鳥獣の保護繁殖をはかるために設定された地域。〈鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律〉にもとづいて環境庁長官(現,環境大臣)の設定するものと都道府県知事の設定するものとがある。
鳥獣保護区の区域内では鳥獣の捕獲は禁止されているのは当然として,さらに積極的に鳥獣の保護・増殖をはかる目的で鳥獣への給餌,給水,食餌植物の植栽,営巣材料の供与などの施設をおくことになっており,これらの施設を移転,汚損したり,破壊してはならないとされている。そしてそれぞれの保護区には管理担当者として鳥獣保護員がおかれている。
保護区域内では鳥獣の捕獲は禁止されているが,森林所有者の林業活動などへの配慮もあって,土地の利用,開発,森林の伐採などに対する規制はない。また,立木竹などに大きな害を与える有害鳥獣については,環境庁長官または都道府県知事の許可の下に捕獲,駆除を行うことができる。ただし特別保護地区として指定された地域では森林の伐採,地形の変更,水面の埋立てなど鳥獣の生存,繁殖に害を与えるおそれのある行為については知事の許可を要するとされており,保護区としての規制が強化されている。なお,1978年の改正で特別保護区の規制の強化がうたわれ,立木竹以外の植物や落葉落枝の採取,火入れ,イヌその他鳥獣に害を与えるおそれのある動物をいれることなども許可を要する行為として加えられた。2001年4月現在で,国設鳥獣保護区は54ヵ所49万3000ha,都道府県設のそれは3831ヵ所309万haで合計3885ヵ所358万3000haに及び,国土面積の9%に達している。
鳥獣保護などの指定は区域と期間が定められており,恒久的に固定されたものではない。そのため,鳥獣の保護・増殖を目的とするといいながらも徹底した処置とはいえない。なお,鳥獣保護区に関連して休猟区がある。これは3ヵ年以内の期間を限って指定の区域内での鳥獣の捕獲を禁止し,鳥獣の増殖をはかるため設定されるものだが,狩猟を対象とした処置である。このほか,国立公園の特別保護地区,自然環境保護地区,公道,社寺境内,墓地などでは鳥獣を捕獲することが禁じられている。
欧米においては古くから鳥獣保護増殖のための制度がみられた。日本でも古くは大和・奈良朝時代以来,貴族階級の狩猟を目的として一般の狩猟を禁止することがあった。平安時代の禁野(しめの)の設定,鎌倉時代の鷹狩りの禁止などである。江戸時代には将軍,諸大名の狩猟の場は一般の猟を禁じ保護されていた。明治以降,鳥獣の乱獲が行われたが,1895年に狩猟法が公布され,捕獲法の規制,捕獲禁止鳥獣の指定などが行われた。1901年には禁猟区が制度化されたが,50年鳥獣保護区が設けられ,63年の法律改正によって保護区内に特別保護地区が設けられ,禁猟区は廃止された。
→動物保護区
執筆者:堤 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
旧称禁猟区。禁猟区は狩猟を禁止して野生鳥獣を増やす区域。鳥獣の増殖事業としては消極的であるので積極的に保護増殖を図るべく制度化したものが鳥獣保護区である。「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(大正7年法律第32号)に基づき、国有地か2都府県にまたがるものは環境大臣が、その他のものは都道府県知事が、中央環境審議会(旧、自然環境保全審議会)に諮問して設定する。
鳥獣保護区は、森林鳥獣生息地の保護区、大規模生息地の保護区、集団渡来地の保護区、集団繁殖地の保護区、誘致地区の保護区、特定鳥獣生息地の保護区、愛護地区の保護区に区分され、(1)森林地帯、(2)その他の地帯に設定されるもの、(3)地帯区分にかかわらず設定されるものとがある。(1)の保護区は林野面積約1万ヘクタール(北海道では約2万ヘクタール)ごとに300ヘクタール以上の規模で1か所設定し、(2)は干潟、湖沼、湿地などの集団渡来地や、島嶼(とうしょ)、草原などでの集団繁殖地に、(3)は絶滅のおそれのある鳥類またはそれに準ずる鳥獣の生息地や、小・中学校の野鳥愛護地区などに設定する。
鳥獣保護区内では営巣、給餌(きゅうじ)、給水などのための施設の整備、食餌植物の植栽、営巣材料の供与などを行うことになっており、これらの施設を移転し、汚損し、壊し、除去してはならないと規定されている。なお、1971年(昭和46)7月以前に設定された保護区は管理官庁が農林省の外局林野庁であった。その後、環境庁、2001年(平成13)からは環境省の管理下に置かれるようになったが、鳥獣保護区としての効力には変わりがない。
[白井邦彦]
2002年(平成14)「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」は全面的に改正され、かわって「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(平成14年法律第88号。2003年4月施行。2014年「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に名称変更)が制定された。これに伴い鳥獣保護区の区分は、森林鳥獣生息地の保護区、大規模生息地の保護区、集団渡来地の保護区、集団繁殖地の保護区、希少鳥獣生息地の保護区、生息地回廊の保護区、身近な鳥獣生息地の保護区、となった。
[編集部]
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