ダイコン(読み)だいこん(英語表記)Japanese radish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン
だいこん / 大根
Japanese radish
[学] Raphanus sativus L.

アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の一、二年草。春の七草の一つで、スズシロともいう。歴史の古い野菜で、その発祥地には諸説があるが、一般にはカフカスからパレスチナ地帯原産と考えられている。世界各地で栽培され、形態的にも異なった多くの品種があるが、それらはすべて植物分類学上、単一の種とされている。根生葉は互生で束生し、へら形のものから羽状に深裂したものなどがあり、普通は粗い毛がある。春に地上茎を直立し、枝先に総状花序を出し、白または淡紫色の十字花を多数つける。果実は長さ約5センチメートルの長角果でくびれがあり、膨らんだ部分に1個ずつ1果に数個の種子が入っている。アブラナ属(カブやキャベツ)と異なり、熟しても莢(さや)は裂開しない。茎の基部とそれに続く主根の肥大したものが大根で、葉とともに食用とする。大根の形は丸型から棒状まで品種によりさまざまである。

[星川清親 2020年11月13日]

祖先種

日本をはじめ世界各地の海岸にハマダイコンとよぶ植物が野生しているが、これも今日の栽培ダイコンと同一の種とみなされている。しかしハマダイコンと栽培ダイコンとの関係は現在もまだ明確でなく、ハマダイコンは栽培ダイコンの逸出したものであるとする説も根拠が薄い。それは、ハマダイコンは果実の莢はくびれがあるが熟すと折れやすく、花色は紫、根にデンプンが蓄積するなどの特徴があり、栽培ダイコンとは明らかに異なっているからである。逆にハマダイコンは栽培ダイコンの成立に関与した祖先種であるとする説もある。またヨーロッパのダイコンの祖先は東洋のダイコンの祖先とは違ったセイヨウダイコンR. raphanistrum L.であるとする説もある。また、日本には、福島県会津地方や山形県米沢(よねざわ)地方に、海岸生のハマダイコンとは違った内陸性ダイコンの自生もみられる。これらと海岸性のハマダイコン、栽培ダイコンとの関係もまだ十分解明されていない。

[星川清親 2020年11月13日]

品種

ダイコンの品種は華南型ダイコン、華北型ダイコン、ハツカダイコン、小ダイコン、クロダイコンに大別される。日本で古くから栽培され、品種が多く分化しているのは、華南型ダイコンである。華北型ダイコンは華南型よりもあとに伝来したと考えられ、日本の品種の主流を占めている。ハツカダイコンは明治以降に導入された。小ダイコンは南ヨーロッパおよび中国北部に栽培される小形の品種群である。

 近年まで日本各地で栽培されたダイコンの品種は100~120ほどに上る。それらは、栽培型や根の大きさ、形、色、また葉形など大きな変異がある。耕土の深い地層の関東地方では、長根型の品種で根全体が地中に潜っている吸い込み型の品種が多く栽培される。耕土の浅い地層の関西地方では、丸大根や根の上部が地上に出る抽根型の品種がおもに栽培される。桜島ダイコンは世界最大の丸型ダイコン品種で、10キログラム以上になる。一方、守口(もりぐち)ダイコンは世界最長のダイコンで、直径は2~3センチメートルであるが長さは1.5メートルに達する。また、ハツカダイコンはまるごと口に入るほど小形である。根の外皮は純白の品種が多いが、地上に抽出した部分が緑色になる青首(あおくび)といわれる品種群もある。華北型ダイコンの系統の地方在来品種には赤首のものや、白地で皮目の部分が赤紫色になるもの、紅赤色丸型のものなどがある。最近、中国野菜として華北型の品種がいくつか導入され、品種はますます多様化した。それらには緑皮紅肉で丸型、緑皮緑肉で総太り型、紅皮白肉で丸型、紅皮白肉で長型などがある。クロダイコンは文字どおり外皮が黒色のものである。

