屋内で工業的に大量生産されて一年中販売される。

 インドなど南方地域にはさや(種子を包む部分)を食用とするための品種がある。また種子からは食用油もとれる。

[星川清親 2020年11月13日]

文化史

中国ではもっとも古い野菜の一つで、周代の『詩経』「邶風(はいふう)」の谷風(こくふう)に名のある菲(ひ)は、ダイコンと解釈されている。ついで、紀元前2世紀の『爾雅(じが)』に「、蘆(ろうひ)、紫花大根、俗呼(ぞくによぶ)雹(ほうとつ)」との記述があり、大根の名が初出する。紀元後6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には蘆菔(ろうふく)の名称で、その角(さや)、根、葉いずれも生食できると書かれている。莢(さや)を食べるラットテイルラディッシュR. sativus L. var. caudatus L.は、インド、タイなどの山地で発達し、莢が長いのは30センチメートルに達するが、この系統は日本に伝わらなかった。ダイコンは日本でも古い野菜で、『古事記』には、仁徳(にんとく)天皇が皇后に贈った次の歌に名が出る。「つぎねふ山城女(やましろめ)の木鍬(こくわ)持ち打ちし淤富泥(おほね) 根白の白腕(しろただむき) 枕(ま)かずけばこそ 知らずとも言はめ」。大根は白い腕に例えられ、現代の大根足と違い、美しさの対象としてとらえられている。

[湯浅浩史 2020年11月13日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン (大根)
Raphanus sativus L.

アブラナ科の二年草。古名をオオネ,スズシロ,カガミグサなどともいう。ダイコンの栽培は古くから行われており,エジプトでは古代に普及していた。ピラミッドの碑文にもピラミッド建設のときにタマネギやニンニクとともにハツカダイコンを労働者に食べさせたことが記されている。また,古代ギリシア・ローマ時代にも重んじられ,ローマ人によってヨーロッパに伝えられ,中世以後にゲルマン人やスラブ人によってさらに広範囲の地域に広められた。フランスやイギリスへの伝播(でんぱ)は16世紀以後のこととされている。中国でも栽培は古くから行われ,紀元前に蘆(ろひ)の名がある。この名称はダイコンが西方からもたらされたことを暗示している。

 多様なダイコンの品種を大別するとヨーロッパ系とアジア系とに区別される。ヨーロッパ系の代表的なものはハツカダイコン(ラディシュ)であり,アジア系は日本のダイコン(英名Japanese radish)である。しかし中国やインドのダイコンの形質には,ヨーロッパ系と日本系のダイコンの中間をつなぐ形質のものが多くあり,両極端の中間にはっきり区別の線を引くことはできない。

 これらダイコンの栽培品種は普通次の5群に分けられることが多い。すなわち(1)ハツカダイコン群,(2)小ダイコン群,(3)黒ダイコン群,(4)北支ダイコン群,(5)南支ダイコン群である。これらは根の肥大のようすやそのデンプン含量の多少,葉形や毛の有無,果実の形などで区別される。またそれぞれ利用方法にも違いがある。このうち日本のダイコンは,根の肥大性や形態,肉質などで世界に類をみないほどの大分化をしているが,南支ダイコンの影響を大きく受けて成立したと考えられる。しかし北支ダイコンの影響も多少受けている。

栽培ダイコンが多様な分化をしているため,その起源については諸説があり,多系説も多く主張されてきた。しかし,栽培ダイコンはすべて2n=18の染色体数を有する二倍体で,相互に交雑が可能であり,ゲノムも同一とされている。またヨーロッパからアジアにまで広く野生あるいは野生化しているハマダイコンとも交雑する。それらの点から栽培ダイコンはハマダイコンから東地中海地域で最初に栽培化され,それがヨーロッパ域でハツカダイコン群,小ダイコン群,黒ダイコン群を分化し,インドから南中国へ入ったものが南支ダイコン群に,また中央アジア域を通って中国に入ったものが北支ダイコン群に分化してきたと考えられる。さらにこれら品種群の分化にはハマダイコンや近縁野生種との遺伝子の交流が関与して,現在見られるような複雑な栽培ダイコンの品種群が成立してきたものである。日本へは中国を経て伝来し,文献上の最も古い記録としては《古事記》の中に〈淤富泥(おおね)〉の名がでている。《延喜式》には栽培法や利用法も記されており,春の七草にはスズシロの名で使われている。日本のダイコンは世界で最も変化に富み,ダイコンの品種分化の第2次センターになっている。

