改訂新版 世界大百科事典 「サイハイラン」の意味・わかりやすい解説
サイハイラン
Cremastra appendiculata(D.Don)Makino
日本全国の低山に普通に見られる地生ラン。和名は花茎の一方向に花をつける花序を采配に見立てたもの。地下に偽鱗茎があり,連なる。葉は普通1枚,長楕円形で長さ25~40cm,エビネの葉に似る。5~6月,高さ30~50cmの花茎に密に10~20個の花をつける。花は下垂し,ややらっぱ状に開く。花色は紅紫色から黄褐色まで変異に富む。唇弁は先の方で3裂し,蕊柱(ずいちゆう)を取り囲む。花粉塊は4個。サハリン南部,南千島から九州,朝鮮南部,中国,台湾,ヒマラヤに分布し,おもに温帯の林床に生育する。偽鱗茎を漢方薬として,痛み止め,止血に,またサレップ根(ヨーロッパ産ラン科植物オルキス属Orchisなどの球茎)の代用として粘滑薬に用いられる。また昔は食用にされたという記録もある。近縁種のトケンランC.unguiculata(Finet)Finetは,根茎が長いため偽鱗茎どうしが離れ,葉は通常2枚つける。花には紫斑があり,唇弁はそり返る。北海道,本州,四国の冷温帯の林床に生育する。
執筆者:井上 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報