 葉の形の変異も多く、葉縁に欠刻のある典型的なダイコン葉型のほか、欠刻のないカブ葉または板葉とよばれるもの、欠刻の著しいニンジン葉とよばれるものがある。

 日本におけるダイコンの品種は、18世紀にすでに各地に数多く発達していた。19世紀初めの記録『成形図説』(1804)には、関東地方に練馬(ねりま)など、東海地方に守口、宮重(みやしげ)など、九州地方の桜島など、今日にまで引き継がれ栽培される品種が現れている。これらは今日までの間にさらに多くの品種を分化した。そのほかに昔から広く知られた品種としては、四十日(しじゅうにち)、亀戸(かめいど)、美濃早生(みのわせ)、大蔵(おおくら)、三浦(みうら)、理想、高倉、方領(ほうりょう)、阿波(あわ)、聖護院(しょうごいん)、春福(はるふく)、時無(ときなし)などがある。しかし最近は、市場に出荷されるダイコンのほとんどが従来の品種を交雑した一代雑種品種で占められていて、往年の純粋な品種の特徴は失われている。

[星川清親 2020年11月13日]

栽培

もっとも用途の多い初冬どり漬物用ダイコンは、夏の終わりころに、畑を深く耕して基肥を施す。堆肥の多用は味のよいダイコン生産に不可欠とされる。低いうねをつくってから、約30センチメートルおきに数粒ずつ種子を播(ま)く。秋口に芽生えを3、4回にわたって間引きして一本立てとする。また土寄せをして根の肥大を促す。この間に3回ほど追肥を行う。全施肥量は10アール当り窒素14キログラム、リン酸3キログラム、カリ13キログラムが標準で、地力に応じて加減する。病害には近年ウイルス病が大被害をおこすことが多く、一代交雑品種の普及もこのウイルス病抵抗性品種をつくることに主目的の一つがあった。そのほか、白斑(はくはん)病、黒斑(こくはん)病、黒腐(くろぐされ)病などがとくに連作畑に出やすい。土壌センチュウの被害も大きい。害虫にはアブラムシがウイルス病を媒介し、幼苗期にはシンクイムシ、ヨトウムシの害があり、ほかにダイコンサルハムシ、キスジノミハムシなどがある。収穫は適期を過ごすと、す入りをおこすので、生育の早いものから抜いて収穫する。

 ダイコンは、全国各地で栽培されるが、とくに北海道、千葉、青森、鹿児島などが多く、品種と作型との組合せで一年中出荷されている。生産量の多いのは秋・冬ダイコンで、夏ダイコンは北海道や青森、群馬など寒冷地や高冷地で生産され、春ダイコンは都市近郊、青森、九州などで栽培が多い。生産量の74%が生食用に消費され、24%が沢庵(たくあん)漬けなど加工用である。

[星川清親 2020年11月13日]

起源と伝播

栽培年代は古く、エジプトでは紀元前2700~前2200年ころ、ピラミッド建造の労働者の食事にダイコンが供された記録がある。発祥地から西へ伝播(でんぱ)したダイコンは、ヨーロッパでハツカダイコン、クロダイコン、小ダイコンなどに発達して栽培された。しかしヨーロッパでのダイコンの普及は遅く、栽培が始まったのはイギリスでは15世紀、フランス、アメリカでは16世紀である。一方、東に伝えられたダイコンは、中国の北部と南部に分かれて入り、著しく分化・発達し、さらに10世紀以前には日本に伝えられて世界でもっとも多くの品種を分化した。大根と書いて今日のようにダイコンと読むようになったのは室町時代中期ころのことであることが、『節用集(せつようしゅう)』(15世紀)に「大根(だいこん)、又蘆菔(ろふ)、蘿菔(らふ)、大根(おほね)」とあることから知られる。江戸前期にはすでにいくつかの品種が成立し、作型も分化していたことが当時の農書からわかる。江戸時代にヨーロッパのクロダイコンが日本に渡来した記録も残っているが、それは定着しなかった。明治時代になってハツカダイコンがヨーロッパから伝来し、栽培利用されるようになった。

[星川清親 2020年11月13日]

食品

おでん、ふろふき、みそ煮、あら煮などの煮物、漬物、おろし、なますなどに、葉をひたし物、汁の実、漬物などにして食べる。日本のダイコン品種の大部分を占める華南型の品種は、多汁質でとくに煮物に向く。ずんどう形の関東の大蔵(おおくら)や、丸形の関西の聖護院(しょうごいん)などは柔らかく煮物に適している。根のほうが細く曲がり、いかにもダイコンの先祖型のような方領(ほうりょう)はふろふきに最適とされる。おろし用には辛味のないものが好まれるが、薬味用としては辛味の強いダイコンが好まれる。丸形をした辛味大根は、江戸時代にそばの薬味として珍重されたが、現在では京都府と秋田県にわずかに残っている程度である。華北型の品種で、内部まで色のついているものをおろしにすると、淡緑色や淡紅色で料理の彩りが美しい。華北型のダイコンには水蘿蔔(すいらふく)とよばれる生食用の品種群もあり、中国で好まれている。ダイコンは凶作時の代用食としても重要な作物で、昔は東北地方の御飯の増量材(糧物(かてもの))の首位を占めていた。根も葉も乾燥して貯蔵し、糧飯(かてめし)や汁の実とした。切干し大根は18世紀の初めごろから愛知地方で生産された。現在は宮崎県宮崎市田野町が主産地で、宮崎県は全国生産第1位である。また東北地方では、冬に凍結乾燥させた凍(し)み大根をつくる。