根形には丸形,円筒形,紡錘形,くさび形,棒状形およびそれら各種の変形があり,葉形はへら形でほとんど欠刻のないものから,羽状で深く切れ込むものなど多様である。また根の大きさは,桜島ダイコンのような20kgにもなる巨大なものからハツカダイコンのように極小のものまであり,長さも守口ダイコンのように細くて長さが1m以上にもなるものまである。根色は白が一般的であるが,赤,緑,黒などがあり,さらに部分的に色の異なるものや,外皮と内部とで色の異なるものなど変化に富んでいる。品種はかつては特色のある地方独特のものが育成され,15程度の品種群に分けられるが,最近の傾向として,ほとんどが栽培しやすくそろいのよい一代雑種(F1)が用いられている。現在の主要な品種群は,みの早生(わせ),宮重(みやしげ),練馬の3群で,さらに阿波晩生(あわおくて),聖護院(しようごいん),二年子(にねんご),時無(ときなし)の4群を加えた7群が経済的な実用品種群として栽培され,需要の大半をまかなっている。また,生育が速く,サラダなどの生食に適するハツカダイコンの栽培も行われている。最近の品種の動向としては消費者の好みから,青首化と小型化の傾向がみられる。ダイコンの栽培は,収穫時期により,秋ダイコン,冬ダイコン,春ダイコン,初夏ダイコン,夏ダイコン,ハツカダイコンなどの作型に分けることができる。おもに春まき,夏まき,秋まきにするが,暖地や高冷地など立地条件を生かした栽培も多く,漬物用,青果用など用途別にも産地が分かれる。全国的に栽培されるが,面積的には北海道,千葉,青森,宮崎,鹿児島などの道県が多い。
執筆者:

《延喜式》に耕作法の記載があるように,ダイコンは古くから栽培され,食用にされていた。古名を〈おおね〉といい,《和名抄》は〈葍〉〈蘿菔〉の字をあて,〈俗に大根の二字を用う〉としている。ほかに,〈蘿蔔(らふ)〉とも書き,せん切りにした意味の繊蘿蔔がなまって千六本ということばが生じたという。近世以前どんな味付けをして食べていたものか,ほとんど知る手がかりがない。《新猿楽記》には〈食歎愛酒〉の七の御許(おもと)の好物の一つに〈大根舂塩辛〉というのが見えるが,これがダイコンと塩辛をいっしょについたものか,ダイコンをつき砕いて塩味にしたてたものかわからない。《徒然草》には,九州の押領使だった人が万病の薬だとして毎朝ダイコンを2本ずつ焼いて食べたという話がある。あるとき,人が出払って無人の状態でいるところで敵襲をうけた際,見知らぬ兵(つわもの)ふたりが現れて撃退してくれた。不思議に思って尋ねると,そのふたりはダイコンの精だったというのであるが,その焼きダイコンにどんな調味をしたものか,これまた不明である。室町末期の成立と思われる《庖丁聞書》にいたって,魚の上におろしダイコンを置いた〈雪鱠(ゆきなます)〉や,削りダイコンを使う〈ひでり鱠〉という酢を使った料理が姿を見せる。なます以外の料理では,近世初頭の《料理物語》(1643)になって,やっと汁,煮物,香の物などに使うことが記載される。元禄(1688-1704)ころはそばの普及がめざましく,その薬味として辛みダイコンが盛んに栽培,利用されたようである。そして,1785年(天明5)には,いわゆる〈百珍物〉流行の機運に乗じて,《大根一式料理秘密箱》《大根料理秘伝抄》というダイコン料理の専門書2種が刊行されるようになるが,この現象はおそらくダイコンの品種改良の進歩を反映したものだったに違いない。

 ダイコンは,おろしなどにしての生食,おでんふろふきなどの煮食,汁の実,漬物と,きわめて利用範囲が広い。また,切干しにしたり,葉を干して干葉(ひば)として米飯の増量材にするなど,日本人の食生活を多面的にささえてきた食品であった。成分上の特徴としては,根部に消化酵素アミラーゼ(ジアスターゼ)とビタミンCを多量に含有し,葉部にはカロチンが豊富である。このアミラーゼとビタミンCは熱に弱いので,ダイコンおろしなどにしての生食がよい。アミラーゼの活性はしょうゆでは阻害されないが,酢では阻害される。なお,へたな役者を〈大根役者〉というが,これはダイコンによる食中毒の例を見ないことから,〈あたったためしがない〉にかけたものだという。
執筆者:

