日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンクチュアリ」の意味・わかりやすい解説
サンクチュアリ
さんくちゅあり
Sanctuary
アメリカの作家フォークナーの長編小説。「聖域」と訳される。ヨクナパトーファ物語の一つ。金もうけのために「想像しうる限りの恐ろしい物語」を書こうとしたと著者自らいう作品で、大幅に書き改められて1931年に出版された。架空の町ミシシッピ州ヨクナパトーファ郡のジェファソン町を南へ外れたフレンチマンズ・ベンドの廃屋で、ウイスキーを密造売しているリー・グッドウィンのところへ、軽薄な娘テンプル・ドレークが迷い込むと、不能者の悪党ポパイが彼女をトウモロコシの穂軸で凌辱(りょうじょく)し、じゃまになるお人好しのトミーを射殺、テンプルをメンフィスの淫売窟(いんばいくつ)に連れ去る。一方リーは、トミー殺しの嫌疑を受け、インテリの弁護士ベンボーが弁護にあたるが、テンプルの偽証などによって敗れ、リーは群衆にリンチを受ける。現代悪の根源をえぐり、人間の偽善性と正義の無力を訴える作品。
[大橋健三郎]
『大橋健三郎訳『サンクチュアリ』(角川文庫)』