 漬物は調理法であると同時に貯蔵技術ともいえる。江戸前期、沢庵(たくあん)禅師の考案といわれる沢庵漬けは、練馬(ねりま)大根の産地で売り出して一般に普及した。一方、東北地方や信州では華北型の在来品種が長期貯蔵漬物用に用いられた。これらの根はデンプン質で硬く、煮物には不向きだが、漬物として古漬けになっても味がよい。

 ヨーロッパのダイコンは、東洋に比較すると形が小さく、利用も多くない。クロダイコンは辛味が強くスパイス的に利用され、スライスしてサンドイッチやサラダに用いる。ハツカダイコンはラディッシュとよばれ、サラダやオードブルに丸ごと生食用として利用される。

 ダイコンの栄養価は豊かではないが、繊維質が多いので健康食としての意義が大きい。また多く含まれるジアスターゼが消化を助けるといわれる。一方、葉は可食部100グラム中にカルシウム210ミリグラム、カロチン2600マイクログラム、ビタミンB20.13ミリグラムなどを含み、黄緑色野菜として栄養的に優れている。在来品種のなかには小瀬菜(こぜな)のように葉とり専用の品種もある。穎割(かいわ)れ大根はダイコンの芽物(めもの)ともいえるもので、かつては高級品で吸い物などに使われたが、近ごろでは生野菜としてサラダに、また薬味としての利用も急増し、屋内で工業的に大量生産されて一年中販売される。

 インドなど南方地域にはさや(種子を包む部分)を食用とするための品種がある。また種子からは食用油もとれる。

[星川清親 2020年11月13日]

文化史

中国ではもっとも古い野菜の一つで、周代の『詩経』「邶風(はいふう)」の谷風(こくふう)に名のある菲(ひ)は、ダイコンと解釈されている。ついで、紀元前2世紀の『爾雅(じが)』に「、蘆(ろうひ)、紫花大根、俗呼(ぞくによぶ)雹(ほうとつ)」との記述があり、大根の名が初出する。紀元後6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には蘆菔(ろうふく)の名称で、その角(さや)、根、葉いずれも生食できると書かれている。莢(さや)を食べるラットテイルラディッシュR. sativus L. var. caudatus L.は、インド、タイなどの山地で発達し、莢が長いのは30センチメートルに達するが、この系統は日本に伝わらなかった。ダイコンは日本でも古い野菜で、『古事記』には、仁徳(にんとく)天皇が皇后に贈った次の歌に名が出る。「つぎねふ山城女(やましろめ)の木鍬(こくわ)持ち打ちし淤富泥(おほね) 根白の白腕(しろただむき) 枕(ま)かずけばこそ 知らずとも言はめ」。大根は白い腕に例えられ、現代の大根足と違い、美しさの対象としてとらえられている。

[湯浅浩史 2020年11月13日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダイコン」の意味・わかりやすい解説

ダイコン(大根)
ダイコン
Raphanus sativus var. raphanistroides

アブラナ科の二年草。日常的な野菜の1つ。ヨーロッパ南部の原産とされ,中国を経て古い時代に日本に伝えられた。古名はスズシロといい,春の七草の1つ。多数の変種,品種があるが,すべて一つの系統から出たものと考えられている。根出葉は羽状に深裂し粗毛がある。春に,茎が伸びて上部は分枝し,総状花序をなして十字形の淡紫色または白色の花をつける。おしべは6本で,そのなかの4本が長い。花糸の基部に蜜腺をもつ。果実は細長く,中に赤褐色の種子を含む。普通大根と呼ばれる部分の上部は茎で,中部以下が根であるが境界は明らかでない。海岸の砂地に生えるハマダイコンはダイコンが野生化したもので,世界各地に帰化している。

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