大根は,かつて青森県五戸地方で,10人家族でひと冬700本用意したというほど,漬物やかて飯の材料として日常の重要な食糧とされた。一方,大根は種々の形に細工しやすく,婚礼の宴席に男女の性器を模したものが出され,またその色が神聖感を与えるために,古くから正月の歯固めをはじめ,ハレの日の食品や神供として用いられた。また大根は種々の俗信や禁忌を伴っている。種を土用の入りや丑(うし)の日に撒(ま)くと,葬式用や曲り大根になるといって嫌う所が多い。また大根畑に七夕飾りの竹や桃の枝をさしておくと虫がつかないという所も多い。東日本では,十日夜(とおかんや)を〈大根の年取り〉といい,この日に餅をつく音やわら鉄砲の音で大根は太るといい,大根の太る音を聞くと死ぬといって大根畑へ行くことや大根を食べるのを禁じている所もある。西日本では10月の亥子(いのこ)に同様の伝承があり,この日に大根畑へいくと大根が腐る,太らない,裂け目ができる,疫病神がつくといい,また大根の太る音や割れる音を聞くと死ぬともいう。このほか,半夏生(はんげしよう),彼岸,社日,夷講などの季節の折り目や収穫祭にも大根畑にいくのを忌む。これは大根が神祭の重要な食品であり,大根畑は霊界に近い神の出現する神聖な場所と見なされていたことを示している。北九州では,稲の収穫祭である霜月の丑の日の前日に大黒祭が行われ,二股大根を箕(み)にのせ,供物をして祭っている。奥能登のアエノコトでも,二股大根を田の神として丁重に扱う風がある。大黒と大根は語音が近いためか,二股大根を〈大黒の嫁御〉といっている地方は多い。また〈違い大根〉は聖天(歓喜天)の紋とされ,この絵馬を聖天にささげ,大根を絶ち,夫婦和合や福利の祈願を行う。また,大根が聖天の持物とされることもある。
執筆者:


