ゴースト(読み)ごーすと(英語表記)ghost

翻訳|ghost

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴースト」の意味・わかりやすい解説

ゴースト
ごーすと
ghost

テレビジョンの受信画面に、正規の映像からすこし離れて同一画像が二重、三重に現れる現象。多重像ともいう。地上アナログ放送時代に、受信アンテナに放送局から直接届く電波と、山や建造物などによって反射されて届く電波とがある場合に生じた現象である。

 山や建造物などで1回以上反射されて届く電波は、放送局から直接届く電波より伝送経路が長くなり、到着時間が遅れるので、この場合のゴーストは正規の映像の右側に現れる。大都市においては、高層ビル高速道路、ネオン塔など、多数の障害物が存在するため、いくつものゴーストが現れることも多かった。また高層ビルの反射電波は、かなり遠方にまで届き、思わぬ所にゴースト障害を生じることがあった。このほか、フィーダー給電線)と受信アンテナ間、フィーダーと受像機間に非整合(不適当な接続など)がある場合にもゴーストが生じた。さらにマンションなど、共同受信方式で受信している所の窓ぎわに置いたテレビに、正規の映像の左側にゴーストの出る場合があったが、これは、屋上のアンテナで受信されて受像機に届く電波のほか、直接受像機に飛び込む電波があるためで、比較的テレビ電波の強い地域でおこっていた。

 ゴーストの程度は、受信地点およびその周囲の状態によって千差万別であり、すべての場合に有効な対策はない。しかし次のような種々の手段が考案され、実用された。

(1)受信アンテナの位置、高さ、向きを変える。

(2)前方に比較して、横方向や後方感度を十分弱くした指向性の鋭いアンテナを用いる。

(3)指向性の変えられる可変指向性アンテナを用いる。

(4)山頂やビルの屋上などに高性能のアンテナを立て共同受信方式を採用する。

(5)受像機内にゴーストを打ち消す回路を組み込む。

(6)建造物の反射壁面に電波吸収材を取り付ける。

(7)SHF電波による中継放送を行う。

 なお、テレビと同じ超短波を用いているFM放送にも、同様な現象によってステレオ放送左右の分離度が劣化することがある。この場合は、ゴーストとはよばずマルチパスひずみという。

 衛星デジタルテレビにおいては、受信用パラボラアンテナ(回転放物鏡アンテナ)が強い指向性をもっており、また地上デジタルテレビの場合も、受信用UHFアンテナがアナログ放送で使われたVHFアンテナに比べて強い指向性をもっているため、受信すべき電波の方向以外から入ってくる反射電波が受信されることは少なくなり、ゴーストが生じにくい。さらにデジタル信号処理の過程でノイズ成分の除去が行われるため、ゴーストが生じることはなくなる。しかし、いずれの場合も、受信条件が悪いとき、映像の一部がモザイク状になるブロックノイズという障害がおこることがある。

木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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