日本大百科全書(ニッポニカ) 「コーホート調査」の意味・わかりやすい解説
コーホート調査
こーほーとちょうさ
cohort study
社会調査の一技法。共通の属性をもつ集団のなかからサンプル(標本)を選び、一定期間ごとに同じ調査を繰り返す手法である。たとえば、調査対象を「平成27年生まれ」と決め、該当者から無作為抽出した一定数の個人に対して、5年ごとに同じ調査を続けることがこれに該当する。コーホート調査には、長期間継続しなければ成果を得られない特性がある。コーホート(コホート)は古代ローマの歩兵隊単位が語源であり、統計学や人口学では、年齢や性別などの共通属性をもつ人口群をさす。つまりコーホート調査は特定集団の時間的変化を標本調査・分析するものであり、「集団調査」「世代差調査」「コーホート研究」「コーホート分析」などとよばれることもある。
海外では、イギリスで1946年生まれの人を対象に発育や公衆衛生に関するコーホート調査が行われ、アメリカ、ノルウェー、デンマークなどでも高齢者保健や化学物質の影響に関するコーホート調査が実施されている。日本では大学や研究機関の小規模コーホート調査はあったものの、政府統計として最初に行われた大規模コーホート調査は、厚生労働省が2001年(平成13)生まれの人を対象に始めた「21世紀出生児縦断調査」(5万人調査)である。その後、生活意識全般の変化を調べる「20―30代男女20万人調査」(厚生労働省)や、化学物質などの長期的な人体への影響を調べる「子どもの健康と環境に関する全国調査」(環境省)などが始まった。
社会調査は、ある時点での集団の意識や実態を男女別、年齢別、地域別など総合的に分析する横断的調査cross-sectional studyと、一定時間をおいて繰り返し同じ調査を行う縦断的調査longitudinal studyの2種類に大きく分けられる。コーホート調査は縦断的調査の一つである。コーホート調査以外の縦断的調査には、調査対象を定義し、その定義に該当する者を一定期間ごとに調査するトレンド調査や、調査対象を厳格に固定して追跡調査を行うパネル調査がある。トレンド調査の対象は調査ごとにほぼ完全に変わるのに対し、コーホート調査では標本となる個人や集団が入れ替わることがあり、パネル調査では1回目の調査対象を繰り返し追跡し続けるという違いがある。
[矢野 武 2015年5月19日]