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食の医学館 「ダイコン」の解説

ダイコン

《栄養と働き》


 アブラナ科の1年草であるダイコンは、春の七草の1つの「スズシロ」として、わが国では古くから親しまれている野菜です。
 ダイコンには数多くの品種があり、それぞれ長さや太さが異なります。たとえば、鹿児島県桜島の火山灰によって育てられる「桜島ダイコン」は世界最大のダイコンで、カブのような丸い形をしています。守口ダイコンは世界最長のダイコンといわれ、標準的な大きさは太さ2.5cm、長さ120cmで、なかには150cmを超えるものもあります。
 一般的に知られているのは、辛みが少なく、やや小型の青首ダイコンです。冬ダイコンの代表といえる品種であり、全国各地で栽培されています。1年中出回っていますが、冬を越したものがとくに甘みが強く、美味です。
〈消化酵素が胃もたれを解消、がんの抑制にも効果を発揮〉
<根>
○栄養成分としての働き
 ダイコンに含まれる成分でもっとも注目したいのは、消化酵素であるアミラーゼの働きです。
 アミラーゼはでんぷんを分解する酵素で、食物の消化を助け、胸やけや胃もたれを防ぎます。
 同じく酵素であるオキシダーゼも含み、これは解毒作用にすぐれる成分です。がん予防にも有効な成分で、魚の焦げに含まれる発がん性物質を抑制する作用があります。
 これらの成分は加熱に弱いので、生でとったほうが効果的。手軽なダイコンおろしがいちばんいい食べ方といえるでしょう。
 ダイコンにはピリッとした辛さがありますが、これは80種ほどあるカラシ油のなかの4―メチルチオ3―ブテニル・イソチオシアネート(MTBI)という成分で、野菜ではダイコンだけに含まれているものです。この成分は、がんの抑制に効果があることがわかっています。
 ダイコンおろしは二日酔いを解消するのにも役立ちます。
 飲みすぎた翌日、なかなかお酒が抜けなくて気持ちがスッキリしないときは、小鉢一杯ほどを飲んでみましょう。症状がやわらぐといわれています。
 この場合は、ダイコンをよく洗って皮つきのままおろします。皮の部分にビタミンCが多く、これが肝臓の働きを助けてアセトアルデヒドの分解を促進するのです。
○注意すべきこと
 ダイコンは、ビタミンCが多いのが特徴ですが、おろしてから20分後には8割に減ってしまいます。なるべく食べる直前におろすようにしましょう。
〈葉はカロテン、カルシウムが豊富な緑黄色野菜〉
<葉>
○栄養成分としての働き
 ダイコンは、白い根の部分だけでなく、葉の部分にも注目すべき栄養素がつまっています。
 葉は立派な緑黄色野菜で、カロテンを豊富に含み、カルシウム、食物繊維、ビタミンCといった栄養素の含有量はコマツナを上回っています。これらはがんや骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、貧血の改善などに効果を発揮します。とくに根の部分には含まれていないカロテンの含有量が100g中3900μgと多いのが特徴的。カロテンは、皮膚や内臓の粘膜(ねんまく)を強化し、ウイルスへの抵抗力、自然治癒力(しぜんちゆりょく)を高めてくれます。こうした働きで胃腸を強くし、がんを予防します。
○漢方的な働き
 また、ダイコンの葉にはさまざまな薬効もあります。
 たとえば、干した葉を風呂に入れて入浴すると、体があたたまり、神経痛や冷え症などに効果的に働くといわれています。生の葉の汁は、切り傷や虫刺されなどによるかゆみを抑えます。
○外用としての利用法
 ダイコンの葉の干したものを3株ぐらい細かく切って袋に入れ、水の状態からフロを沸かして入ると、足腰の冷えに効果があります。漢方薬局にあるダイコンの干し葉(ヒバ)を利用すると、簡単です。
◆切り干しダイコン
○栄養成分としての働き
 ダイコンの加工品である切り干しダイコンも栄養価の高い食品です。これは、ダイコンの根を細切りにして天日に干した保存食です。干すことによって甘みと風味が加わり、栄養価も増します。
 カリウムは100g中3500mg、カルシウムは500mg、ビタミンB1が0.35mg、B2が0.20mgといずれも生よりもふえています。これらの成分が、高血圧症予防、骨粗鬆症、疲労回復などに役立ちます。食物繊維も20.7gと含有量が多く、便通をととのえます。
◆カイワレダイコン
○栄養成分としての働き
 料理の脇役的な存在のカイワレダイコンにも、栄養的な価値があります。これはダイコンの芽が大きくなる前に摘んだもので、さっぱりしていて少し辛みがあります。
 カルシウムやマグネシウム、亜鉛(あえん)などのミネラル類を含み、ビタミンEもたっぷり。Eは末梢部分(まっしょうぶぶん)の血行障害改善に効果的に働きます。ビタミンKも含んでおり、カルシウムの代謝を活発にします。

《調理のポイント》


 ダイコンは部位によって食感や味が異なるので、料理法によって使い分けるとよりおいしく食べられます。
 購入する際は、なるべく葉付きのものを買い、葉の部分は買ったその日のうちに調理しましょう。ゆでてさっと水にさらしてから、ゴマ油で炒(いた)めれば、ビタミンAが豊富なおかずになります。味噌汁の具としてもためしてみましょう。また、根も、料理によってじょうずに部位を使い分けると、味のバリエーションも楽しめます。根の上部の淡黄色の部分は、ソフトな辛みのおろしに、肉質が均質な中央部は、ふろふきダイコンやおでんに、筋が多くて辛みの強い根の先は、切り干しダイコンや辛いおろしにそれぞれ向いています。
○注意すべきこと
 生のダイコンは体を冷やすので、胃下垂(いかすい)や冷え症の人は食べすぎに注意しましょう。生でも、魚や肉など体をあたためる働きをするものといっしょに食べれば問題ありません。

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百科事典マイペディア 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン(大根)【ダイコン】

オオネ,スズシロとも。アブラナ科の一〜二年生野菜。中央アジア原産といわれるがまだ定説はない。根は多汁,多肉で大きく白色のものが多いが,紅,紫などのものもある。葉は束生し羽状複葉。春1m内外の茎を出し白〜淡紫色の4弁花を総状につける。日本では古くから栽培され,姿形や生態の異なる多くの品種が発達,周年供給されている。代表的品種は練馬,守口,宮重,四月,春福,桜島,みの早生(わせ),聖護院,四十日,白上りなど。ほかに欧米から導入されたハツカダイコンなどがある。根はジアスターゼ,ビタミンCを多く含み,おろし,なます,煮物,切干,たくあんなどに重用される。葉にはビタミンAが多い。主産地は北海道,千葉,宮崎,鹿児島など。ダイコンの芽生えはカイワレ(カイワレダイコンとも)と称され,近年,生食用に量産されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン(大根)
ダイコン
Raphanus sativus var. raphanistroides

アブラナ科の二年草。日常的な野菜の1つ。ヨーロッパ南部の原産とされ,中国を経て古い時代に日本に伝えられた。古名はスズシロといい,春の七草の1つ。多数の変種,品種があるが,すべて一つの系統から出たものと考えられている。根出葉は羽状に深裂し粗毛がある。春に,茎が伸びて上部は分枝し,総状花序をなして十字形の淡紫色または白色の花をつける。おしべは6本で,そのなかの4本が長い。花糸の基部に蜜腺をもつ。果実は細長く,中に赤褐色の種子を含む。普通大根と呼ばれる部分の上部は茎で,中部以下が根であるが境界は明らかでない。海岸の砂地に生えるハマダイコンはダイコンが野生化したもので,世界各地に帰化している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ダイコン」の解説

ダイコン

 [Rapahnus ocanthiformis],[R. sativus (daikon group)].別名スズシロ.フウチョウソウ目アブラナ科ダイコン属の越年草で,葉,根を食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ダイビング用語集 「ダイコン」の解説

ダイコン

ダイビングコンピューターの略称。水深・時間を自動計測し、体内に残っている窒素量から減圧の指示、無減圧のリミットなどを提示してくれる、ダイバーの必需品。メーカーごとに様々なデザイン、搭載ソフトウェアのタイプがある。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

デジタル大辞泉プラス 「ダイコン」の解説

ダイコン

2008年公開の日本のオムニバス映画作品「The ショートフィルムズ みんな、はじめはコドモだった」の作品のひとつ。監督:崔洋一、出演:小泉今日子、樹木希林、細野晴臣ほか。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のダイコンの言及

【作物】より

…作物になった植物は,もともと特定の器官が一般の植物にくらべて形態的あるいは質的に発達のすぐれたものであったが,作物とされてからはことさらにそれが強調される方向に〈改良〉された。たとえば数十kgの果実をつけるカボチャとか,太い根のダイコンなど,特定の器官が巨大化され,植物として奇形的なものに変えられている。また種子の休眠性が失われるなど,植物としての本性のいくつかを失わされたり,環境への抵抗性や自衛手段などの一部,たとえば,のぎやとげ,あるいは体内に含んでいた毒物などがなくなってしまったものが多い。…

【聖天】より

…サンスクリット名のナンディケシバラNandikeśvaraの漢訳名を大聖歓喜天といい,その略称。歓喜天,天尊などともいう。仏教では聖天を〈しょうでん〉と読む。大自在天(シバ神)と烏摩妃(うまひ)の子の俄那鉢底(がなぱち)(大将の意)のことで,大自在天の軍勢の大将であった。また毘那夜迦(びなやか)(障害を除去する者)ともいわれる。もとは人々の事業を妨害する魔王であり,インド神話におけるガネーシャ神に相当する。…

【雑煮】より

…後者は関東に多く,切餅を焼いて用いる。餅に配する具は一定しないが,《諸国風俗問状答》に〈雑煮餅の事,菘,芋,大根,人参,田作など通例〉という屋代弘賢の質問が見られるように,江戸後期には青菜,サトイモ,ダイコン,ニンジン,ごまめなどが一般的なものであった。現在ではそのほかに豆腐,かまぼこ,エビ,鶏肉などがよく使われ,ブリやサケを用いる地方もある。…

【十日夜】より

…群馬,埼玉,山梨,長野県にかけて行われている名称。この日に長野県東筑摩では葉付きのダイコンと餅とを箕(み)に載せて,庭上に神を祭るところがある。埼玉県秩父では9日を亥子(いのこ)の日といい,11日に亥子餅を亥の神に供え,外では,男の子がわらの棒をもって土をたたいて遊ぶが,このときのはやし言葉に〈十日夜の御祝い〉というところがあり,十日夜は関西以西に分布する亥子の行事と同じで,田の神が田から家へ帰る日であった。…

※「ダイコン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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